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事後処理

 一通り騒動が終わるまで大広間にて待機している。何か聞きたそうにしている皆の視線はあえて無視する。居心地が悪いので一度下に行こうとしたが止められたので仕方なくここにいる。アレフ達は大丈夫だろうか?そんなことを考えているとアレフ達3人が上がってきた。


「大丈夫だったか?」


「ああ、楽勝だったぜ。マギーの援護があればそうそう負けることはない。お前こそ大丈夫かよ?浮かない顔してるぜ。」


「うん・・・謀反の首謀者は大臣だった。まさか魔物に魂まで売るとは思わなかったよ。」


「そうか。で、そいつはどうなった?」


「死んだ。一度謀反を起こしたらどちらかが死ぬまでは終わらない。そう言って最後まで抵抗を続けた。その結果自らの魔法を反射されて死んだ。いや、言葉を飾っても仕方ないな。俺が殺した。できれば二度としたくない。」


「そうね、あなたは本当は優しいから・・・。」


 マギーが俺に寄り添う。途切れた言葉の続きが聞こえたような気がした。


------------------------

 謁見の大広間に秩序が戻った。王座にライムント16世が座り、国務大臣の位置にホフマンス、近衛騎士隊長としてサイモンが立ち、文官、武官が並ぶ。ライムント16世の前にアレフ、ガイラ、マギーが膝を折り畏まっている。俺はというと堂々と突っ立っている。


「御前である、控えよ!」


 ホフマンスが俺に一喝するが、涼しい顔で受け流す。他の者達も無言で不満を表している。


「謀反の収束に功ありとは言え、図に乗るでない!そなたには聞かねばならぬこともある。」


 ホフマンスが吼えている。サイモンが俺に視線を送ってなんとかしようとしている。俺のすぐ後ろにいるアレフ達も困惑しているのが分かった。


「互いの認識の違いを確認しておきましょうか。」


「認識の違いだと?」


「そうです。今や私は臣下ではなくなりました。誓紙を一方的に破ったのはそちらですから、私は望むことなくそうなってしまいました。だから一方的に拝礼する必要はないのです。理解して頂けましたか?」


「なっ、その様なことが許されるとでも思っておるのか、そなたには多額の契約金を払っておるのだ。」


 ホフマンスが猛る。他の者達は蒼白になったままだ。


「それも私の知ったことではありませんな。」


「しかし、それでは「もうよい!ホフマンス、その者の言う通りだ。その者がいなくては余もそなたも命はなかった。それにその者も理不尽に命を奪われるところだったのだ、もう好きにさせてもよかろう。」


「理解してもらえて幸いです。アレフ、ガイラ、マギー、では行こうか。」


「ちょっと待て、どこに行くつもりだ?」


「何を今更・・・勇者が行く所など決まっているでしょう。他でもない、魔王を倒しに行くのですよ。」


 俺の言葉にアレフ達の顔がぱっと明るくなった。出口に向かって歩く、数歩進んだ所で立ち止まって振り向く。


「ああそうだ、一つ言い忘れていたことがあった。あんな誓紙などなくなればいい。そうすれば臣下だのそうでないだの言わなくて済むものを・・・。」


「あっはっはっはっは!そなたは実に面白いのう。ホフマンス、全ての誓紙をここへ。」


「全てですか?」


 ライムント16世が無言で促すと、ホフマンスが執務室へとすっ飛んで行った。誰もが居辛さに逃げ出したくなる時間が過ぎる。5分と立たずにホフマンスが戻ってきた。


「陛下、こちらが全ての誓紙になります。」


「ふむ、これを破棄するにはどうすればよいか?破っても燃やしてもならぬとされておる。今までは破棄する必要がなかったからその方法は知らぬ。博識のそなたなら知っておろう。」


 ライムント16世が俺の方を見て質問してきた。


「王家の血にて解除できるかと・・・幸い使用できる血には困りません。」


「そうか、ではあの馬鹿者が最後に出来る仕事があるのだな。近衛騎士隊長、あの者の死体をここに。」


「はっ!仰せのままに。」


 サイモンがそう答え、配下に命令する。近衛騎士二人が控え室から元国務大臣オットマーの遺体を運んできた。


「まず、勇者アレフ、ガイラ、それと魔術士マギウスの誓紙を解除して頂きたい。魔王討伐の旅の途中で不明の死があっては困ります。」


「そなたの言う通りにしよう。ホフマンス、この者達の誓紙を。」


 ライムント16世の命令にホフマンスが手元の紙を調べる。やっと見つけた3枚がライムント16世に渡されると、その誓紙が死体から出た血に浸された。


「ふむ、これでは本当に解除されたのか分からぬのう。」


「確かにそうです。まさか破って確かめるわけにはいきません。困ったな。」


「陛下、では私の誓紙を破って下さい。」


 一歩進み出たマギーがそう進言した。


「マギー、何を言うんだ。確証はないんだぞ。」


「私はあなたを信じる。だからそれを破っても私は死なない。それにこれがあれば死ぬことはないはずでしょ。」


 胸元から出した命の石を皆に見せびらかす。


「分かった、なら俺がやる。陛下、その誓紙を渡して下さい。」


「ホフマンス、渡してやれ。」


 ホフマンスの手を介して俺の手に誓紙が渡った。大きく息を吸ってから、両の手に力を込めて誓紙を二つに裂いた。マギーを見る、何も起こらない。マギーが俺に向かって微笑んだ。


「陛下の英断、確かに見させて頂きました。ケルテン=アウフヴァッサー、任務が終わるまでは特務隊士に戻りましょう。」


 俺は片膝をついて頭を下げた。


「殊勝である、では職務に励むがよい。だがこれで蘇生の法は使えなくなった、自愛せよ。」


「はっ!では失礼いたします。」


 アレフ達を連れて大広間を辞する。俺の背中で誰かが安堵の息をしたような気がした。


 ----------------------------------

 とりあえず図書館で休んでいる。ここがこの城の中で一番居心地がいい。


「ねえ、なんであんなことしたの?」


「ん、何が?」


「わざわざ反抗的な態度を取ってまで、誓紙を処分させたことよ。」


「ああでもしなければ陛下が困ることになったはずだよ。君臣の間に深い亀裂ができる。その亀裂は早いうちに埋めておかねばならないと思ったんだ。」


「流石は学者だ。そこまで考えていたとはな。」


 いつもの様にガイラが茶化す。


「流石なのは陛下の方だよ、俺の投げかけにすぐに答えたんだ。並の判断力じゃない。」


「はあ、やっぱり敵わないや。ケルテンさんのことをローザ様も褒めていましたよ。」


 アレフがため息をつく。ローゼマリー王女が俺のことを褒めていたとは初耳だ。

 

「まあ敬愛する王女様のことは置いといてだ、学者、どうしたらそんな芸当が出来る様になるんだ?」


「簡単さ、ここにある書物を読めばいい。特に王国の歴史を修めるといいぞ。」


「歴史か・・・あの何年に何が起きたとか嫌いなんだ。分かったからと言って何の意味もない。」


「そうじゃない。年号なんか覚える必要はない。必要なのは誰が何を考えて、結果何が起きたかだ。そうすれば成功はできなくても、失敗を回避することはできる。」


「また意味の分からんことを言う。アレフ、ここの本を読んでも魔王は倒せんぞ。」


 ガイラが真っ先に話題から逃げた。


「そうですね。まずは平和を、その後からでも遅くは無いでしょう。」


「その通りね、じゃあ万全の準備をしてから行きましょう。」


 俺達の目的意識も明確に固まった。後顧の憂いも無い、これで前だけ見て進むことができるようになった。今回の弑逆未遂は大変だったが、それだけは成果であったと思えた。

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