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最終決戦の決着

微妙に暗い、かもしれないので苦手な方は注意!



「覚悟だ! 魔王!!」


勇ましい叫び声を上げて魔王に剣の切っ先を向けたのは勇者。

続く勇者の一行も決死の表情で魔王に立ち向かっていた。


傷つきながらも真っ向から魔王に突っ込んでいく勇者。


その背後で、ある者は勇者の傷を癒し、ある者は魔王に攻撃魔法を叩きつけ、ある者は魔王に付き従っている魔族どもを蹴散らすためにハンマーを振り回す。





そんな鬼気迫る戦闘を、私は冷たく眺めていた。



「ばっかみたい」



本当に馬鹿らしい茶番劇だ。

あまりの馬鹿らしさに鼻で笑う気力すら起きない。

それでもこの場を離れずに留まっている自分自身にこそ一番腹が立つのだが。



私は戦闘が始まった瞬間に戦闘区域である広間の中心から端まで移動し、そこで自分の能力を解放した。

それと同時に、自分の周囲に堅固な防御結界と不可視結界を張り巡らせ、勇者(一行)VS魔王(とその配下)の最終決戦を一人高みの見物している。





魔王は初め、余裕綽々に高笑いをして勇者一行を迎えていた。


だが、戦闘が始まり、私が能力を解放すると、暫くしてから突然顔色を変えた。

今じゃだらだらと顔面に冷や汗をかきながら憤っている。


「この、人間如きがあぁぁぁ!!!!!!!」


そう怒鳴って放たれた炎撃はどう見てもしょぼかった。

それでも勇者一行には充分に脅威だったらしく、勇者が左手を火傷し、勇者一行を魔法で防御していた女は防御を破られた反動リフレクトで床に転がっている。





私はその光景を冷めた目で眺めながら嘲笑した。


(しょぼ……さっきも魔力を失くしてるのに気付くの遅かったし、未だに原因に気付いてすらいない……ま、仕方ないか。あんな小物の偽魔王じゃね)


ちなみに、勇者一行について無視スルーなのは既に実力を知っているからだ。話にならなさ過ぎて最早突っ込む気すら起きない。





(それにしても……)


私は目を細めて辺りを見回す。

怪しい気配はない。この大広間には魔王と勇者一行と私しかいないはずだ。


それなのに首の後ろがチリチリする。

それは自分より上位の存在がいる証だ。


私の命を脅かすほど強い者がいる。

姿も気配もしない強者、となれば私と同じように遮断結界を展開しているのだろう。


結界によって生まれる空間の歪みを探す。





「いた」


ごく僅かな歪みを広間隅の上空に見つける。

瞳に力を集中させてじっと見つめるとうっすらとだが中の様子が見えた。




全身真っ黒な装束、その中で時折光る銀の装具。だが何よりも目を引くのは、日に焼けた肌にまるで光のように輝く金髪・・

眇められた瞳の色のみが魔を表す漆黒に染まっていた。


魔族には珍しい――と言うかほぼありえない――取り合わせの色を持つその男を、私は物珍しく眺める。すると、視線に気付いたのか男の顔がふっと上がり、こちらとばっちり目が合った。


私は敵意がない事を示す為ににっこりと笑う。

それを見た男は何故かこちらを睨みつけてきた。私は肩を竦めて苦笑すると、すぐに視線を勇者と偽魔王の戦いに戻す。





ドゴオォーン



「これで!! 終わりだ!!!!!」


大きな爆発音と勇者の宣言が響き、肉に刃物が埋まる鈍い音がする。


勇者が勢いよく剣を引き抜き、後に飛び退くと偽魔王の身体はゆっくりと前のめりに倒れた。


動かなくなった魔王を見て、勇者が剣を高々と掲げる。



「魔王は死んだ!!!!! 俺達の勝利だ!!!!!」



勇者の後ろで倒れていた一行が、その叫びに喜びの声を上げる。





私は素早く結界を解いて、広間の壁に身体を預けたままその光景を眺めた。


嘲笑を浮かべながらぼそりと小さく呟く。


「オメデタイ人間たちだな」


ココまでくるとむしろ哀れですらある。

まぁ、それでも私は哀れむ気も同情する気もないが。




すると、起き上がった勇者一行の一人が私の姿に漸く気がついた。


「あんた、自分だけそんな所に逃げていたのね!」


周囲にいた人間もその声に釣られて私の方を見る。

それぞれの視線に浮かんでいるのは、侮蔑、憤怒、嘲笑、嗜虐と実に分かりやすかった。


私は僅かに唇を持ち上げると、身体を起こして勇者に近づいた。


「契約は果たした。これを外してもらおうか」


勇者以外の人間をきっぱりと無視して勇者に話しかけると、周りの人間の顔が醜く歪む。それを視界の端に収めて私は内心でせせら笑った。


(本当に馬鹿らしい)


だが、この馬鹿らしい茶番劇も此処までだ。これ以上付き合う気はない。


「外せ」


淡々と勇者の瞳を見返しながら自分の手を持ち上げる。と、手首についている枷の鎖がチャリと高い音を立てた。





それは忌々しい枷だった。

名を『隷属の腕輪』と言う。

名前を聞いて分かる通り、人間を思いのままに従わせる事が出来る手枷だ。

昔は奴隷や罪人に使われていたそれは、今では大陸中で禁忌とされる忌物いぶつ。それをこの国の王に乞われて勇者が私に施した。




本当に笑わせる。

正義の味方ゆうしゃを謳っている人間が同じ人間にこんな物をつけさせているのだから。





しかし勇者は眉根を寄せつつきっぱりと言い切った。


「ここでは外さない」

「契約を破るつもり?」


私は腕輪を眺めていた目を上げて勇者を睨みつけた。勇者はそんな私の様子に更に眉間の皺を増やして口を開く。だが、勇者が声を出すよりも早く勇者一行の一人が声を上げた。


「あんたの方こそ契約違反じゃない! 戦闘に参加もしないで偉そうな事言わないで!!」


その言葉に追従するように勇者一行から不平不満が溢れ出る。どの言葉も私を責めていた。

だが私はそれをはんっと軽く鼻であしらう。


「私の契約は『勇者の旅に同行して、魔族との戦闘で能力を解放する事』よ。ここまで旅について来たし、さっきの戦いで能力は解放した。契約は果たしたわ」

「嘘をつかないで欲しいわ。あなた、変化してないじゃない」


反動リフレクトで転がっていた女が上半身を起こしてこちらを睨みつけていた。

私はそれを存在ごと無視して勇者にもう一度告げる。


「外せ」


無視された女が顔を歪ませて詰め寄ろうとするのを勇者が止める。


「契約を果たさねば外すわけにはいかない」

「そんな女の言葉を真に受けてるわけ? 私は言ったはずよ。『さっきの戦いで能力は解放した』と」

「あなたの言葉なんて信じられません!! 変化してないのがその証拠です!!」


ヒステリックに叫ぶ女を無視して続ける。


「勇者なら分かってるはずよ。この腕輪をしている私はアンタに嘘をつけない・・・・


だが勇者の言がひるがえる事はなく。


「外すなと王より言われている」

「つまり初めから契約を守る気はなかったと?」

「ち、違う! お前は魔物に呪われ、人間を裏切ったそうだな。ならばその道を正してやるのも勇者の役目だ! 王からも呪いが解けるまで外すなと命じられている」


私の心が急速に凍てついていく。顔から表情が消えた。






それは不条理な反故。



それは身勝手な理屈。



それは理不尽な命令。






「そう」


ならばもうここには用はない。

私は踵を返すと、そのまま広間から立ち去るべく歩き出した。








「罰=Lv-5、実行」








だが、そこに勇者の声が響いた。










「がっ、ああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!」



勇者の命令に反応した隷属の腕輪が、痛みという感覚をダイレクトに伝えてくる。


神経に灼熱の鉄棒を当てられているような尋常ならざる痛みに、私は恥も外聞もなくただのた打ち回った。

目からも口からも液体が零れて顔をぐちゃぐちゃに汚し、床に染みを作っていく。


唯人ただびとであれば死んでしまうほどの痛みに晒されながら、強靭な精神故に死ぬ事も出来ず、また隷属の腕輪の効果故に気絶する事も叶わない。


その責め苦にただただ絶叫を漏らし、自分の身体をきつく抱き締めてのた打ち回る事で痛みに耐える私の顔を勇者一行の一人、魔術師の男が踏みつけた。


「お前にはお似合いの格好だな」


その男に釣られたのか、他の一行も次々に私の肩を足を背中を尻を腹を蹴り飛ばしていく。

勇者はそれに参加はしないものの、ただ黙ってその様子を見ていた。


痛みに朦朧となる視界の端でそんな勇者を捉えて、こんな状況にも関わらず笑いが込み上げてくる。

私は、地面に這いつくばったまま嘲る笑いを勇者に向けた。


すると、それを見た勇者は、怒りに醜く顔を歪め、その勢いのまま叫んだ。





「罰=Lv-6、実行!!」







「あああああああああぁぁぁ……ああぁ……ぁあぁぁ………あ…ぁ…………」


更に甲高くなった私の絶叫は、すぐにか細くなって消えていった。

その代わりに身体がぶるぶると小刻みに痙攣し、大きく見開いた目と口からはだらだらと液体が流れて染みを大きくしていく。





気絶する事も許されず、朦朧とする意識の闇の中で私は昔を思い出していた。





今と同じように、地面に転がって死にそうになっていたあの頃を。




ここまでがブログ掲載分。

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