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旅の前に

 部屋に戻りガイラの荷物を持ち出す。二人を探す、もう病錬にはいない、どこへ行ったのだろう。城の中を探すがいない・・・結局見つけたのは宿屋だった。


「ここに移るのなら先に言っておけよ。」


「すまん、あそこは居心地が悪くてな、昨日の内にこっちに移った。」


「そうですよ、ケルテンさん。ここの宿屋の方が気楽でいいです。」


 そういわれて嬉しそうな宿屋の親父がいる。なんか気持ちが悪い。


「まあもっともな意見だな、さっきも近衛の連中と衝突してきたばかりだ。」


「もしかして僕達のせいですか?そうだったら・・・」


  アレフがとても申し訳なさそうに言うのと遮る。


「違う、お前達は関係ない、俺個人の問題だ。君らのせいじゃないから気にしないでくれ。それとガイラ、預かり物を返す。」


 そういってガイラの背嚢を投げて返した


「篭手を直しておいた。」


 ガイラは袋から赤い篭手を取り出す。派手な色に顔をしかめた。


「なんだこれは?派手すぎじゃないか、赤はないだろう。」


「だってしょうがないじゃないか、使える素材が赤飛竜のしかなかったんだ。それでも前より性能は上がっている。文句があるなら今度はドラゴンの皮でも持って来い。」


 そう説明するとガイラがこねくり回してあちこちを見ている。


「おい、ここの宝石みたいのは何だ?」


 どうやら篭手の先端の裏側につけておいた水晶に気づいた様だ。


「ああ、念の為だ。この間みたいになったら困るからな。保険をかけておく。それに一滴血を垂らせば完成だ。」


「ふ~ん。こうすればいいのか?」


 そう言いながらガイラが指の先端を噛み切る。垂らされた血で水晶が真っ赤に染まった。


「ああいいぞ、まあこんな物役に立たない方がいいがな。アレフ、治してやれ。」


「はい、・・・Parva Sanitatem(小治癒)。それで・・・僕の分はないのですか?」


「何が?」


「いえ、その宝石みたいのです。ケルテンさんもマギーさんも持ってますよね。」


「なんだ、知ってたのか。もしかして欲しかったのか?」


「いえ、お二人だけなら迷惑かなと思っていたんですが、ガイラも貰えるなら僕も欲しいかなと。」


 そうか、欲しかったのに遠慮していたのか。


「ああ、宝石はある。お前の装備はまだ買い換える余地があるからどうしようかと思っていたんだ。何かあるか?」


「それで思い出しました。前にこんな気持ち悪いペンダントを見つけたのですが・・・」


 アレフが袋から髑髏のついたペンダントをだす。どこから見ても呪われていそうだ。


「よくそんな物、持って帰ってきたな。」


「こいつな迷宮の地図を全部埋めるまで、次の階に降りないんだ。それで無駄にいろんな物を見つけたんだ。」


「凝り性か、俺に似ているな。まあいいや、それは呪いのペンダントだ。身に付けると徐々に命が奪われる、しかも一度身に付けると手放すのが惜しくなると聞いている。売却するなよ、流通されては困る。」


 慌ててアレフがテーブルの上に放り出した。


《俺は魔力Pを18放出する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ

おお万能たる力よ、聖なる力となりて、これを浄化せよ!Discute(解呪)!》


 俺は魔法を使用すると髑髏の部分に触れた。髑髏が砕け散る、残ったのは鎖と空のペンダントヘッドだけ。アレフとガイラ、それと宿屋の親父が目を丸くしている。


「今の何やったんですか?」


「うん!ああ言った古い物には結構呪いのアイテムがあるからな、解呪の法を知っているんだ。」


「お前さんには驚かないと決めていたが無理だったな。」


 俺は自分の鞄から幾つかの道具を取り出す。ハンマー、ナイフなどを使ってペンダントヘッドを加工する。別に取り出した水晶をペンダントヘッドに嵌め込む。しばらく作業を続け出来上がったペンダントをアレフに渡した。


「これでいいか?よかったらさっきみたいに一滴血を垂らせ。」


 アレフがしばらく眺めてから、ナイフで指先に傷をつけた、垂らされた血で水晶が真っ赤に染まった。


「これで4人ともお揃いですね。嬉しいです。」


 アレフが首にかける。お揃いね・・・なんとも平和な響きなんだろうか。


「さっきも言ったが役に立たない方がいい代物だ。それとガイラ、拾った物をむやみに触るなよ。王様や大臣から自重せよとありがたい言葉だ。俺が湖上都市に行って帰ってくるまで無理はするな。」


「そうか、それは退屈だな。なんだったら同行しようか?」


 ガイラの何かを期待するかの様に提案する。こいつは一度死んだくらいでは懲りないのだろうか?


「駄目だ。任務で行くのだから遠慮してくれ。その間には近隣だけにしてくれ。遠くてもラオフまでだ。」


「了解。」


「というわけで10日は戻って来れない。その間は無理はするな。次の目標はセンドラーだからそれに備えて金は貯めておけよ。」


「現状で5万ゴールドはありますよ。」


「5万!それはすごいな。ならそれで足りるだろう。あの町には強力な武具を売ってくれる伝手がある。今の技術では作れない代物だ。楽しみにしてろよ。」


あの町は商人の町を名乗るだけあって、玉石混淆、多数の商人がいる。その中に貴重な物を売っている商人を数年前に見つけた。今でもあの店はあるだろうか?


「それより学者、俺達が死ぬ思いで取ってきた宝玉はどうした?」


「当面は預かっておく。人目につくとやばいから誰の目にも触れない場所に安置する。場所は教えない。」


「ん~、なんか釈然としないが仕方ないか。どう見ても1万や2万の価値はありそうだ。」


「まあそんなところだ。必要になったら返すから安心して俺に預けてくれ。それよりアレフ、こいつが無茶をしないよう見張っていてくれよ。」


「お任せ下さい。殺してでも止めます。」


「そうだ、その意気だ。」


「おい、なんかおかしくないか。目的と手段が間違ってるぞ。」


「じゃあ自重しろ。じゃあ俺は行くぞ。」


 宿屋を飛び出し、一旦城に戻る。図書館の奥、仮称勇者の部屋に水の宝玉を片付けておく為だ。ついでにマギーに出かけることも言っておく。


「マギー、また出かけることになった。今度はアウフヴァッサーだ。10日は戻らない。」


「10日?また任務なのね。いっそのこと転移の魔法を公開してはどう?」


「いや、いずれ公表するとしてもまだその時は来ていない。」


今公表したらあの町に大挙して避難してくる可能性もある。あまり急激に人口が増えることは望ましくない。


「そう、まあいいわ。出かける前に私の屋敷に寄ってくれる?」


「君の屋敷に?」


「ええ、シャッテンブルグから必ず招待する様言われているわ。この間のお詫びとお礼をしたいって。」


「いいよ、そんなの。別に詫びも礼もされるようなことはしていないし。」


「駄目よ。お礼を言いたいのはシャッテンブルグだけじゃないのよ。」


 今すぐに城下町を出て湖上都市に行きたいのだが、そうは行かないようだ。うまくごまかせないかな。


「なら今日の夜にでも行かせてもらうよ。」


「いいえ、今から迎えに来る様伝えるわ。」


「分かった。」


 もうそれ以外に言うことはできなかった。マギーが自分の屋敷に使いを出す。しばらくして正装したシャッテンブルグとその他使用人が俺たちを迎えにきた。


-------------------------

 ヴィッセンブルン家の屋敷は城下町でも城に近い高級住宅地にある。何度か訪れたことはあるが馬車に乗って入るのは初めてだ。マギーの使用人に連れられて屋敷の中を歩く。長いテーブルのある部屋に通された。


「先日は大変失礼致しました。お詫びとお礼を兼ねて本日の晩餐を用意しました。お楽しみ頂ければ幸いです。」


詫びや礼をされるようなことをした覚えがないのだが?そう言ってやろうと思ったが止めた。野暮なことを言うべきではない。そう思わせる雰囲気がある。無言に近い中で晩餐が進んでいった。

 

「一つ聞いてよろしいでしょうか?」


 食事が終わる頃になってシャッテンブルグが遠慮がちに小声で話かけてきた。


「何でしょう?」


「先日の魔法ですが、あれは魔法を反射する魔法と解釈してよろしいでしょうか?」


 俺が質問に答えることを了承すると一礼してからそう質問してきた。なるほど、これが本題か。


「正確には魔法を反射する鏡を展開する魔法ですが、その解釈でも間違っていません。」


「答えて頂き感謝致します。不躾とは存じていますがあの魔法を教えては頂けないでしょうか?」


 どうしようか?答えを考える前にマギーの方を見る。どうやら気づいていないようだ。


「日常的には必要のない魔法と想いますが、理由を聞いてもよろしいですか?」


「私は使用人としてお嬢様を護っています。その為に必要と判断しました。」


「マギーはそれほど危険な立場にあるのか?」


「分かりません。ですが再び魔王の軍勢が襲撃してくるようなことがあれば、先代と同じく戦場に立たねばならないでしょう。その時盾になって戦うのが私の役目、その為にあらゆる方法を知っておくべきです。」


 なるほど、俺とは思いが違うがマギーを守りたいと思う気持ちは同じか。


「分かった。ならば幾つか人を護るのに役立つ魔法を教えよう。ただし、マギーを含めて誰にも教えないこと、それが守れないなら教えることはできない。」


「お嬢様には教えてないのですか?」


「いや、自分で読み解ける様魔法の書は渡してある。彼女の性分は知っているだろう。それでどうなんだ?」


「誰にも伝えないことを約束します。我が主ヴィッセンブルン家の名誉に誓って、これを違えることはありません。」


 使用人が主の家の名誉に誓うか。


「分かった。ならここから出かけるまでに記して渡す。Magna Sanitatem(大治癒)、Detoxication(解毒)、Magicae Scutum(魔法の盾)、Magicae Speculum(魔法の鏡)の4種だ。」


「ありがとうございます。ご配慮、感謝致します。」


 シャッテンブルグがもう一度深く頭を下げた。

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