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魔王の最後

 胸から盛大に血を噴出した漆黒の竜がのた打ち回っている、近寄ると巻き込まれてぶっ飛ばされそうだ。魔王のことは放っておいて、今の一撃で吹っ飛んだアレフに駆け寄る。受身を取り損ねたのか背中を打ってあえいでいる。


「お前、無茶し過ぎだ。ちょっと待ってろ、今治癒の魔法をかける・・・・・・・・・・Magna Sanitatem。」


「すみません・・・でもああでもしないと大きなダメージを与えられないと思って・・・。」


「まあ、いいアイデアだった。」


「過去形にするのはまだ早いみたいです。見てください、また闇の衣が復活しています。」


 アレフの視線の先には憤怒の表情で立ち上がった漆黒の竜、その背には復活した暗き闇が見える。


「よくもやってくれたな。今のは痛かった・・・痛かったぞーーー!ゴボォア!!!」


 怒りに叫んだ魔王が、口から大量の血を吐いた。


「馬鹿だな、胸を怪我しているのに大声を出すからそうなるんだ。そうだ、いいことを思いついたぞ。お前の炎の剣をあの傷に刺してやれ、いくら火に強かろうが、内側から焼かれることには耐えられまい。」


「了解しました、やってみます。」


 勇者の剣を腰に納め、炎の剣を抜いてアレフが魔王へと向かう。この作戦をうまく成し遂げるためにはこちらの意図を読まれるわけにはいかない。


「マギー、俺も前に出るぞ。援護を頼む。」


 腰から刀を抜いて、魔王に向かって駆ける。闇の衣があるから俺の攻撃はまともに通じないかもしれない。それでも攻撃の手が増えれば、無意識にでも回避行動を取らせることができるはずだ。俺の攻撃は当たらないかもしれない。いや方法はある。俺の刀に破邪の力を宿せば、闇の衣が避けてくれるかもしれない。


《俺は魔力を2消費する、魔力はマナと混じりて神に捧げん。

おお、偉大なる神よ、彷徨える魂を正しきに導き給え!Anima Purificationis(魂の浄化)!》


 ミスリルブレードが聖なる光を宿す。中央にアレフ、右が俺、左にガイラ、三人で同時に魔王に向かって突っ込む。


「Fragor!」


マギーの声が聞こえ、突然魔王の目の前で爆発が起きた。ダメージは無くても目くらましか、動揺を誘うことはできる。マギー、実に素晴らしい援護だ。これなら一度のトライで行けるかもしれない。


「アレフ、俺から行く。ガイラは最後だ。」


「おう、任せろ。」


魔王の足下まで辿り着いた俺は、跳び上がって胸の傷に向かって斬り付ける。刃に宿る破邪の力が闇の衣を切り開いた。すぐに道を開ける。魔王の胸を蹴ってその場所を離脱した。


「やあぁぁぁっぁぁ!」


気合と共に炎の剣をもったアレフが魔王に突撃する。炎の剣の刃全てが胸の傷に埋まった。


「あとは任せろっ!」


 跳び上がったガイラの拳が魔王の胸から飛び出た柄を打ち込み、炎の剣全てを完全に埋め込んだ。


「グワアァァァァァァァ!!」


 胸を内側から焼かれる痛みに魔王が叫ぶ。魔王の両手がその痛みの原因を取り除こうと、胸を探るがそこには掴む柄は無い。漆黒の竜が地にその身を捩じらせ、今まで以上にのた打ち回っている。


「これで終わるか?」


「まだだ、アレフ、とどめを刺せ。」


「でもまだ闇の衣があります。」


「それぐらいはなんとかできる。これで終わりにしよう。」


 アレフは俺の言葉に無言で頷いて、魔王に向かって静かに歩き出した。


「どうする気だ?」


「こうする。」


 魔道砲を竜王に向けて構える。


『俺は魔力を2消費する、MPはマナと混じりて神に捧げん。

おお、偉大なる神よ、彷徨える魂を正しきに導き給え!Anima Purificationis(魂の浄化)!

『俺はMPを2消費する、MPはマナと混じりて万能たる力となれ、

おお、万能たる力よ、光の球となりて闇を照らせ!Lux(明かり)!》


 アレフが一足一刀の間合いで腰溜めの構えのまま、俺が闇の衣を消すのを待っていた。魔道砲の砲口から破邪の力を持つ光が射出され、未だのた打ち回っている魔王の首から上の闇の衣をかき消した。


 抜剣からの一閃、俺が教えた最も自信のあるであろう攻撃が竜の首を通り抜けた。竜の首が体から分断され、転がり落ちる。声は出ないがその口が数度だけ動いた。体の方はまだしたばたしている。魔王の体を覆っていた闇の衣が徐々に薄くなり、体の動きが止まった頃には完全に消えた。


「本当にこれで終わりなの?」


「ああ、終わった。いくら魔王でも首と体が別れて生きていられるわけがない。」


 魔王の首のそばに立っていたアレフが俺達の下に戻ってきた。


「やったな、アレフ。お前こそ本当の勇者だ。」


「そんなことありません、ガイラ。僕一人でできたことではありません。」


「なんだ、相変わらず真面目だな。勇者の装備を身に纏い、魔王の首を落としたのはお前だ。正真正銘の勇者だろ!なあ、実は本当に勇者の血を引いているんじゃねえか?」


「それは分かりません。でも、血や家柄で何かが出来るのではないことを、この旅で知ることができました。」


「まあそうだな。王族や貴族でも禄でもないない奴はいるし、気持ちのいい奴もいる。平民でもしかりだ。」


「呑気なこと言ってないで、光の宝玉を探そう。」


 気恥ずかしいのでアレフとガイラの会話を遮った。魔王を覆っていた闇の衣も気になるが、光の宝玉さえあればなんとかできる。何時になるか分からないが、三度大魔王の執念が蘇るその時必要となるはずだ。

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