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4人の勇者

 城下町を歩く。ノイエブルクの城下町はとても大きく公称の人口で10万人、魔王出現後は集落を失った民が流れ込んでいて20万人とも言われている。10万人といえば多く感じられるかもしれないが、通常兵士一人を維持するには千人の民が必要といわれているので、このぐらいの人口がなければ騎士団は維持できない。ちなみに各地の人口は北の村5000人、伝承の町8000人、湖上都市20000人、砂漠都市30000人、城塞都市50000人とされており、またそれ以外にも小集落が多数ある。湖上、砂漠、城塞の三都市は毎年多額の金を払うことで自治権を得ている。ただし砂漠都市は半年前に魔王軍によって滅んでいた。


 さてさっきの勇者達の光点の位置はたしか王家御用達の宿屋の辺りだが・・・なんだ俺が使っていた定宿じゃないか。この宿は俺も結構世話になってたし挨拶ぐらいしておくか。しかしここの宿代は50Gほどだったと覚えているが、もしかして勇者割引でとんでもない値段になるのか?と、しょうもないことを考えながら宿屋に入る。人の良さそうな親父がこちらを確認する。


「久しぶりです。親父さん。」


「おお学者か?城への任官はどうなった。ひと月も音沙汰無しで心配したぞ。」


「すみません。かなり忙しかったもので。」


 心底うれしそうな親父さんがボトルを取り出しながら言う。


「ということは無事任官できたんだな。それはめでたい。今日は奢らせてもらうよ。」


「いやゴメン。まだ任務中なんでそれはまた今度で。」


「ふ~ん。まだ仕事ってどこに配属された?お前の腕なら一般兵ってことはなかろう。」


「うん。知らないかも知れないけど国務大臣付き特務隊士。」


 その名を聞いて親父さんの顔が曇る。その表情からは心配そうな感情と嫌悪が感じられる。あまりいいイメージがないようだ。本来は国務大臣の下、裏で暗躍するのが仕事である。俺の顔色を見て親父さんの顔が元に戻った。


「いや、その任務自体は問題ない。まあできれば補助金の金額をもう少し上げてもらえると助かるが・・・。いや今のは忘れてくれ。」


???なんか都合の悪いことでもあるのか?


「特務隊士なら勇者の視察だな。5月の勇者が4人ほどチェックインしてる。内3人の態度が異常に悪い。女の従業員に手出すは、部屋にけち付けるはで散々だ。全くあんな安い金でVIP扱いしろって冗談じゃない。・・・ああ城批判じゃないからな。念のため言っておく。」


 はあ。補助金も大した額ではないようだ。気の毒でしょうがない。しかしまあやっぱあの三人は駄目なようだ。気が滅入るな。


「そうですか。で、そいつらはどこですか?」


「さっき出て行った。ただで飲ませてやる酒はないって言ってやったら椅子蹴飛ばして出て行ったよ。」


「じゃあ。待たせてもらうよ。水もらえる?」


 俺はカウンターに腰をかけた。親父がグラスに水をいれてよこす。


「水だけでなく何か食べていってくれよ。結構もらってるんだろ?」


「残念ながら初任給は四日後だ。しばらく我慢だ。それとこれから荒事になりそうなんで、あまり腹を膨らませるわけにはいかない。」


「そうか?契約金とかあるはずじゃないか?」


どうしてもお金を使わせたいらしい。蓄えもあるから出せないわけではないが、親父が期待している契約金は懐にはない。


「嫌なこと思い出させるね。契約金は推薦者の養父のものだよ。」


「お前の義父って、確かあの町長だよな。」


「そっ、全部税金だよ。去年は魔王のせいで十分な税金が集まらなかったらしい。なにが城で見識を深めて来いだ。俺はこの城に売られたらしい。」


「仕方がないさ。城の取立てはかなり厳しい。お前さんの養父も苦労してるはずさ。」


「分かってるよ。別に恨んだりしてないさ。ただ文句の一つくらい言ってもいいだろ?


 自治権との引き換えの税金が各都市にある。これはその年の取れ高を考慮したりしない。だからお金や物で納められない場合は人で払う場合がある。その場合町で優秀な人材を城に推挙し契約金という形で納めたことにするのである。前例では近衛騎士になった者は数えるほどしかいないらしい。それでも一万Gだったらしいから、俺の10万Gは破格だ。湖上都市町長と近衛隊長の推薦を聞いた大臣の顔は見ものだったらしい。まあ栄転ということで喜んでいる人が大多数だし、王立図書館の閲覧ができるようになった俺はその言葉どおり見識を深めることができてご満悦である。


 宿屋の入り口の扉が音をたてて誰か入って来た。若いというより幼さの残る顔をしている。見覚えがあるような気がしないでもない。たしか勇者55、ああ駄目だ駄目だ、番号で呼ぶのは頭の中といえ失礼だ。え~とアレフだ。


「只今戻りました。食事をお願いしたいのですがお金が少ないので一番安いので。」


「わかった。食事はどこへもっていけばいい。ここか?部屋か?」


「ここでお願いします。」


 やけに低姿勢だな。まあ威張り腐っているよりは十倍はましだ。銅の剣、革の盾、皮の鎧。鎧が真新しいということは買い替えたのか。俺が勇者アレフを見定めていると俺の隣で直立した。


「先程謁見の間でお会いしましたね。勇者アレフです。多分これからお世話になると思います。よろしくお願いします。」


 驚いた。俺は覚えていないのに俺を覚えている。


「おっ、おう。俺は勇者支援官のケルテンという。こちらこそよろしく。」


「王様にお礼を伝えてください。鎧を買い換えることができました。」


 なんか雰囲気に飲まれて敗北感でいっぱいである。謙虚さでも人は押されることあると分かった。


「ええ、必ず伝えます。君も頑張って下さい。」


「もう挨拶はいいだろう。さあ食事だ。食べて英気を養いな。」


 宿屋の親父さんが食事をテーブルに並べる。結構な量だ。


「あの私が頼んだのは一番安い食事でしたが・・・?」


「いいんだ。若いんだ、たくさん食べて強くなってもらわないとな。勇者様だろ。」


「そうだ頂いておけ。城から補助金もでているしな。なっ親父!」


 補助金の話でまた親父の顔が少し曇った。一瞬の間の後俺と親父は大爆笑する。アレフはあっけにとられている。不愉快なことだらけの今日一日だったがこいつに会えてよかった気がする。


------------------------


 ドーン!


 宿屋のとびらが乱暴に開いた。せっかくのいい気分が台無しだ。同じく親父もアレフも嫌な顔をしている。


「おらっ!勇者様のお帰りだぁ~。」


 女の肩を抱いた酔っ払い3人が入ってくる。反対の手には酒瓶。テーブル席のあたりを占拠すると酒盛りを始めた。先程水晶球で確認した装備と全く変わってない。同行している女は安っぽい香水の匂いにあからさまな露出度の高い服、いかにもな感じだ。さてどうしたものかな?どの程度から詐欺罪って申告できたかな?


「ねえ、いっつもお金がないって言ってたのに今日はどうしちゃったのぉ~?」

「そうよ!いつも冷やかしばっかだったのにぃ。」


「そりゃ言えねえな。お金はあるところからもらえばいいんだよ。げっ、ひゃっひゃっひゃ~!」


「何よそれ。教えなさいよ。教えてくれなきゃ帰る~。」

「そうよ。あんた達だけず~る~い~。」


 完全にできあがってるな。もう少し泳がせたら全部しゃべってくれないかな。娼婦頑張れ!今お前達は優秀な検察官だ。


「誰にも言うなよ。秘密だぞ。秘密だからな。絶対言うなよ!」


「うん絶対言わない。私達の秘密ね。」


 もう一息だ。安宿に秘密などない。酔っぱらいにはそんなことは理解できないらしい。


「じゃあ言うぞ。実はな、城に行ってなにを隠そう私が勇者の末裔です。ってやってやった。」


「え~!三人とも~。それってなんか変じゃない。」


「細けーことはいいんだよ。それでとりあえず100Gもらえたんだからよ。あとは弱い魔物でもいじめてもっと金もらってくるぜ!」


 おいおい、一番弱い魔物は一匹で1Gにしかならんぞ。いや突っ込む所が違うな。言質は取れたことだし、お仕事お仕事、そう思っていたら隣にいたアレフが酔っぱらいの前に立っていた。


「あなた方恥ずかしくないんですか!勇者の末裔を偽証し、あまつさえそれで得たお金で遊興に走るとは恥を知りなさい。」


「なんだぁお前。なにをガキみたいなことを言ってるんだ。って本当にガキじゃねえか!ガキは帰ってお寝んねの時間ですよ~だ。」

「そうよ!もう少ししたらお姉さんがお相手してあげる。」


 娼婦の一人が立ち上がるとアレフに近寄って真っ赤な唇を近づけようとした。アレフは慌てて払いのけた。


「止めてください。私はこの人達と話をしているのです。」


「うるせえ!こっちはお前なんかとする話はねえな。」


 あかん。そろそろ止めないと収拾が付かなくなる。俺は立ちあがってアレフの肩をポンと叩く。


「ああ、君は正しいがそれだけでは世界は回らない。あとは任せてくれ。」


 そして酔っ払い3人に向かって話しかける。


「では改めて、私は勇者査察官ケルテンと申します。役儀によって勇者ドゥーマン、クロウ、ゲオルグ3名を解任します。尚、血の契約において重大な偽証があるゆえ全員に1000Gの罰金を申し渡します。意味は理解できますか?」


「なっ!てめえ何言ってやがる。」


「理解できませんでしたか?私は勇者の査察官をしています。つまり私の権限で勇者を解任することができます。ここまではよろしいですね。」


 皆静まり返っている。そこの酔っ払いも娼婦達も宿屋の親父、勇者アレフも。


「勇者の解任には次のいずれかの理由が必要です。まず勇者の力量に足りない者、こちらとしても無理に命を失わせるのが目的ではありませんし、支援には限度がありますから弱い者は辞めていただくことになります。次に勇者として器量の足りない者、これは素行の悪い者は魔物となんら変わりないと言うことです。勇者の名前の下、軋轢がうまれては意味がありません。そして最後に目的遂行の意思のない者、これにいたっては論外ですね。あなた方はこの3点すべてに当てはまります。」


「異議有り!」


 一番弱そうなドゥーマンが何か言い出した。異議有りときたか。ここに至って何を言い出すか面白そうだ。


「俺達はいま酔っ払っているが、これは明日からの活躍に向けて英気を養っているだけで目的遂行の意思がないわけではない。」


「なるほど。続けてください。」


「それに素行が悪いとおっしゃられるが、これは酒による一時の過ち。どうかご甘受願いたい。」


 こいつ結構弁がたつな。ローブ姿だから魔法使いタイプか?


「そして力量が足りないとおっしゃられたが試しもせずに判断はできないのではないのですか?」


 なるほど詭弁とは言え、一応反論として成立している。


「分かりました。では力量を試させていただきましょうか。実践形式で結構です。」


「ちょっと待て、今俺達は酔っていてまともに戦えな「かまいません。酔いを醒まさせる方法がないわけではないですから。親父さん、例の特別ジュ-スを3杯頼みます。」


 こいつらの戯言にいつまでも付きあってられるか!こんな嫌な顔を見るのは今日で最後にしたい。


 しばらくして目の前に緑色のドロドロした液体が運ばれきた。これは昔考案した対酔っ払い用の特別ジュースだ。製法は簡単、毒消し草をすり潰し適当な果汁とシェイクした物だ。アルコールは一種の毒なのである。解毒の魔法を使えばもっと簡単なのだがこの時代には無いのでここでは使用しない。


「さあ、グググッと飲み干してください。私のおごりです。10分もすれば酒が抜けます。ああ、まずいのは我慢して下さいよ。」


 しぶしぶ飲み干す3人。とても不味そうだ。というか実際不味い。親父もカウンター内で苦そうな顔をしている。俺はカウンターに50G置く。


「お釣りはいりません。必要経費ですから。では、酔いが醒めるまで試験の方法について話しましょうか。何か条件があったら聞きますのでどうぞ。」


「条件って何を?」


「ふう、何も考えていませんか。どんな戦いでも最低限の条件はあります。ルールと言ってもよろしいですね。例えば騎士同士の試合は双方同じ装備同じ人数で魔法無しで行います。一方冒険者ではほとんど決め事はありませんが宿屋の中ではやりません。大事な仕事の斡旋場所ですから暗黙のルールです。」


「じゃあ、俺達はいつも三人で行動している。だからこちらは三人でやる。」


「結構、それでいい。他には?」


「あんたのその武器はずいぶん立派だ。不公平じゃないのか?」


「おい!何勝手なことを言っている。あんたらは3人でさらに武器ま「アレフ君、私の為に怒ってくれなくてもよろしいです。その条件もOKです。じゃあこれはアレフ君に預けておきましょう。で、これだけでいいですか?」


 刀を鞘ごと抜くと勇者アレフに渡した。


「じゃあ場所はすぐ外の道路上でいいな。まさか城の兵隊さんが街中で火や雷の魔法をぶっ放したりしないよな。火事にでもなったら大変だ。」


「なるほどその通りです。忠告ありがとうございます。では私は攻撃魔法を使用しないことにします。」


 よほど自分たちのとりつけたルールがうれしいのか奴等の顔色がよくなってきた。赤くなったり青くなったり戻ってみたり顔色だけで忙しいやつらだ。


「おい、本当に大丈夫か。必要なら城に行って騎士を呼んでくるが?」


「心配ないよ、親父さん。まあ見てなって。」


 30分後、3対1 さらに不公平なル-ルの試合が始まることになった。

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