File76 究極の円高・デフレ対策
円高対策、デフレ対策と、日本の経済政策は途上国から見れば本当にうらやましい限りの内容である。通常、途上国のような経済弱小国は、自国通貨が弱く、しばしばハイパーインフレに悩まされる。実際、今は元気なブラジルもつい20年ほど前までは、1年でゼロが2つぐらい増えるインフレと通貨安に苦しんだ。世界中を見ても、自国通貨が強くなり、物価が下がったことで対策を講じようなんていうぜいたくな悩みを持っているのは日本ぐらいであろう。
普通、自国通貨が強くなれば、自国の購買力が上がるので喜ばしいことである。日本が円高になって困る理由は、輸出企業の価格競争力が落ちて日本製品が売れなくなる、あるいは円換算した時の利益が少なくなるということが言われる。細かいことは、経済学の教科書に譲るとして、では何かいい対策はないのであろうか。
ここからは筆者の独り言になるが、国債のデフォルト(債務不履行)宣言をしてしまうという究極の方法がある。要は、ギリシアと同じように日本政府が、借金はもう払えませんと万歳してしまうのである。自国の信用力を上げるのは大変だが、信用力を落とすのはとても簡単である。
これで、日本の信用はガタ落ちになり、円は対ドルで一気に50円くらい値下がりし、物価も10%以上は確実に上がるであろう。言わば、一種のショック療法である。
ただ、注意を要するのは全額払わないと言うと大混乱に陥るので、元本1割カットくらいがいい線かなという気がする。要は、いま国債を持っている人全員に、あるDデーに抜き打ちで額面の90%しか償還しませんと宣告してしまうのである。
とんでもないと言われそうだが、世上よく言われている「金融緩和」も、実は経済効果的にはこのデフォルトと同じなのである。金融緩和とは、要はお札をたくさん刷るということだから、それだけ通貨の価値が下がることになる。単純に言えば、お札を10%多く刷れば、国債の価値は10%下がる(厳密にはいろいろな間接効果があるので10ピッタリにはならないかもしれないが)ことになるので、先程の元本1割カットと同じことになる。
今や日本政府の借金は1000兆円に達しており、いつ暴発してもおかしくない状態にある。であれば、風船がパンパンに膨らんでから爆発させるよりは、少しずつガス抜きをした方がショックは少なくて済む。国の借金も減るし、通貨も円安になり、デフレも解消する。一石三鳥のような気もするが、どこか間違っているでしょうか。
(追記)
ついにパンドラの箱が開いてしまった。今の日本経済の状況は20年前のバブル前夜に酷似している。当時、プラザ合意以降の急激な円高への対策で中曽根内閣は内需拡大を旗印に大幅な金融緩和を容認した。
金融を緩和すれば内需が刺激され景気が浮揚すると考えられたわけだが、当時すでに国内の需給は大幅な供給過多、つまりモノの作り過ぎ状態で、多少の景気刺激策では物価は上がらず、結局世にあふれ出たマネーは土地・株に向かい、バブルを発生させた。早くから狂乱地価に警鐘を鳴らすエコノミストもいたが、日銀の澄田総裁は物価は安定していると唱え続け、大幅な金融緩和を続けた。
その後のことは歴史の教科書に記された通りである。
バブルに至ってしまった最大の原因は、金融政策の指標となる「消費者物価指数」統計に地価や株価といった資産価格が入っていないところにある。だから、土地や株の価格が2倍、3倍に跳ね上がっていても、統計で見える物価は上がっていないように見えてしまう。つまり、間違った統計を基準に金融政策がなされてしまうのである。
この構図は20年経った今も基本的には変わっていない。今日のデフレの原因は相も変わらずモノの作り過ぎにある。モノが余っている状態で金融を緩和し続けても物価が上がることはない。恐らく、黒田総裁も、地価や株価が暴騰していても、消費者物価はまだ2%に達していないと唱え続けるに違いない。それはとりもなおさずバブルの再来である。
まさに歴史は繰り返すとはこのこと、その行き着く先は新たなバブルの崩壊である。そして今回のケースが前回に比べてさらに性質が悪いのは、政府が巨額の債務を有しているという点である。このような状況下でバブルが崩壊すれば、「File98 財産が国に没収される」ということになりかねない。今度は、マネーゲームに参加しなかった人にも、もれなくそのとばっちりが飛んで来る。
ああ、平成の鬼平(故日銀の三重野総裁のこと)さんがいてくれたらいいのに。




