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時代の変革

 俺はワイングラス片手にマギーと談笑している。中身がワインでないことは誰にも秘密だ。ガイラはこの会場内のどこかで大酒をかっ食らっているに違いない。多分あいつが俺達といて不満があるとしたら、酒に付き合う相手がいないことだろう。


「アレフと姫様のところは千客万来ね。」


「仕方ないさ、陛下のご機嫌を損ねるわけにはいかないからね。」


「そうね、でもあの二人の結婚を許すなんて意外だわ。」


「陛下の心の内は賛成半分、反対半分だろうね。しかしまあ、陛下は王侯貴族の反発をどうするつもりだろう。」


「そなたの心配は要らぬぞ、特務隊士ケルテンよ。」


 俺とマギーの会話に誰かが割り込んできた。振り向くとそこには・・・。


「陛下!これは失礼しました。」


「よい、今日は無礼講じゃ、いちいち儀礼は不要だ。不平を言うしかできぬ者達など放っておけ、いずれ己の無力を思い知るだろう。そなたなら余の言っている意味は分かるであろう。」


「・・・・・・・・・・・。」


「黙して語らぬか、やはりそなたは油断ならぬのう。まあよい、余の臣下に一人ぐらい余の思い通りにならぬ者がいてもよかろう。おお、そうだ。そんなことよりそなた等の心配をした方がよいぞ。」


「私達ですか?」


「そうだ、そなた等の婚姻の話だ、勇者アレフに話は聞いたぞ。本来貴族の当主が平民と結婚するなどありえぬこと。、しかもその当主が女性ともなると文句を言わぬ者などおらぬ。」


「名誉ある貴族の家柄をなんと心得る、下賎な平民の血を入れるなどあり得ぬことだ。色で貴族の令嬢を篭絡した。そんなところでしょうか?」


「まあそんなところかのう、よくもまあ自分への悪口をそこまで言えるものじゃ。だから余は此度の褒美として、そなたに爵位をやろうと思うのだがどうじゃ?」


「無用です。それで爵位を得たとしても結局同じようなことは言われるでしょう。婚姻の許可だけ頂ければそれで結構です。」


「そうか、爵位は要らぬか。ではそなたは何か欲しい物はないのか?」


 少し考える。アレフは自らの国を探すために旅にでる。ガイラも同じくどこかへと旅立つ。じゃあ俺のやるべきことは何だろうか?


「そうですね、私にも旅の必要な物をいただけますか?」


「なんじゃ、そなたも自分の国を探すのか?」


「違います。これからここノイエラントから多くの者が新たなる地へと旅立ちますが、きっと数々の困難があるでしょう。その時に誰かが後方から援護をしてやらねばいけないはずです。」


「そうか、ここに来てまだ支援を続けると言うのか。そなたは無欲じゃのう。」


「無欲?私は無欲とは無縁な人間ですよ。新たなる地で得た物をここノイエラントで金に換える、その金で物資を買って開拓地へと送り届ける。その道中で悪さをする者を退治するのも悪くない。いくらでも儲ける手段はありますよ。」


「そうか、新たな世界そのものがそなたの動きまわる国となるか。分かった、そなたの望みどおりにしてやろう。」


「ありがたき幸せ。」


 俺は深々と頭を下げる。頭を上げた時にはライムント16世の姿はそこにはなかった。


「ねえ、ケルテン、いつの間にそんなこと考えてたの?」


「いや今思いついた。本当は城勤めを辞めて好き勝手に世界を回ろうと思ってた。でもそれは止めだ、しばらくは特務隊の任務として今言ったことをする。」


「どうして?もしかして契約金の心配でもしてるの?」


「契約金のことなら心配いらない、幾つかの魔法を公開することでお釣りが来る。」


「じゃあどうしてよ?」


「開拓時代、大航海時代、これからの時代には色々な名前がつけられるだろう。明るい未来を期待して外に出るものはいるだろうが、辺境に行く者は総じて地位が低い。多分物資を止められ、現地の物を買い叩かれ、辛い目に会うことは想像に難くない。」


「そんなことまで考えてたの?驚いたわね。」


 マギーが目を丸くして俺を見ている。


「考えたんじゃない、俺は知ってるんだ。実際にノイエラントの創世記にはあった話だ。辺境への物資を横流ししたり、途中で奪ったりする奴等も現れた。だがそんなことは絶対にさせない。俺が特務隊士のままなら権限でそんな奴等を排除できる。それともう一つ、おそらく今まさにノイエラントは開放された。他の世界から邪心なき者を集め、ここノイエラントに隔離した。歴史ではそうなっているが実は逆じゃないだろうか?」


「逆?」


「ああ、最初は本当にそうだったかもしれない。だけど大魔王が現れて精霊神がその身を失った。勇者によって大魔王が倒された後も、勇者の予言によってその復活が危惧された。ならばこの世界は永遠に封じておく。俺が神の立場ならそう判断する。海の向こうにある謎の結界、それが神の結界じゃないかな。」


「筋は通っているけどちょっと飛躍しすぎじゃない?それに神の結界が取り除かれているとは限らないわ。」


「まあね。でももし結界があるとしても俺が切り開いてやる。おそらくOstium a diversis mundi(異世界への扉)がその鍵となるに違いない。だから陛下から頂くのは大きな船だ。大洋を航行するのに支障のない船がいい。」


「分かった、私も手伝うわ。大変そうだけどあなたと一緒なら楽しそうね。」


「マギーなら、そう言ってくれると思ったよ。」


 俺が夢想する未来は、俺とマギーが大きな船に乗って、海運、冒険、海賊退治をしながら世界を回る。それは想像するだけでも楽しい。


「特務の青二才が調子に乗りおって・・・・・・。」


「そうだ、陛下も陛下だ。あのような輩に王女をやったり、貴族に平民の血を入れるなど、いったい王国の秩序をなんだと思っているのだ。」


 俺の夢想を邪魔する無粋な声がどこかから聞こえた。声のした方向を見ると結構年配の貴族達が、こちらを見て嫌そうに何か話している。俺に聞こえていたのには気づいていないようだ。


 今更怒る気もしないので黙っていたが、急にマギーがつかつかとその集団に歩み寄った」。


「ちょっと、どういうつもりよ、影でこそこそ悪口を言ってるなんて男らしくないわ、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!」


「いや、その、悪口とかそんなんじゃなくて・・・・別に彼のことではない。なっ、そうだよな。」


「わっ、私は何も言ってないぞ。言いたいことがあるのは卿ではないか。」


「私は知らぬ、そなたの聞き違いではないか・・・。」


 マギーに食って掛かられた貴族の一人がしどろもどろで言い訳し、話を振られた者が困惑し責任の擦り付け合いを始めた。マギーの大声と彼等の醜態は衆目を集めている。


「マギー、もうその辺にしといてやれよ。その人達は時代の変革に気付いていないんだ。いずれ没落する者の遠吠えなど相手にする価値もない。」


「没落するだと、それは聞き捨てならぬぞ、どういう意味だ!」


 うまい具合に俺に矛先が向いた。


「魔王亡き後、元通りに領地が戻ると思っていませんか?」


「なんだと、元々我等の所有していた領地だ、戻ってきて当然だろう。」


「やはりお気づきではないようですね。確かにあなたの仰るとおり領地は戻ります。ですがそこに働く者が元に戻るでしょうか?彼等はあなた方が気に入らなければ、幾らでも出て行くことができるのですよ。」


 わざと大げさな身振りで彼等だけでなく、周りにいる全ての者に聞こえるように話す。俺の言を聞いた周りがざわざわしだした。


「ふん、そんなものは貴様の想像にすぎん。一度飼われた犬は主人の下に戻るしかない。」


「なるほど、飼い犬ですか。魔王が現れた時に捨てられた犬が餌欲しさに戻ってくる、まあそんな者もいないとは言えないでしょう。ですが、本来守るべき者を守らず、搾取しかしてこなかったあなたの領地に戻ってくる者も少なく、いずれ荒地となるでしょう。先ほど述べたのはそういうことです。周りの聞いている皆さんも心当たりがあるなら成すべきことを成すべきですよ、でないと本当に没落します。」


 俺の言葉はいつの間にか静まり返った晩餐会場に響き渡った。


「今までの秩序が魔王の出現と共に破壊されてしまった。それは魔王が倒れようがもう元には戻せません。支配されたくない者はノイエブルクから去ります。地方の都市に行くもよし、まだ開拓されていない地を切り開くもよし、この流れはもう止められません。ノイエブルクはかつて世界の中心だった、そう未来の書に記されない様にするかは、あなた達次第です。」


 俺が話しをそう締めくくると会場がざわめきを取り戻した。だが只明るかった雰囲気が一変して、不安に包まれてしまった。


「マギー、行こう。」


マギーの手を引いて、なんとなく居心地の悪くなった会場を後にした。


「ねえ、あんなこと言ってよかったの?」


「ん、ああ、まあよくは無いな。きっと有形無形の妨害をしてくるだろうね。でも誰が味方で誰が敵かは大体分かった、それが分かっただけでも収穫だよ。」


「そう、やっぱり抜け目無いわね。只単に私をかばってくれただけじゃないのね。」


「最初はそうだったんだけどね、思わず言ってしまった。それに最初にかばってくれたのは、マギー、君だよ。」


 マギーが俺の言葉に答えるかのように強く俺の手を握った。太陽の光が戻ったとはいえ、夜の風は冷たい。マギーの手の温かみが俺に何かを伝えてきたような気がした。

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