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決闘と反響

ガヤガヤ ガヤガヤ ガヤガヤ ガヤガヤ・・・・・・ いつの間にか宿屋のまわりは人であふれている。いったい何がおきた?窓からこっそり外を覗く。


「偽勇者三人相手に城の兵隊さんが喧嘩売ったってよ!」

「いや勇者は本物で兵隊が因縁つけたって俺は聞いている。」

「え~賭け金は1Gから、今の所オッズは勇者3人が1.5に兵隊が3、おいだれか兵隊にかけるやついないのか!賭けにならないぞ。よし兵隊のオッズは5だ。だれかいないか?」


 いつのまにか祭りの会場になっている。屋台でもでてくれば完璧だ。


「大事になってすまない。うちの女どもが外に触れ回った。最近景気のいい話がなかったから皆話題に餓えているらしい。なんなら今からでも止めさせるが・・・」


「あ~・・え~・・まあしょうがないかな。いや今更止めれる状況じゃなさそうだ。場所だけ確保してくれるかな、10m四方ぐらいでいいから。」


「うちの前では狭いな。若い者に中央の広場を確保させる。しかしお前さんにはつくづく悪いことした。すまない。」


「別に親父さんが悪いわけじゃない。もう謝らないでいいよ。こっちが悪い気がしてくる。」


まだ頭を下げている親父さんに声をかけた。言っても仕方がないこともある。


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 時と場所を移すこと 城下町の中央広場 二時間後完璧な祭りの会場が出来上がっていた。急遽用意された屋台、ロープと簡易な木で作られた10m四方の闘技場。山のような人、人、人。もう10時は回っていて本来なら真っ暗なはず・・・誰だよわざわざ明かりの魔法で照明作ったのは。


「え~それではこれより自称勇者3名と城兵士の決闘を行います。ルールは双方の申し出より決定しています。勇者側は3人パーティー武器魔法など制限無し、兵士は武器無し攻撃魔法の使用禁止となっています。」


 宿屋の親父が立会い人兼司会者となってアナウンスした。


「おい!なんだそれ。勝負にならねえよ!!!賭けるの止めるぞ!」

「え~条件が変わっても掛け金の返金はしません。このまま続行します。なおオッズは1.2対10に変更します。」


 さてとそろそろ登場するとしますか。変装の魔法とか使っちゃ駄目かな。あまり個人として目立ちたくないし、いや駄目だなもう手遅れだ、あきらめるか。 俺は覚悟を決めてとことこと広場にで出て行く。そのあと自称勇者3人も現れた。騒ぎが余計にはげしくなった。


 そうだろうね、俺一見強そうに見えないから。身の丈170cm、筋肉は付いているが細身、顔も普通、しかも武器なし革の服のみ、これが俺の今のスペック。かたや対する三人はゲオルグ身長190弱、結構ごつい体をしている。銅の剣、革の盾、布の服で強そうに見えるな。クロウ身長は俺と変わらないが俺より肉付きはいいようだ。こん棒に布の服。多分三人の中で一番劣る。最後にドゥーマン身長170弱俺より細身ローブ姿で木の杖を持っている。どこから見ても魔法使いだ。大体の戦法は想像できるな。とりあえず準備しよう。まず身体強化の魔法を2回かける。武器強化はいらないか・・・魔法障壁は念の為かけておくか。魔法対策に魔法反射障壁も使いたいが却下だ。あれは派手に効果がありすぎる。遺失魔法は使用がばれたくない。こんなもんでいいだろう。


「最後にこの決闘において故意に命を奪わぬこと、後に遺恨を残さぬこと、双方精霊神の名の下遵守されること。ここにいる全ての者が見届ける。それでは始め!」


------------------------------------

 

 予想通りのゲオルグとクロウが俺の前に分かれて布陣している。ドゥーマンは後ろだ。ゲオルグとクロウが互いに目配せしている。そしてちらちらとドゥーマンの方を見ている。積極的に前に出てくるやつはいない。近接2人で俺を引き付け後ろから火球の魔法で一撃、基本だな。


「おい、せっかく三人もいるんだ。そっちから仕掛けてきな。」


 わざと挑発するように手を振る。動け!形が崩れないと攻め手がない。安っぽい挑発だが効果があったようだ。クロウのこめかみがピクピクしている。


「この野郎!」


 クロウが一歩踏み込み、こん棒を振り上げた。


 そこっ!人間の限界の素早さは伊達じゃない。俺は一足跳びにクロウの懐に飛び込むと、こん棒を振り下ろす右手と襟をつかんだ。


「Parva Ignis(小火球)」


 あせったドゥーマンが火球の魔法を放った。俺はそのままクロウを声の方向に背負い投げる。あえて叩きつけずに放り投げた。火の球が空中で逆さまになったクロウの背中を焼く。


「ぎゃぁぁぁ~!!!ぐふっ!」


 地面に落ちてのた打ち回るクロウに近づき頭にキック。一つ!次、二人目、ドゥーマン側に走る。先程と同じように踏み込む。


「ひぃぃ~」


 ドゥーマンが頭を抱え込んでしゃがみこんだ。おいおい俺がいじめてるみたいじゃないか。しょうがない。


「お前も終わりだ。」


 地面に転がった杖を蹴飛ばす。ここまで二息、見ている者には一瞬で戦局が一変しただろう。静まり返っていた場が騒がしくなった。


ウワアァァァァァーー!!!歓声野中、俺はゆっくりとゲオルグに向かって振り返る。ゆらぁっ~とでも不気味な効果音が聞こえていたらベストだ。


「さて残るはお前だけだ。続けるか?止めるなら今のうちだぞ。」


「なめるな!」


 ゲオルグが激高し銅の剣を振り回す。袈裟斬り、右薙ぎ払い、左横払い、突き。傍からみると猛攻に見えるかもしれない。固唾を呑んで観衆が見守る


 身体強化の魔法。この魔法は最大ですばやさを1.5にする。しかし体が速くなっても意識は付いてこないし、慣性や重力は普段と変わらず発揮する。この状態になれるため結構無理な修行を詰んだ俺にとってこんな大振り見切るのは造作もない。しかし革の盾が邪魔になって懐に飛び込みにくい。いったん距離を置こうとバックステップ。ズルッ!踏ん張りが利かず片膝をついた。やばい!


「馬鹿め!もらったぁぁぁ!!!」


 上段からの真っ向から竹割り。


「キャ----!」


 観客の悲鳴があがった。そして静まり返る観衆。最悪の終わりが想像される。そこには銅の剣を両手のひらで挟み受け止めている俺がいた。いちかばちかの真剣白刃取り、魔法障壁があったとは言え、よく取れたものだ。俺は我にかえると腕をひねり武器を奪い取った。呆然としているゲオルグの腹を蹴飛ばし倒す。


「終わりだな。」


 銅の剣を突きつけ宣言する。


「そこまで!」


 観衆の歓声は最高潮に達した。多分ここにいるとやばい状況になると思われるので退散するとしよう。手にしていた銅の剣を放り出す。あ~うるさい。耳をおさえながら歩く。


「アレフ君。私の刀を返してください。」


 アレフの耳のそばで大声で叫ぶ。


「えっ!ああ、はい、これどうぞ。」


 唖然としていたアレフが我に返り刀を差し出した。


「ありがとう。また会いましょう!」


 俺は群集にまぎれるように姿を消した。遠くに行っても騒ぎの声と明かりははっきりと分かった。


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 5月2日 勇者支援生活2日目


う~ん、よく寝た。もう6時か、あれだけ身も心も疲れてたわりには起床時間は変わらないとは習慣とは恐ろしいな。うわっ、手の平が痛い。見ると昨日銅の剣を受け止めた所が青くなっている。やっぱり無茶だったようだな。銅の剣で助かった、鉄の剣や鋼の剣だったら・・・もうあんなまね止めよう。手足が何本あっても足りない。とりあえず治療しておこう。


《俺はMPを3消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ

  おお、万能たる力よ、血となりて俺を癒せ。》


「Parva sanitatem(小治癒)」


 治療魔法は便利だ。多少の切り傷、打ち身、筋肉痛にも効く万能魔法だ。一人ぶつぶつ言っているとノックの音が聞こえた。


「ケルテン殿、起きていらっしゃいますか。早朝で申し訳ありませんが来客です。」


 誰だよ、朝っぱらから。扉を開けると騎士見習いの一人が立っていた。


「はいはい、起きてますよ。で、来客ってどちら様ですか?私しか駄目なんですか?」


「はっ、はい!名指しです。しかも勇者殿です。」


 はあ?昨日の連中が文句でも言いに来たか?そうだったら嫌だな。他には心当たりないし・・・。


「ではすぐ行きますので、応接室に通しておいて下さい。」


「わかりました。そう手配します。」


------------------------------

ノイエラント城兵士宿舎 談話室


 談話室は非常に重苦しい空気に包まれている。ここにいるのは俺と勇者アレフの2人だけだ。この空気を作った張本人は真剣な目でを俺を見つめている。先程開口一番にとんでもないことを言ってのけた。


「僕を弟子にして下さい。」


 それから5分ほどずっと沈黙が続いている。俺はさっきから考えているのだが考えがまとまらない。個人的に一人の勇者についていいものか?俺に何か教えることができるのか?俺自体何人かに師事したが基本独学で覚えたことの方が多い。そもそも昨日の決闘を見て、何か感じるものがあったのか・・・?さっぱりわからん。


「ゴメン。よく分からないのだが何を師事するつもり?」


「全部です。必要なら武器も変えます。魔法もできる限り覚えます。」


「ああ、それは駄目。いくら私の真似しても強くはなれない。今持ってる技術を昇華させるようなことをしないといけないよ。私と君は同じじゃないから。」


「それです。」


 急にアレフが大きな声を上げた。


「えっ、何が?」


「そういう考え方です。私にはそういう何かが足りません。孤児だった私は生きる為に武器を振っていました。更に必要なので魔法もかじりました。一応初歩の魔法は使えます。でも何か足りないのです。昨日の決闘を拝見してこの人だと思いました。」


 なるほど、今まで必死で生きてきたのか。よく曲がらずにいたものだ。


「OK。分かった。でもさっきも言ったように一から十は教えない。君が持ってる三なり五なりを十に近づける。そういう方法を教える。それでもいいのなら?」


「はい!それでかまいません。師匠。」


「ああ、それも嫌だな。俺にはケルテンという名がちゃんとある。肩書きとかで呼ばれると俺が俺で無くなった気がする。だったら俺も君のことを勇者55で呼ぶよ。」


「勇者55?」


「知るわけないか。君は5月の5番目に申請してきた勇者と城では認識している。失礼な話だろう。」


「では昨日の3人も?」


「そう、かれらは勇者52、53、54だった。んっ?あれっ?俺あの場から逃げたから正式に解任してない。また探さないといけないか。まあいい、それは置いといて俺のことはケルテンと呼んでくれ。」


「わかりました。では私のこともアレフと呼んでください。養父から頂いた大事な名前です。ケルテン師匠。」


「わかった、アレフ。今からお前は俺の弟子だ。ではまず技量がみたいから訓練場に行ってくれるか。案内はさせる。」


 そして騎士見習いを呼んで案内をさせる。俺は自室に戻り自分の刀を佩き、アレフに使わせる鉄の剣と鉄の盾を持つ。これは支給品だが使っていない物だ。鉄の剣は市販では売っていない。正規兵の武器である為一般には販売が禁止されているのだ。


----------------------------------

 兵舎訓練所 ノイエブルクの兵士は特に訓練義務があるわけではないが、一般的にここを使用して自己鍛錬を行なう。俺は毎朝一時間半ほど刀を振っている。


 さてアレフと騎士見習いの2人がいる。とりあえず重いので鉄の剣と盾は足元に置く。


「あ~君、名前は?」


「はっ!ジョルジョといいます。」


「そんなに緊張しなくていいよ。じゃあジョルジョ、アレフと木剣と木盾で模擬戦をやってもらう。双方手加減はいらない。もちろん攻撃は当てること。とりあえず三本勝負でいいかな?」


 目の前で模擬戦をやらせる。ジョルジョ君は流石騎士見習いらしく正当な剣術を使う。基本に忠実でフェイントの使い方も教科書通りうまいもんだ。だがまだ体ができていないからまだ剣筋が甘い。嗚呼、そういえば不思議なのがサイモンだ。昔初めての模擬戦をした時、片手剣に盾を持つ正統スタイルで前蹴りをかましてきた。同じ剣術とは思えんな。いかんいかん、考えがよそに行った。一方アレフには型がない。力も素早さも相手より上だから通用しているだけだ。だが、まだまだ可能性はありそうだ。三本勝負の結果は、アレフ二本、ジョルジョ一本が取った。


「さて先に品評をしておこうか。まずジョルジョ君。君はそのままでいい。ただフェイントに固執しすぎだと思う。うまくいくと気分がいいのは分かるが、たまには気合の一撃を入れるといい。それでフェイントが生きる。次アレフ、君は身体能力に頼りすぎ。多分格下には強いが格上には通用しない。とりあえず基本の剣筋を確立しよう。それとジュルジョ君ご苦労様でした。また相手をしてやってくれ。」


 騎士見習いのジョルジョが立ち去ってから、先程放り出しておいた鉄の剣と盾をとってアレフに渡す。


「まず先に行っておくが、理解できないことがあったら必ず質問すること。理解しないまま訓練しても身につかないから。また納得できないならいつ師事することを止めてもかまわない。ただしその場合は必ず口で言ってくれ。いいな。」


「わかりました。でも師事を止めるなんてありません。絶対に。」


「よし、練習だけになるがその剣と盾を使ってくれ。やっぱり本物を使わないといけない。とりあえずそれを持って構えてくれ。」


 アレフは右手の剣を少し掲げ、左手の盾を前に出す。左の軸足を少し前に出し、かるく腰を落とした構えをとる。悪くない構えだ。


「それがいつもの構えか?」


「はい。何かおかしいですか?」


「いや別におかしなことはないよ。その状態が基本だ。」


「基本?」


「ああ、気にしなくていい。ではそこの木偶を思いっきり斬りつけてくれ。」


 木偶とは直径10cmぐらいの木を十字に組んでそれに麦わらを巻きつけた物。必要ならここに甲冑を着けて使う。アレフは剣を思いっきり叩きつけた。剣は振り下ろしたままだ。


「まずそこ、攻撃の後は必ず基本の型に戻す。」


「あっ!」


「まだ敵は倒れていないかもしれない。だから次に備えた姿勢に戻す。じゃあ次は木偶の無い所で素振りをしてくれ。ただしさっきと同じ威力のままで。」


 アレフは思いっきり剣を振り下ろし、基本の型に戻す。そしてこちらを笑顔を向けた。


「そうだ、それでいい。では次はその一連の動作を100回繰り返す。」


 これが結構大変だ。見ていると半分位から振り下ろしが甘くなり、基本の型への戻りも不正確になってきた。一応終わったアレフは、肩で息をしている。


「結構きついだろう。まずこれができるまで他のことはしなくていい。最終的にこれを1分の休憩を挟んで10セットできるようになってもらう。腕が動かなくなったら回復魔法を使うといい。」


「でもこんなので強くなれますか?」


「これはそれ以前の問題。さっきのジョルジョもこれに近いことをやってるはず。ちなみに」


 俺は刀を中段に構え、一瞬の振り上げの後振り下ろす。そして中段に構えなおす。これを100回繰り返す。これだけやって息もきれないしおよそ3分で終わる。


「俺のはこんな感じだ。10年毎日やっている。まあ一週間でこれぐらいはできてほしいかな。午前中はここを使っていい。午後からは魔物を狩ってくること。弱い魔物でもいいから基本を抑えながら戦うこと。ついでにお金も稼ぐこと。では俺も日課の続きをするからアレフも続けるように。」


 俺はいつもどおり刀を振る。振っている間は他の事は何も考えない。目の前にいるイメージを斬る。ここ一ヶ月の仮想敵は近衛隊長である。10セットが終わったら次の型に移る。自然体で立ち、居合いからの右切り上げ、振りかぶって両手持ちで幹竹割り、納刀の一連の流れを100本、10セット行なう。ふと我にかえると隣でアレフがあっけにとられていた。


「おいおい、手が止まってるぞ。」


「すみません。なんかすごくて。」


「毎朝ここにいるから、そのときだけ教えてやる。じゃあ俺は終わったら行くからあとは自分で続けなさい。剣と盾は終わったらその辺の見習いに返しておいて。」


 言うだけ言うと俺は練習場を立ち去った。今日はやることがいっぱいあるからあまり付き合ってやれない。昨日の連中を解任しなくてはならないし、賠償金の支払い手続きもいる。さらに勇者51はどこへ行ったのか気になる。今日も忙しくなりそうだ。

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