最後の旅
勇者の鎧と盾を装備して戻ってきたアレフを中心に、一文字とリヒャルトがぐるぐると回っている。
「なあ、これは何で出来ているんだ?見たことも無い金属だ。」
一通り見終わった一文字からそう聞かれた。
「多分ミスリルだ。おそらく金や銀の様に何か特殊な金属が混ぜられていると思う。」
「何か特殊な金属?お前なら何か知ってるのじゃないか?」
「残念ながら知らない。」
「そうか、まあこれから調べればわかることだ。しばらくはその隙はないけどな。」
しばらくは?何とも意味深な言葉だな。
「何か聞きたそうな顔だな、俺はまだ残っているミスリルの研究、こいつは後進の育成でしばらくは忙しいんだ。だから当面は必要ないんだ。」
「なるほど、納得した。あれほど研究熱心だった一文字らしくないと思っただけだ。」
「別に研究に飽きたわけじゃないさ。最近はノイエブルクの鍛冶ギルドからも職人が来る様になった。どうせ教えるならきちんとしたものを教えたい。だからとても他のことをやっている暇はない。」
「鍛冶ギルド?仮にも秘伝の技術を教えていいのか?」
「どの口がそういうことを言えるのか、ここに連れてきたのはお前だぞ。」
「まあそうだな。だが本当によかったのか?」
「ああ、構わん。近衛騎士から鎧の注文も来るようになったが、とてもうちだけでは手が足りん。秘伝に拘って国が滅んでは元も子もない。腕のいい職人が増えれば、まあ次の技術も生まれてくるだろう。」
胸を張って立っている一文字は実に誇らしげだ。
「まあ、俺達のことは心配要らないぜ。さっさと魔王とやらを倒して来い。ああそうだ、俺の新しい武器の実戦テストの結果を持って帰るんだぞ。」
「分かった、分かった、じゃあそうさせて貰うさ。行こうか、アレフ。」
「あっ、はい。」
アレフに声をかけて工房を出て行く、出口付近で足を止める
「あっそうだ。帰ってきたら錆びない鉄について教えてやるよ。」
そのまま工房を出る。少し遅れて付いてきたアレフが遠慮がちに俺に質問する。
「よろしいのですか?最後のあれ、何か聞きたそうでしたよ。」
「放っておけ、何もかも教えていたら限が無い。あいつらは貪欲だからな。」
「貪欲ですか・・・確かにいい意味でそうですね。でも錆びない鉄って何ですか?」
「なんだ、お前が気になっていたのか。その通り錆びない鉄、平和になったらそれで日用品を作ってもらうのさ。」
「平和に・・・なったらですか?」
アレフが少し溜めて不思議そうに聞く。
「ああ、魔王を倒してめでたしめでたしで話は終わらない。平和になったら剣や鎧は不要になるし、そうなったらあいつらまで不要では悲しいだろう?だがら平和を謳歌できる方法を考えてやるんだ。」
「そこまで考えないと駄目ですか?」
「当然だ、あいつらだけじゃないぞ。勇者も平和になったら不要になるんだ。一、二年はちやほやされるかもしれないが、その後は恐れられて閑職にまわされたり、処分されたりする。それが嫌ならこの国から消えるか、絶対的な権力を握るか、どちらかしかない。」
「なんともやりきれない話ですが、平和の末に絶対的権力者になるのは本末転倒です。どこか新天地でも目指しますか。ああ、でもここノイエブルクにそんな場所ありますか?」
「まあ楽しみにしてろ、世界は唯一つここにしかないわけでもない。」
「相変わらず意味の分からないことを言いますね。楽しみは後に取っておきましょう、きっと竜王を倒せば分かることなんでしょうね。」
「そうだな、じゃあマギーの屋敷へ急ごう。もうガイラも来ているはずだ。」
約束の時間を少し過ぎている。アレフを促して急いでマギーの屋敷に向かうことにした。
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「遅いぞ、いったい何してたんだ?」
「すまん、工房で話し込んでいたんだ。ちょっと見て欲しい物がある。」
腰から魔道砲を抜いて天に向かって構える。小火球の魔法を2回使用すると、熱線が空に向かって放出された。
「ちょっと今の何よ?Magna IgnisでもMagna Flammaでもあんなことできないわよ!」
予想通りマギーが食いついた。俺の手から魔道砲を奪っていろんな角度から眺めている。
「フッ、今のはMagna Ignisではない・・・Parma Ignisだ。」
「意味が分からないんだけど・・・。」
「一度ここに充填した魔法を次の魔法で射出するんだ。その際に熱エネルギーの方向を限定することで、威力を増している。まあそんなところだ。」
「ねえ、やってみていい?」
マギーの目が輝いている。駄目と言っても聞かないだろう。
「ああいいさ。ここに指を当てて魔法を使ってくれ。あと危ないから空か地面に向けて撃つこと。」
「こうね、いくわよー。」
さっきと同じ様に熱線が空に向かって放たれた。嬉しそうなマギーとは対照的に、アレフとガイラが冷ややかな目で見ている。
「あれが当たったら洒落じゃ済まないな。お前が敵だったらどうする?」
「そうですね、的を絞らせない為に動くしかありませんね。」
「物騒な話だな。使うのは俺だし、リヒャルトにはもう作らせない様に言ってある。そんなに心配しなくていいぞ。」
アレフとガイラの会話に参加しつつ、マギーの前に手を出す。名残惜しそうにマギーが俺の手に魔道砲を渡す。
「これ、他の魔法ではどうなの?」
「ああ、Incursuはやってみた。我ながらとんでもない物を作ってしまったと思うぐらいだ。」
「じゃあ、Magna IgnisとかMagna Fragorではどうなるのかしら?」
「怖くて実験できない。ここにどの程度までの魔法が充填できるか不明だ。限度を越えたら爆発するかもしれないからね。」
「そう、残念ね。一度見てみたかったんだけど・・・。」
「頼むから興味本位だけで実験するのは止めてくれ。これ一つしかないし、今はこの程度で十分だよ。」
マギーの気が変わらないうちにホルスターに片付ける。
「じゃあ、これからの予定だが、まずアウフヴァッサーに跳ぶ。そこから歩いて魔王の島へ一番近い岬へ向かう。何か質問はあるか?」
「なぜ徒歩で行くんですか?」
「魔王の島の半分は沼地だ、それに魔王の城は迷宮になっているから馬を連れては入れない。」
「なんでそこまで分かるんだよ?」
「だから前にも行ったと言っただろ。」
「前に転移の魔法で行けると言ってなかった?だったら魔法で行けばいいじゃない。」
「うん、まあそれも考えたけど怖いから却下だ。」
「怖い?」
「下手したら敵集団の真ん中に出ないとも限らないからね。囲まれるより陣を張って待っていてくれた方が対処がしやすい。」
「まあ・・・確かにそうね。」
俺とマギーの会話にアレフとガイラが呆れている。
「普通は陣を張って待っていた方がいいなんて思わないんだけどな。まあ俺たちはお前らの魔法を知っているから、理解はできるけどよ。」
「そうですよね。あの魔法の威力は異常ですよ。」
「アレフ、他人事みたいに言ってちゃ駄目だぞ。お前にもいくつかは覚えてもらうからな。」
「僕にですか?」
「他に誰がいるんだ、とりあえず大治癒、最終的には落雷の魔法を覚えて欲しいかな。」
「なんかよく分からない取り合わせね。」
「伝説の勇者の使用した魔法だよ。やっぱり勇者ならそうであって欲しい、格好いいからな。」
「呆れたやつだ、個人的な美学の問題かよ。俺には関係ない話だから好きにすればいいさ。」
魔法を使うことのできないガイラが少し拗ねている。
「ガイラ、お前には道中で幾つかの薬草を調合してもらう。MPも有限だから節約したい。」
「そうか、俺にもできることがあるのはありがたいな。お前らといると一人役立たずになった気がする時がある。」
「いろいろと頼りにはしている、こと白兵戦となれば誰よりもお前が一番強い。こんなことを言っていても仕方が無いな。じゃあアウフヴァッサーへ跳ぼう。」
「待って、転移の魔法は私が使う。これから先、補助的な魔法は私が使うわ。」
「了解だ、じゃあ任せた。」
俺、アレフ、ガイラがマギーに近寄ってマギーの魔法の発動を待つ。俺達4人が光に包まれて天を駆けた。




