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魔法談義②

 王立図書館。いつ通りマギーと俺しかいない。その他のマギー目当ての男はマギーが追い返すから俺がいないときはだいたい一人で何か読んでいる。最近はペンを片手に紙と格闘していた。


「何から知りたい?さっきの剣?約束のプレゼント?それともこの間の宿題?」


「当然もらえる物が先。ちょうだい。」


「まったく現金だな。とっておきの品だぞ。驚け!」


 手にしていた包みを開くと半透明な水色の布を取り出して手渡す。マギーが手に取り開いた。


「何これ?ローブ?スケスケじゃない。」


「いや透けないから大丈夫。それは水のローブ。炎に強い耐性を持ち、流動的な表面が物理的な攻撃を受け流す。昔、壊れた塔のある集落で見つけた。おそらく勇者一行の女僧侶が着ていたローブだと思っている。」


「そんな大事な物いいの?」


「いいさ。どうせ俺は装備しない。かさばる装備は俺にはあわない。」


「ありがとう、大事にするわ。でもさっきの武器もそうだけどどこにも売ってないわよね?」


「そうだね。じゃあさっきの武器の話も含めて話をしよう。まず第一にここノイエラントには魔法や武器に関する技術は例外を除いてほとんどなかった。」


 俺はいつものように用意された教壇と黒板の間に立って講義を始めた。


「例外って?」


「王家の秘宝、神々に捧げた剣と盾と鎧のことだよ。ミスリルやオリハルコンでできている。どちらの金属も今の技術では加工することはできない。それ以前に手に入らない。」


「そんな武器や防具聞いたことない。でも何故そんな大層な物があったの?どう考えても人知を超えた技術で作られたとしか思えないわ。」


「ああ、大体正解。神々が自らの武具を作成させる為技術を貸した。もっとも調子にのったある国はその後神々に滅ぼされるのだけど、まあそれは別の話。」


「でもなんでそんなこと分かるの?」


 俺はある棚の前まで歩き古ぼけた一冊の本を取り出した。


「この本に書いてある。はるか昔から伝わる幾つかの話が載っている。童話みたいな本だが結構面白い。暇があったら読んでみるといい。」


「ふ~ん。こんな本あったのね。確かに挿絵とか童話っぽい。」


 手にした本を開いて中をパラパラめくる。彼女が本を見る目はいつも輝いている。


「まあね。で、さっきの王家の秘宝の話、今は別の名の方が有名だ。勇者の剣、勇者の鎧、そして勇者の盾だ。ただし今現在は所在不明。とても残念だ。」


「そう、でも見つけることができたら魔王を倒せる?」


「さあ?それは分からない。強い武器を持つだけで強くなれるわけじゃない。」


「そんなの知らない。武器なんて握ったことないもの。」


「武具を魔法に置き換えてみれば分かるはず、雷の魔法が使えても正確に当てられなければ意味が無い。ちなみに武具の中には魔法と同じような効果を持つ物がある。さっきの豪炎の剣とかね。」


「なるほど、言われてみればその通りね。それよりあんなすごい魔法見たことないわ。」


「いや君は一度見てるよ。本の挿絵でね。」


「えっ!ああ、この間の火炎の魔法・・・でも炎の大きさが違う。」


「挿絵のは初級の魔法。でもさっきの同系統の最上位魔法だよ。」


「もしかして使えるの?」


「うん、使える。だけど実戦で使ったことはない。結果が想像できるだけに使う気にはなれない。」


「そうね・・・でもいつになったらあなたの知識に追いつけるのかしら?」


 マギーがちょっと拗ねた顔で俺を見つめた。


「まだまだだね。それで宿題はできたのかい?」


「また馬鹿にして。いいわ、研究の成果を見せてあげる。ちょっと待ってて資料取ってくるから。」


 マギーはいつも座っている机に歩いていった。


--------------------------------

 マギーが資料を教壇に積んだ。さっきとは俺をマギーの配置が逆になっている。彼女にとってはいつものことで城の中には多くの弟子がいる。ここがその教室でもあるのだ。


「では講義を始めます。今日は魔法の詠唱についてです。」


 チョークのカツカツ言う音が響く。結構手馴れている。書かれているのは4行の詠唱を発音記号で記したものだ。次に比較し易いように別の4種の魔法を並べて書く。少し離してもう一つの魔法を書いた。


「まず第一にほとんどの呪文は大体4小節でできています。その後に呪文の名前を口にすることで発動させるのが基本です。」


 ここで確認するかのように俺をみる。俺は無言で頷く。


「実はほとんど全ての魔法の詠唱において第2小節はまったく同じです。さらに第一小節は一部を除いて一致します。しかしこの4つの魔法はその全てが一致します。」


 ここで言葉を止めて俺を見る。心なしか心配そうだ。


「いいよ。続けて。」


「ここで一度魔法の使用法の基本をおさらいすると、

  ①自分のうちにある魔力を放出

  ②自然に存在するマナと魔力を合成する

  ③魔法によっておこる現象をイメージ

  ④目標を決定し呪文を唱える。

の4段階に分かれてる。つまり4つの段階を4つの小節で操っていると考察できる。」


 マギーはここまでを先の4小節の横にわかりやすく書いた。


「これらから、第一小節は消費魔力の放出、第二小節はマナとの融合を司るものと考えられます。先に提出された資料から、この部分は2という数字を意味する単語である可能性が高いでしょう。また回復魔法のここは4の単語と思われます。また他の魔法から3、5、6、8、10の単語が導き出されました。」


 パチパチパチッ!俺の拍手の音が鳴り響く。


「だいたい正解。大筋で翻訳するとこうだ。

  ①私は魔力をX放出する

  ②魔力はマナと混じりて万能なる力となれ

  ③おお万能なる力よ、Aとなり

  ④Bを、Cせよ。呪文名。

という感じだね。Xは数値、君の言うとおりだ。Aは効果イメージ、たとえば火球、電撃、治癒。Bは目標、ここには触れていなかったけど我、かの者、かの空間など目標の設定、CはAに類似したイメージした放出方法、焼け、撃て、癒せなどの命令系の言葉になっている。」


「ちょっとそこまでは分からなかったわ。参考資料が足りない。」


「じゃあご褒美をあげよう。」


 俺は本棚から真新しい本を一冊取り出して、マギーに手渡した。


「何これ?こんな本、この間までなかったわよ?」


「この間の宿題出した後に置いといた。俺が書いた世界に一冊しかない魔法の本だ。」


「意地悪ね。」


「法則性、違和感とかに気づかないと学者として失格だね。精進あるのみだ。」


 俺の軽口を無視したふりでマギーは本を開く。目を丸くしている。そりゃそうだ。その本には全ての魔法が原文で書いてある。


「まったく読めない。でもさっき魔法の本って言ったわね。」


「言ったよ。1ページに一つずつ魔法詠唱文が大きな字で書いてある。」


「意地悪なのか?親切なのか?判断に悩むわね。」


「そう、君もやらない?有望な生徒を答えに誘導したりしてしない?」


「やる。でもやられるとむかつく。」


 マギーが膨れる。この顔もなんとも言えない美しさがある。


「よし、では教師と生徒交代だ。テキストはそれを使う。7ページを開いて。」


「当然読めないわね。でもちょっと他のページと違う。下にいくつかの単語が並んでいる。」


「その通り。よく気づいたね。」


「さっき言われたばかりですから。法則性と違和感だったかしら?」


「脱帽です!お嬢様。」


 そう言いながらかぶってもいない帽子を脱ぎ、一礼する。


「続けようか。実はそのページは転移の魔法だ。」


「転移の魔法?帰還の魔法でなくて?」


「うん。今の転移の魔法は城に戻る帰還の魔法とされているけど、本来は指定した場所転移する魔法だ。」


「なるほど、この間北の村に行ったのがこれね。ねえ、じゃあなんで帰還の魔法は城にしか戻れないの?」


「それは城を指定しているから。下に指定場所の登録名が書いてある。一番上がこのノイエブルク。別の言語で地下の城という意味だ。」


「地下?意味深ね。」


「文字通り、勇者はこの世界に落ちてきたからそう名づけた。」


「名づけた?もしかして転移の指定場所は勇者が登録したの?」


「その通り!勇者が訪れた場所にある魔法儀式を行い、登録名を決めた。そこにあるのがノイエブルク、北の村、砂漠都市、城塞都市、湖上都市だ。残念ながら砂漠都市への転移はもうできない。」


「どうして?」


「もう使えない。多分転移基準石が破壊された。該当する魔術儀式はまだ解明できていないから仮名ね。でもその基準はなくなったら困るでしょ?だから人の力では動かせないくらい大きい石に魔術儀式で登録名を掘り込んである。」


「へえ~すごいね。でもなんで普通に名前じゃないの。ノイエブルクって書いておけばいいのに!」


「便利すぎるから駄目。その気になれば何人の兵隊でも送れてしまう。多分勇者はそう考えて自分達の専用魔法としたと俺は思っている。」


「ふ~ん。徹底した平和主義者ね。自分が死んだ後まで心配しすぎじゃない?」


「ははっ!まあ尊敬する勇者様のことは置いといて、まずそのページから学習してごらん。他の魔法の解読に参考になるよ。」


「そうね。他のページはどれがどの魔法だかさっぱりわからない。あれ?ちょっと待ってその勇者専用の登録名はどうやってわかったの?またどこかの遺跡ででも見つけたの?」


「外れ!その転移基準石に書いてある。普通は見えないけど魔法の明かりで照らすとうっすら見えてくる。魔法による隠し文字だ。実は王家の秘術:血の契約書にも同じからくりがある。結構えぐいことが隠して書いてあった。これは絶対秘密ね。ばれたら消される可能性が高い。」


「じゃあそんなこと教えないでよ。」


 怒ったような顔で俺を見る。怒った顔も美しい。もうちょっとこの顔が見てみたい。


「あともう一つ。そこには書かなかったが実は魔王の城にも転移基準石がある。」


「え!じゃあ行けるの?」


「行けるよ。でもこれは勇者が置いたものではない。じゃあ誰が置いたのでしょう?」


「それは簡単ね。魔物が帰るために置いた。」


「その通り。だから意外な名前が登録されていた。知りたい?」


「まあ教えてくれるなら。」


「じゃあ言うよ。怒らないでね。そこにあったのは”The Castle of The Demon Load”こちらの言葉にすると大魔王様の城かな?」


 マギーがあっと驚いた。口にしてはならない禁忌の言葉である。


「ああ、もう最悪。それは言わないでって言ったじゃない!」


「教えてって言ったのはそっちだよ。それに今更恐れることなんかないさ。」


「どういう意味よ!」


「もう第二の魔王が現れているんだ。これ以上悪いことは起きないさ。第三の魔王が現れるには、まず第二の魔王を倒さなくてはならない。」


「何それ。今度は預言者のつもり?過去から未来まで全てあなたのものなのかしら?」


「まあ、まだ来ない未来の問題は未来の住人に任せよう。今はその問題を解くのが先、レポートするか口頭で報告してね。期限は特に決めない。随時質問には答える。途中経過を披露してくれてもいい。」


「分かったわ。絶対負けない。あなたの知識は全部私のものにしてあげる。」


 俺は退室することにした。彼女が本に集中しだしたらもう誰の声も聞こえなくなるから・・・。

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