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勇者達の成長

5/7 勇者支援生活7日目

 いつも通りのトレーニングをする。横でアレフも剣を振っている。まだ納剣がぎこちない。結構な頻度で左手に刃を当ててしまい小回復の魔法で治療をしている。あれで魔力が足りるのか?そうだ!


「アレフ、そんなんで昼から実戦に行けるのか?魔力不足で危険じゃないか?」


「やっぱり分かりますか?実は昼間までに大体使い果たしてます。まあここ近辺は強い魔物がいないので薬草数個ですみます。」


「じゃあいいことを教えてやろう。城の一階、奥まった所にある祭壇、あそこにいる司祭を知ってるか?」


「・・・?もしかして祝福爺さんですか?」


「祝福爺さん!言いえて妙だ。そうだ。昼から外に出る前に会ってからいくといい。」


 アレフ命名、祝福爺さんことノイエブルクの司祭。古にここに移り住んだ時から王に代わり神に祈りを捧げている。アレフが怪訝そうな顔をした。


「騙されたと思って行ってみな。じゃあ俺は終わったから行くよ。」


まだ怪訝そうな顔をしているアレフを置いて宿舎に戻ることにした。


---------------------------------

 

いつも通り朝食をとる。起床6時、2時間弱のトレーニング、それから食事。もう10年近く続けている。なるべく生活リズムは崩さない。


「ケルテン殿よろしいですか?お客様です。」


 騎士見習いのジョルジョが控えめに話しかけてきた。


「ああいいよ。ところで誰かな?」


「ゲオルグ、クロウ、ドゥーマンを名乗る3名です。」


「ああ彼らか。いいよ通して。」


「ここにですか?」


「かまわんよ。待たせるのも悪いしね。」


「分かりました。では案内してきます。」


 どうしたのかな?遠征に行く許可でももらいにきたのかな?ならいいのだが・・・。そんなことを考えているとジョルジョに連れられて3人が入ってきた。装備が変わっている。先日教えた通り2人が革の鎧、革の盾になっている。武器は変わっていない。


「お久しぶりです。ご指摘どおり装備を整えました。近くで野営などの練習もしました。遠征に出る許可を頂きたいのですが?」


 言葉遣いも変わっている。最初からこうだったらよかったのに、つくづく惜しい。


「いいよ、行っておいで。今いくらぐらい持ってる?」


 その言葉に三人の顔が曇った。


「ああ、別に返せって言ってるんじゃない。どうせ伝承の町に行くならよりいい武器を買った方がいいと思ってね。たしか500Gぐらいであったはず。」


「今500G弱です。少し足りませんね。」


「そうだね。向こうで数泊するのと帰りの食料を考えると・・・OK!俺が200G貸してやる。」


「いいのですか?持ち逃げするとは思わないのですか?」


「そうだね。かまわない、地の果てまで追いかけるから。何なら今すぐにでも・・・。」


 俺は頭で呪殺の詠唱を始める。第3小節まで唱え止める。なんとなく雰囲気で分かったのか三人は真っ青になって震えていた。


「よく分かりました。あなたに殺されるのは嫌です。のたれ死ぬ方がましな気がします。」


「分かってもらえてうれしいよ。ああ、それと俺に敬語はいらない。じゃあ、これ使って。」


 俺は懐から200G出して渡す。


「お借りし・・いや借りとく。必ず返す。」


「それでいい。がんばれよ!」


 三人は食堂から出て行った。案内してきた見習いが青い顔で突っ立ったままでいる。


「どうした?もう終わったよ。」


「先ほどの・・・いえ何でもありません。失礼します!」


 なんだよ。別に逃げなくてもいいじゃないか。まあいいや、それより勇者ガルドはどうしただろう?後で調べることにしよう。


 その後騎士見習いの中に根も葉もないうわさが流れたのを俺は知らない。

  視線だけで人を殺せる。

  機嫌を損ねると死ぬまで追い込まれる。


---------------------------------

 国務大臣執務室


 おっ!ガルドの光点が移動している。あいつの移動速度だと明日の昼には戻ってくるかな?ちょっと気になるから担当外の連中も見てみよう。


 この湖上都市に向かっている一つだけの光る点はガイラかな。あとは壊れた塔付近に4つ固まった光点がある。


「この4人の勇者はもしかして同郷ですか?」


「調べるがよい。」


 はいはい、聞いた俺が馬鹿でした。書類を取り出し並べる。勇者12:エイブラムはノイエブルク。勇者41:ローランド、勇者42:メルカバ、勇者43:レオパルド、三人とも伝承の町出身・・・エイブラムが三人をスカウトしたと考えるのが妥当か。


「そんなに担当外の勇者が気になるか?」


「ええ、まあ気にならないことはないですが。」


「そうか。ならば勇者25もそなたが受け持て。」


 ありゃ薮蛇だったか?勇者25ってガイラだな。あいつなら放っておいても大丈夫だ。


「はぁ?かまいませんが理由を聞いてもよろしいですか?」


「ふむ。そなたの先任者は知っているか?」


「いえ、存じません。」


「2名いた。内1名は先月3月の勇者と共に死んだ。それで残るシュミットがあの4名の勇者を支援しておる。だから勇者25は現在支援する者がおらぬ。」


「分かりました。拝命します。」


 よしガイラが湖上都市についた頃に会いに行こう。


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5/8 勇者支援生活8日目。

 いつも通りの訓練所である。昨日と違うのはアレフが少し興奮している。


「祝福爺さんのところ行きました。驚きました。力が漲って来て魔力が回復しました。あれ何なんですか?」


「分からん。あの司祭の一族は長年神への祈りを捧げている。その賜物としか言いようがない。」


「ケルテン師匠でも分からないことあるんですね。」


「俺は全知全能じゃないよ。ただ分からないことは調べないと気がすまないだけだ。」


「もう一つ質問。この間魔法の価値が低いって言いましたよね。例えば距離とって逃げながら撃つとか、人数集めていきなり打ち込むとかすれば強くないですか?」


「もっともな意見だ。でも魔法は必中じゃない。あまり距離を置くと電撃ならともかく火球は当たらない。弾速が遅いからね。電撃でも身を隠せば当たらない。あと俺の本気の速さ、逃げられると思うか?」


「あ~それは無理ですね。じゃあいきなり打ち込むのは?」


「まあそれは特殊な例だね。不意打ちで斬りかかるのと変わらないから。どちらにしろ武器にしろ魔法にしろ使い方次第さ。ただ手段は多い方が勝ちやすい。よしじゃあ手合わせしようか。ルールは殺す以外は何でもあり。」


「本当ですか?本気で行きますよ。」


「もちろんだ。武器も好きなのを使うといい。手加減は必要ない。」


 俺はまわりで訓練している連中に声をかけて場所を空けてもらった。自然と人集りができる。


「よし。とりあえず互いの距離は10m。はじめの合図はそこの君にお任せします。」


 アレフは鉄の剣、鉄の盾に革の鎧。武器を抜いて盾を前に出した左半身の構え、俺は腰を落とし居合いの構え。はじめの合図は鉄の剣で鉄の盾を叩く。ゴンと鈍い音がした。


 アレフは俺の居合いの速さも間合いの広さも知っている。警戒しながらにじりよってくる。予定通りだ。


《俺は魔力を8消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ

  おお、万能たる力よ、稲妻となりて敵を撃て。》


「Incursu(電撃)」


 居合いの構えからいきなり右手を突き出し稲妻を放つ、狙いは鉄の盾。痺れて棒立ちになったアレフの元まで距離を詰め、居合いで右篭手に峰打ち、鉄の剣が落ちた。


「ひでぇ・・・。」

「卑怯な!」


 外野から非難の声が聞こえた。


「今、卑怯だと言ったやつ、前に出ろ!」


 周りを見渡す。人集りのほとんどが顔を伏せ目を合わせない。当然、前に出るやつもいない。 


「まあいいでしょう。今私は殺す以外はルール無しとしました。もちろん魔物にはルールはありません。アレフ、お前は卑怯だと思ったか?」


「いいえ。私は師匠の間合いや剣速に気を取られて、魔法の存在を忘れていました。さっきまでその話題をしていたのに。」


 アレフは悔しそうに話した。左手で打たれた右手をさすっている。


「よろしい。なぜ負けたか理解できればそれでいい。ここなら次がある。で、これで終わりか?終わりならいつもの練習だ。」


「まだやります。」


「そうか。では次は木剣と木盾を使おう。俺も木剣を使う。ちなみに木の盾なら電撃は通らん。」


「分かりました。同じミスはしません。」


「よし。では合図を!」


 互いにさっきと同じ様に構える。始まる前にそっと武器強化の魔法を使う。始まりの合図と共にアレフが飛び込んできた。俺は合図がなる頃にはすでに抜剣して上段に構えている。盾を前に間合いに入ってきたアレフに木剣を叩きつける。受け止めた盾が真っ二つに割れた。意外な結果に立ち止まったアレフの右篭手に軽く剣を当てた。


「おい!あれか?噂の盾割り。」

「聞いたことがある。近衛のサイモンさんが盾を割られたって。」


 ちょっと外野うるさい。問題はそこじゃないんだ。


「さてアレフ。今回の敗因は?」


「木剣で盾が割れるとは思いませんでした。」


「残念、そこじゃない。一番の問題は俺にはお前の行動があらかじめ解かっていた。正直に言うとそう誘導した。雷撃が使えることを意識するとまず間合いを詰めてくる。しかも事前に木の盾には効かないと教えてある。そうでなければ上段からの渾身の一撃はできない。」


「なるほど、私の動きはケルテン師匠の手の内にあった。それが敗因ですね?」


「さっきも言っただろう?武器も魔法も使い方だって。あとわざわざ木の盾を持たせたのはもう一つ理由がある。」


「鉄の盾なら斬れないからですか?」


「いや刀なら斬れるんだ。ただそうすると高くつく。800Gも弁償したくない。」


「本当ですか?敵わないな。」


「まだいろんな戦法がある。さらに魔物なら人間にできない戦法ができる。例えば空が飛べる魔物は空中から魔法を放ってくる。炎を吐く魔物もいる。不死の魔物は痛覚も感情もないから多少斬られても平気で懐に入ってくる。近くが毒の沼地でもお構いなし、多分崖なら一緒に落ちるだろうね。あとドラゴンとかゴーレムとか体の大きさが違いすぎる魔物には常識は通用しない。」


「まだまだですね。ありがとうございました。いつもの練習に戻ります。」


「よし皆解散。時間のある者どうしで模擬戦でもやってみろ。多分さっきまでと違う戦いができるぞ。」


 俺とアレフは隅によるといつものメニューを始めた。あちらこちらで模擬戦が始まる。今日の訓練場はいつもより活気があるようだ。


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