祭りの後
いつも通り食堂で朝食を取っている。いきなりの運命の変転に気が滅入る。無意識にフォークで肉や野菜をつついていると、また誰か来たようだ。
「ケルテン師匠、ここにおいででしたか?」
サイモンが突然訳の分からないことを言った。顔がにやついている。
「てめえ!なんでそれを。」
「くっくっく!ジョルジョから聞いた。私もよい助言を頂きましたって、喜んで皆に触れ回ってたぜ。」
頭を抱えた。なんだよ、他に娯楽はないのかよ。俺で遊ばないでくれ。
「それともう一つ。」
そういいながらサイモンが袋をテーブルにドンッと置いた。何が入っているんだ?結構重そうだ。
「いや~昨晩は儲かった、儲かった!なんせ10倍の鉄板レースだ。」
サイモンが袋をひっくり返して中身をテーブルにぶちまけた。大量の金貨の音に食堂にいた連中が寄ってくる。
「あ・あ・あ~お前・・・これ!」
俺は声にならない声を出して、ゴールドの山を指差す。1000Gどころじゃない。その倍はあるか?
「昨日の夜な酒でも飲もうと城下に出たら祭りやってて、でな!主催の決闘の賭けに有り金全部お前に賭けた。ああいうのって普通掛け金に限度額あるだろ!でも無茶な条件にお前に賭けるやつがほとんどいなくて、胴元がお前に限り限度無しでのってきた。いや~お前格好よかったよ。」
もういい。もういいよ。お前、俺をおもちゃにして喜んでるな。
「よお~し、今日は全部俺のおごりだ。皆ここでなら何食ってもいいぜ!」
そして朝から酒宴が始まった。
「ケルテンに!」
「サイモンに!」
「かんぱ~い」
俺はこの馬鹿騒ぎに巻き込まれないよう逃げ出した。昨日から逃げてばっかいる。
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あいつら呪ってやる。後で大臣と隊長にたっぷり叱られるがいい。俺はぶつぶつ言いながら街中を歩く。見事なまでに人が俺を避けていく。きっと怖い顔しているのだろう。それはまあどうでもいいとして、目的地は昨日の宿屋である。あの連中がいればいいし、いなくても手がかりくらいはあるだろう。はたして・・・?
結論。連中は宿屋の一室に篭っていた。あの後ここに逃げ込んだはいいが、外の喧騒に一歩も出ることができなくなったらしい。3人とも目の下に隈ができている。眠れなかったのだろう。
「なんだよ。負け犬を笑いに来たのか。強い強い兵隊さんよ!」
「強いってのは気分がいいんだろうな。やる前から俺達のことを馬鹿にしていたのだろう?」
「1000Gなんて払えねえぜ。ないもんはないからな。」
なるほど。いじめられて拗ねてる状態だ。強くも出られず、かといって逃げるに逃げれないから開き直ったか?
「まあ馬鹿にしていなかったと言ったら嘘になる。だが事が終わった後、笑いに来る趣味は無い。だがやることはやらないと俺が大臣に怒られる。」
ここで言葉を止める。かなり心配そうな顔をしている。
「まず昨日の通り勇者は解任させてもらう。それと賠償金1000Gだが今すぐ払うのは無理なのは分かっているから、魔物の素材の優先買取の権利だけは取り消さずこれで支払ってもらう。」
「嫌だといったら?」
「ああその場合はもっと簡単だ。王様に対する詐欺ということで死刑だ。逃げても無駄だぞ。あの血の契約でどこに逃げても居場所が分かる。だから逃げるのあきらめろ。俺も追うのは面倒くさい。」
「分かった。死刑になるのは嫌だ。」
残る二人に同意を求める。当然縦に首が振られる。
「よし、では詳しいことをつめようか。買取金額のうち半分は即賠償金としてもらう。残る半分は自由に使っていい。その金で余分に賠償金を払おうが、生活費や装備などに使用するのも自由だ。最高で三人で6000G相当の素材を買い取ることができるな。」
「えらい段取りがいいな?もしかして最初から決定事項か?」
「残念ながらそうだ。かなり悪辣な罠だよ。大臣に聞いたときもそう思った。まあ高い授業料と思うんだな。」
「高過ぎるよ・・・。」
3人がため息をついてうなだれた。
「あと一ヶ月に一度は報告に来てくれ。もし遠征で一週間以上連絡が取れなくなる予定がある場合も事前に相談してくれ。具体的に言うと徒歩なら伝承の町までは3日、北の村は5日、湖上都市なら2週間はかかる。湖上都市近辺でまれに見られる金のゴーレム、あれなら片手だけでも1万ゴールドになるぞ。」
ここで三人の顔を見る。
「なあ、人の顔を値踏みするように見ないでくれ。」
「いや悪気があるわけじゃない。どの程度までならいけるか考えていた。」
「で、俺達にいけそうなのはどこまでだ?」
「そうだな。二、三日はここ近郊で遠征費用を稼ぐ。その後伝承の町への遠征で野営に慣れるべきだな。あとは帰ってきてから相談だ。」
この間3人は呆れたような顔で俺を見ていた。
「何?顔に何かついているか?」
「あんた自分が何言ってるか分かってるのか?その見識と自信はどこから出てくる?むしろあんたが勇者だって名乗りでてもいいぐらいだ!いや今からでもそうするべきだ。」
確かにそう言われりゃそうだ。自分は勇者の血をは関係ない。そう思っていたから全く気付かなかった。
「まあ、俺のことは置いといて、君らの話を続けよう。さっきも言ったように遠征になれてくれ。平和だった半年前とは違うんだ。いいな?」
「はあ。最初からあんたに会えてればよかった。そうすれば多分こんなことにはならなかったのに。なあ、俺らはどうしていればよかったんだ?教えてくれよ。」
しばらく考える。こいつらはもともと銅の剣、こん棒、布の服3着、革の盾を持っていた。で前衛2、後衛1・・・ならば俺ならこうする。
「そうだな。まずもらった300Gで革の鎧を2着買う。ゲオルとクロウの分だ。あとクロウに革の盾を一つ買う。これで残金は70Gだ。ここまでやって残りで遊興にいそしめばよかった。最低でも翌日からの意思が表明できた。あと革の鎧だったら俺には投げられていない。襟がつかめないからな。じゃあ俺は次の予定があるからまたな。」
部屋をでて俺は外に向かう。物分りのいい連中でよかった。もっとごねてくるかと思った。次は勇者51ことガルドだ。大臣の執務室で調べるかな。
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オットマー国務大臣の執務室。簡単に昨日の結末と後始末について大臣に説明する。さして興味もなさそうだ。
「それについてはそれでよい。であとの二人は有望か?」
「分かりません。ただ内一名が私に師事してまいりましたので許可してしまいましたが、よろしかったですか?」
「かまわぬ、些細なことだ。だが役に立たないと判断したなら速やかに放逐せよ。」
相変わらず大臣はある程度の身分以下の人間には厳しい。選民意識の強い人だ。個人的には好きではないが国務大臣ともなると、いちいち下々のことなど気にもかけぬのも当たり前か。
「では残る勇者51について調べます。」
抽斗から勇者51ことガルドの書類をだす。書類に右手、水晶球に左手を置き魔力を送り込む。地図上の光点の一つがより強く光り、水晶球に歩く姿が映し出される。場所は・・・ここと北の村の中間ぐらいか。徒歩にしては脚が速いな。問題は今の所無し。
「では失礼します。」
退室する俺に大臣は一瞥すらしない。