File98 財産が国に没収される
これは別に共産主義国の話ではなく、わが日本国でのお話である。あなたの財産が国に没収される可能性があるのである。
現在、政府の借金の総額は1000兆円規模に達した。これは、個人のネット金融資産(資産から負債を引いた純額)とほぼ同額になるという。
世の中では、かなり以前から国債の暴落説がささやかれているが一向にその兆しは見られない。その理由として、偉い経済学者さんたちは国債のほとんどが日本国内で引受けられているので、破綻はしないと説明する。しかし、この説は部門間(統計上では政府、個人、企業というような部門区分がある)の資産・負債の偏在について何も語ってくれていない。
分かりやすく言うと、ご主人(政府)が借金まみれでも、奥さん(個人)がたっぷりヘソクリを持っているので大丈夫と言っているだけのことである。でも、ご主人がいよいよ借金を返せないとなると、取立て屋さんは奥さんのところに押しかけてくることになる。
まず、消費税を上げるのが最も手っ取り早い。実際、消費税率はもうすぐ10%に引き上げられる。でも、これだけでは焼け石に水で、将来の社会保障費をまかなうためには消費税率は最低でも30%は必要と言われている。それでも毎年の収支をトントンにするのが精いっぱいなので、昔から積み上がってきた1000兆円の方を返す余裕まではない。
次に考えられるのは所得税や法人税であるが、これも無制限に引き上げるというわけにはゆかない。日々の生活資金や経営資金が奪われることになるし、何より日本の所得税率、法人税率はすでに世界的に見てもかなり高いレベルにある。上げ余地は少ないと見られる。
結局、行き着くところまで行くと、取れるところから取れという話になってくる。租税の原則の一つに「応能負担」という言葉がある。つまり払う能力のある人に負担していただくという意味である。ない袖は振れないということわざがあるように、おカネのない人からいくら取り立てようとしても無理なものは無理なのである。
もって回った言い方をしたが、結論は、一言で言うと「資産課税」である。相続税の最高税率が引き上げられることになったが、これはほんの序章に過ぎない。今後はますます資産に対する課税が強化されてゆくであろう。もうそこしか取れるところが残っていないからである。土地、株は言うに及ばず、銀行に預金をしているだけで税金が取られる時代が到来するかもしれない。
そんなバカな、と拒否してみたところで、強制執行という最後の手段が待ち受けている。国債のデフォルト(債務不履行)である。国債が償還されないと、国債を大量に保有している銀行も潰れる、そうなるとあなたの預金は払い戻しされなくなる。どう転んでも、あなたの財産は回り回って国に没収されるようにできている。要は、最後の審判の日に誰が最も損をするのかというだけの話である。
どうしても嫌だという人のために…、没収を免れる唯一の方法がある。海外への逃避である。海外に移した資産まではさすがに日本政府も手が出せない。既に、フランスや香港では資産の海外逃避が起きているという。日本でも金持ちはもう動き始めているかもしれない。
(追記)
銀行預金に課税されるという恐ろしい話が、キプロスで現実になりかけた。最後は、大口預金者の預金を没収する、いわゆるペイオフ方式で決着がつきそうであるが、この事態は今後日本でも十分起こりうると考えておくべきである。
資産課税が強化されてゆくであろうと予測する根拠は、少子高齢化に伴って経済活動が縮小してゆくというところにある。現在、日本の課税方式はフロー課税主義である。「フロー」とは、モノやカネの流れを表している。つまり、モノやカネが流れた際に税金を取るという考え方である。給料(所得税)、売上(法人税)、消費(消費税)…、日本の主要な税目のほとんどは経済のフローに課されている。
これに対し、ストック課税という課税方式がある。これは、おカネやモノが流れなくても資産を持っているだけで課税されるという方式で、固定資産税や相続税がこれに当たる。フロー課税主義は一見合理的なように見えるが、カネやモノが動かなければ課税されないという利点がある。だから極端な話、100億円の資産家でも資産を動かさない限り一銭も税金を払わなくて済むという奇妙なことが起きてくる。
今までは、旺盛な経済活動のおかげで黙っていても税金が入ってきていたので政府も特に困ることはなかったが、少子高齢化の影響でフローが伸び悩んでくると、フロー課税だけでは税収が思うように増えなくなる。
個人でも、収入だけで支出がまかなえなければ預金(資産)を取り崩すことになる。これと同じことが国レベルで起きるということである。フロー課税で足りない分はストック課税でまかなうしかない。土地、株、預金、ありとあらゆる資産に対する課税が始まる。国民総背番号制度はそのための序章に過ぎない。国に財産が没収される日は着実に迫ってきているのである。
(追記2)相続税100%課税の恐怖。
究極の財産没収方法は相続税100%課税である。つまり「財産一身専属」である。そもそも「財産」とは何かを考えた場合、それは人が生きてゆくための糧である。であるならば、死人には当然のことながら財産は不要のものとなる。死んだ人の財産を国が没収しても何ら問題は生じないはずである。
ただ、残された遺族の生活もあるため、最低限の遺留分は残してやるべきであろう。それでも、何十億円という金額は不要である。せいぜい数億円までであろう。
これは共産主義とも少し違う。共産主義は、国民が生産したモノはすべて国民の共有物であり一切の私有を認めていない。いくら一生懸命働いても自分のモノにならないため、誰も真面目に働こうとしなくなる。ゆえに共産主義は終焉を迎えた。
これに対して、「財産一身専属制度」は、人が生きている間の所有は無制限にこれを認めるものである。だから、才覚のある人は、どんどん稼いで財を成し、そして贅沢三昧の生活もすればよい。それこそが資本主義そのものである。
但し、一旦その人が死んだら、財産は誰のものでもなくなる。これは、ある意味「国家資格」に似ている。医師や弁護士といった資格は、当然のことながら一身専属で、誰にも相続できるものではない。あるいは、歌手やプロ野球選手の財産も、その人個人のモノであり、その子供たちには何ら関係がない。
親の財産を当てにして生きてゆくのは、もはや資本主義ではない。そこには起業家精神も能力主義も何もない。ただ、昔築かれた財産を無為に消費するだけのものである。
昔流行った人生ゲームは、すべてのプレーヤーが等しく100万円の手持ち金を手にしてスタートする。そして、上がりに到達する頃には億万長者になる人もいれば、破産する人もいる。だからゲームが成立し、皆が楽しく遊べるのである。最初から、億万長者がいれば、誰もそんなゲームに参加しないであろう。不平等があまりに大きすぎるからである。
今や、個人の金融資産は1500兆円に達すると言われている。相続税100%課税(遺留分があるので実際は95%くらいかな)により一気に国の借金を減らすのも悪い話ではない。




