ガイラのお守
俺は今城下町の入り口にいる。転移基準石のある場所でアレフが帰ってくるのを待っている。果たしてアレフは戻ってきた。顔に疲労がみえる。
「疲れただろう。今日は帰って寝ろ、何か報告があるなら明日にでも聞く。」
「はい、では失礼します。」
重い足を引きずる様にアレフが歩いていく。定宿にでも行くのだろう。戻ってきてほっとした。もしかしてもしかすることがないわけではない。ならずっと見ていればいいとも考えたがそれも止めた、過保護になりかねん。俺自身が否定したことをアレフには押し付けたくない。さて俺も宿舎に帰ろう。
ジョルジョが兵舎の番をしている。なんかそわそわしているな。
「戻りました。何かありましたか?」
「お待ちしておりました、昨日の夜から何度もケルテンさんがいないかと問い合わせがありました。」
ジョルジョが慌てたように言う。俺に客?ガイラか?特に急ぐ話はないはずだ。
「誰だった?もしかしていかつい男か・」
「いえ、城下町の宿の方の使いです。1時間おきに何度もです。帰ったらすぐ来て欲しいと伝言を承っています。」
「わかった。馬を頼む。」
馬を預け、宿に向かって走る。あの宿の親父が伝言で急いで来いだと?・・・何が起きた?気が逸る。蹴飛ばさん勢いで宿の扉を開けた。
「学者か?よく戻った。」
「何がおきましたか?急ぎの用みたいですが。」
「ああそうだ、こっちだ。昨日ガイラが担ぎこまれた。重体だ!」
親父が部屋に飛び込む。俺も急いで入る。重体だと・・・そこには全身包帯でぐるぐる巻きのガイラが寝ている。意識はない。
「どういうことだ?説明してくれ。」
「昨日夕方、町の入り口に意識を失った状態で見つかった。とりあえず応急処置はしてあるが、右足がひどい。」
「右足の具合は?」
「ああ膝から下、中ほどで完全に折れている。無理にあわせて添え木がしてある。」
「分かった。それでいい。あとは?」
「頭から上半身にかけて火傷がひどい。こいつの持っていた薬を塗って様子を見ている。魔法での治療がまともにできる知り合いはお前しかいない。そう思ってお前を探していた。」
俺は包帯を少しめくり火傷の具合を見る。範囲が広いが小治癒を数回かければいいだろう。この場合回復力の強い治癒や大治癒をかけると全身場所を選ばず回復してしまう。折れている足が折れ曲がったままくっつくともう直しようがない。手間だが少しずつ直すとしよう。俺は包帯を切り取り、何箇所かに手をあて小治癒の魔法を唱える。少しずつ火傷のあとが消えた。
「これで火傷は大丈夫だ。まだ熱があるからしばらくは安静にしなくてはいけない。もしかしたら感染症があるかもしれません。」
「あっ、ああ。よくわからんがここで様子を見る。任せてくれ。でも足はどうなんだ。」
俺はガイラの脚の包帯をとり添え木を外す。痛むのか、ガイラがうめき声をあげた。
「つっ!悪いな。へまをした。」
「気づいたか、しゃべらなくていい。少し痛むが我慢しろ。」
ガイラが左腕を軽く挙げる。俺はガイラの右足に両手を当て探る。ガイラがうめき声をあげる。うん、骨の合わせ目はずれていない。これなら大治癒の魔法なら治せる。こいつの体力ならこの魔法を使用しても問題ないだろう。
「どうやら応急処置がよかった様です。魔法をかけます。」
《俺は魔力を7消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ
おお、万能たる力よ、血、肉、骨となりて、この者を癒やせ!》
「Magna sanitatem(大治癒)これでもう大丈夫です。しかしまだ熱も引いていません。明日迎えに来ます。それまで絶対動かさないようにして下さい。できれば栄養のある物を口にして下さい。食べることができないなら飲み物でも構いません。」
「わっ、分かった。宿の者に面倒見させる。何、ひっぱたいてでも動かさせん。」
「というわけです、ガイラ。屈辱的かもしれませんが言う事はきいてください。」
「く、屈辱的?」
「ああ、便所も自分で行けません。」
ガイラと宿の親父のあっ!と声を上げた。
「異論は認めません。あともう眠りなさい。」
《俺は魔力を2消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ
おお、万能たる力よ、眠りの雲となりて彼に纏え!》
「Somnum(睡眠)」
不意打ちの魔法、体力が落ちているガイラに抗う術はない。何か文句を言おうとしたまま眠りについた。俺たちは部屋から出る。
「実は動いても問題ない程度には治ってます。ただ体力が落ちていますから休息が必要です。あとこうでもしないとまた無茶をしますからね。」
宿の親父が呆気に取られている。
「お前、やっぱり悪辣だな。」
「悪辣とはひどいな。治療までしてやって、心にも薬をやったのに!」
「子供には苦い薬か?」
「ええそうです。あいつは少し自信過剰なところがあります。バトルジャンキーでね、戦いこそ我が人生。うらやましくもあるが、それで死なすには惜しい友人です。」
「そういうことにしとくか。明日まで責任もって預かる。それからどうする?」
「しばらく湯治でもさせます。回復には時間がかかりそうですから。」
「湯治か、ラオフの村だな。俺も久しぶりに行きたいものだ。」
「いずれ平和になったら行きましょう。では俺は帰ります。」
俺は宿舎まで歩く。3日ほどまともに寝ていないもう限界だ。なんとか足を引きずるように自分の部屋まで帰る。ベッドに倒れこむ。意識が途切れた。
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5/23 勇者支援生活 23日目
朝目覚めた、ものすごく腹が減っている。昨日は疲れて飯も食わずに寝てしまった。とりあえず食堂に行き肉を咥えてから訓練所に行く。アレフはもう鍛錬を始めている。
「おはよう。」
肉を咥えたまま、声をかける。
「行儀が悪いですよ。ケルテン師匠。」
「そうだな、昨日あれから大変でね。さっきまで死んだ様に寝てた。」
「大変?もしかして僕のことで迷惑をかけましたか?」
「違う違う、ガイラの件だ。怪我で宿に運ばれていた。」
「・・・あの部屋ですか。急病人がいると聞いてました。」
「まあそんなところかな。それでまたラオフに行くことになった。しばらくあいつを休ませる。またしばらく戻らないから自分で予定を決めて動いていいぞ。」
「そうですか、大変ですね。予定ってどうすれば?」
「そうだな・・・今いくら貯まった?」
「1500Gは預かってもらってます。手元に200Gちょっとあって、昨日までの素材を売れば全部で2500ぐらいになるかと。」
「そうか、結構貯めたな。じゃあ伝承の町へ行って鉄の盾を買って来るといい。そろそろ装備を整えよう。」
「剣や魔法の修行はもういいのですか?」
「もう自主訓練だけでいいだろう。ただしその旨はマギーには伝えておけ。」
アレフが首を傾げる。
「伝えてもらえないのですか?」
「今から馬を手配してガイラを迎えに行く。あまり時間がないからもう行く。じゃあな。」
それだけ言うと訓練所から飛び出す。少しして戻る。
「ああ、そうだ、遠征するときはマギーかサイモンに予定だけ伝えておけ、俺が戻ってきた時予定がわからないと困る。じゃっ!」
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宿屋に来ている。中が騒がしい。扉を開ける。ガイラが暴れている。
「学者とめてくれ!この馬鹿、言うことを聞かん。」
「ガイラ止めろ。いいかげんにしろ!子供か!」
怒鳴りつけてやった。昨日死にかけていた癖に。
「学者聞け!、俺はもう自分で歩けるし、誰の世話もいらねえ!」
「救いがたい馬鹿だな。まだお前の体の中には毒が残っている。放っておくとそのうち仰け反って死ぬぞ。聞いたことないのか?大した傷じゃなくても死ぬ病だ。」
おそらくガイラも経験測で知っているだろう。野山や戦場で怪我をした者がかかる病だ。ガイラが黙り込んだ。
「・・・そんな感じで死んだ同門がいるらしい。最後は弓なりになって死んだと聞いている。」
「それだ。しばらくは様子を見る。毒なら俺が抜く。その間は湯治三昧だ。激しい運動は禁止、いいな。」
「マジか、体が鈍るな。」
「つくづく馬鹿だな、武闘家ガイラ、赤小竜に死すって墓に書いてやろうか?」
「嫌なことを言う。わかったよ。でもじっとしているのは性に合わん。」
「ふん!別にそれだけが用事じゃない。例の物は持ってきたんだろうな?」
「2匹分ある。欲張ってもう一匹と思って山を散策していたら崖が崩れて落ちた。そこを襲われた。魔法の翼がなかったら死んでいたな。」
「阿呆、馬鹿、強欲、そんなことだと思った。無理はするなといっただろうが!」
「面目ない。」
ガイラが小さくなっている。俺が本当に怒っているのが分かったらしい。
「もういい。ラオフに行くから準備しろ。5分で用意しな!」
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厩舎で馬に荷物を載せている。ガイラはふらついている。さっきはよく暴れていたな。
「しばらくは馬で進む。辛いだろうがしっかり掴まってろ。」
「なあ、お前の魔法で跳ぶわけにはいかんのか?」
「あれは便利すぎて公表したくない。対外的には馬で移動することになってるから我慢しろ。城が見えないところまで行ってから使う。」
「そうか。わかった。」
俺たちは馬を並足で進む。ずいぶんゆっくりとしたペースだ。
「しかしまあ、お前の馬もよく戻ってこれたな?」
「ああ、魔物に襲われていた俺を咥えて走ったんだ。それ魔法の翼を使えた。命の恩人だ。」
「ライは主より賢いな。まあそれはいい。ラオフに行くのはもう一つ用がある。お前の武器を作ってもらう。これも時間がかかるから丁度いい。」
「そうか、それは楽しみだ。」
「馬鹿!馬上で素振りをするな!しばらく安静だろうが・・・。」
「いや~楽しみで思わず。」
「馬鹿につける薬はないな。馬鹿ついでに聞くがこの間の魔物の素材はあるか?」
「あるぜ、ここにたっぷりだ。どうせなら売り払っておけばよかったな。」
ガイラが馬にぶら下げた袋から一つとりだしながら言った。
「それ今はまだ出すなよ。」
「なんでだよ?金になるだろ!」
「やっぱり馬鹿だ。どうやってそこに行ってきたんだよ!」
「あっ、そうだった。」
「勘弁してくれよ・・・しかしそうだと死にそうになったのは好都合だったか。」
絶句。そうだろう、死にそうになって良かったって言ってるんだからな。
それからしばらくどうでもいい話をしながら進む。城が遠くに見える頃になって転移の魔法で跳んだ。
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ラオフの村、宿屋で二人部屋を取る。こいつが暴れたら俺に止める術はない。それでも何か起きたらどうにかしなくてはならない。俺は真剣な顔でガイラに語る。
「ガイラ、あらかじめ言っておく。今はまだ発症していない病があるかもしれない。発症したら生き死には五分の病だ。実感は沸かないかもしれないが認識しろ。ここまでは分かるか?」
「今はなっていない病気があって、病気になったら死ぬかもしれない。であってるか?」
「そうだ。ならないかもしれないが、それがはっきり判明するまで最大で三週間かかる。それを踏まえてお前が好きにやりたいなら好きにしていい。だがその場合は一人で死ね。俺はお前を看取る気はない。」
「分かった。お前がそういうなら正しいのだろう。俺の体を預けよう。」
「よし、今現在の発熱、悪寒、眩暈は火傷や骨折によるもので、これから起きることとは関係ない。魔法で皮膚や骨を直したが失われた血は失われたままだ。これからは次の症状になったら即言え。舌がもつれ会話に支障がでる、顔が引きつる、筋肉の強い痛みなどだ。深夜だろうが構わないから起こせ。」
「よくわかった。これは俺の中の闘いなんだな?」
「そうだ。体の中に毒があるなら俺が消す。食欲はないかもしれないが食え。体力が尽きたら終わりだ。」
「そうか・・・闘いなら負けるわけにはいかないな。」
ガイラの目に光りが宿る。闘いを前にしたガイラの目だ。
「なら次はもう一つの用事に行こう。ミスリルを出してくれ。」
ガイラが袋を漁る。鉄の人形の残がいを取り出す。すごいな、殴ったと思われる箇所がへこみ、反対側が破裂している。
「これだ、この通り二つある。」
「OK!それでどんな武器がいい?」
「やっぱり殴る武器がいい。棍や爪は性に会わない。」
俺は手持ちの紙にDのような形を描く。
「ならばこんなのはどうだ。こっちのまっすぐの方を握りこみ反対側で殴る。」
「ちょっとイメージがわかないな?」
「じゃあこれではどうだ?」
手持ちのタオルを自分の手に巻く。拳を握り巻いた布の部分でガイラを軽く殴る。
「なるほど、布では意味ないが硬いミスリルなら効果的かもな。」
「更にこっちの打撃面に棘なり刃をつける。これでこちらより硬い敵に効果的にダメージを与えることができるだろう。」
「で、これはなんと言う武器だ?」
「ナックルダスターとかサックとか、単純にナックルとも言う。ミスリルナックルとでも名づけるか。」
「なるほどミスリルナックルか、楽しみになってきた。」
「そうか。なら鍛冶屋を紹介する。ついて来い。」
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この村では独特の匂いがする。その中でも特におかしな臭いがする村はずれの小屋にガイラを案内した。
「ここだ。職人らしい頑固な親父だ。機嫌を損ねるようなことは言うなよ。」
「そう言われても分からん。」
会った事ないから分かるわけないか。まあいいや、ミスリルを見ればやる気になるだろう。
「ケルテンだ。入るぞ!」
大声を出して小屋の扉を開ける。普段から鎚の音や火のせいで耳が少し遠い。いつもここでは大声だ。
「おう、ケルテンか。今石炭を蒸している。」
「そうか。客を連れてきた。こいつがガイラだ。」
「ガイラだ。よろしく頼む。」
鍛冶屋の親父がガイラの全身を舐めるように眺めた。
「いい体つきだ。少し元気がないが大丈夫なのか?こいつ。」
「ああ、先日大怪我をしたばかりで、まだ本調子じゃない。それよりミスリルを持ってきた。ガイラ出してくれ。」
「おう、これだ。」
ガイラがミスリルを差し出す。鍛冶屋が目をむく。
「なんだこれは!人形か?」
「そうだ。鉄の人形というゴーレムの外郭で倒すのは結構大変だ。それを2つ用意してきた。もちろん倒してきたのはこいつだ。」
「そうか、世の中には変な魔物がいるのだな。一つ試していいか?」
「ああ、なんだ。」
「こいつの一撃を見たい。」
ガイラが俺を見る。
「いいのか?安静だろ。」
「いい。どうせ言っても聞かない。この親父は力量の足りない者に武器を売らない。その塊を殴れ。それで力量が知れる。」
ガイラが殴りやすいよう残骸を台の上に置いた。念の為、親父をガイラの後ろに下がらせる。俺は残骸の横に立った。
「よし、ここだ。思いっきりだぞ。」
ガイラが腰を落とした構えを取る。心気を整える、正拳突き。普通は金槌で叩いてもへこまないミスリルが一撃でへこんだ。鍛冶屋の親父がへこんだ残骸を触る。
「なんて一撃だ。」
「親父、合格か?」
「もちろんだ。鍛冶屋冥利に尽きるとはこのことだ。ぜひやらせてもらう。断ることは許さん。」
「そうか、よかったなガイラ。お前合格だってよ。お前はどうだ。」
「おっおう!頼む。」
二人が固く握手をしている。暑苦しいな、こいつら似たもの同士だ。親父が俺に向き直った。
「それでどんな武器を作る?さっきのだと剣とか槍ではないな。」
「それなんだが、これを見てくれ。」
俺はさっき書いた絵を見せる。親父がまじまじと眺める。
「ふ~ん、なるほど!拳を保護しつつ殴るか。加工はどうすればいい。」
「そうだな。まずミスリルを棒状にする。それを曲げて円形にしてから叩いて形をこう変える。細かい所は例の方法で少しずつ削る。できるか?」
「もちろんだ。だがそれは大変だな。削るだけでも2、3週間はかかるぞ。」
「ああ、構わん。こいつの病気療養にそれぐらいかかるしな。」
「そうか、分かった。ならまず手の型を取ろう。」
鍛冶屋の親父はそこら辺にあった粘土を取り出して、太さ3cmぐらいの棒状にする。真ん中辺りをガイラに差し出した。
「よし、ここを軽く握ってくれ。」
ガイラが素直に握る。親父は粘土をガイラの拳に巻き付け押し付けた。
「少しずつ手を抜いてくれ、型が崩れないようにな。」
ガイラの拳の型ができた。親父が大きさを確認する。なにか納得したかのようにうんうん首を縦に振っている。
「おい、一人で納得してないで何とか言ってくれ。」
「ああすまない。思わずな・・・。しかし、これだと材料が余る。どうする?」
「なら余った分は厚さ1mmの板状にしてくれ。」
「前といっしょか?」
「そうだ。2枚作ってくれ。」
「わかった。」
隣でガイラが怪訝な顔をしている。
「なあ、二人だけで会話しないでくれるか。なにができるんだ?」
「秘密だ。楽しみにしてろ。お前は病気を治すことに全力を尽くせ。使う人間がいなくなったらこの親父が困る。」
「そうだ。俺が作るまでくたばるな。死んだら許さねえ。」
「なんか理不尽だな。激励だと思うことにしよう。」
3人で笑う。きっとそれぞれが出来上がりを想像しているのだろう。俺もガイラがミスリルナックルでドラゴンを殴るところを想像してみる。それは空想をはいえ究極の一撃だった。




