File63 ストーカーの恐怖
最近、ストーカーによる被害が増えている。中には、被害者が殺傷されるという痛ましい事件もあった。ストーカーの本質とは一体何なのであろう。ストーカーの多くは恋愛感情のもつれによるものであり、男性から女性に対するものが圧倒的に多いという。こう書くと、単なる横恋慕あるいは片思いじゃないかと思われるかもしれないが、実際には、恋のもつれ以外にも、仕事上や取引上のトラブルからストーカー行為に発展するケースもある。
「スペル」というホラー映画では、主人公の女性銀行員が社内規則に従って貸付の返済繰延べを断ったという理由だけで、顧客から逆恨みされて執拗なストーカー行為を受け、最後は殺されるというショッキングな内容が描かれた。主人公のセリフ、「私は単に上司の指示に従っただけ、何も悪いことはしていない」というのが痛ましい。こんなことで殺されたら、それこそ命がいくつあっても足りない。
少々横道にそれたが、某心理学者によると、ストーカーのうち本当の精神障害による割合はわずか0.5%ほどで、ほとんどはその行動が極端に偏執的であるだけで、精神的には正常という分析がなされている。果たしてそうなのだろうか。「File3 人はなぜ遊園地に行きたがる」でも書いた通り、人の脳の働きはドーパミンやセロトニンといった脳内物質によってコントロールされている。そして、この脳内物質は麻薬と似た働きがあり、繰り返し分泌を促しているとだんだんと効き目がなくなり、より強い快感を求めるようになる。ギャンブル依存症や買い物依存症などもこれと同じである。
ストーカー行為も、徐々にその執拗さ、陰湿さがエスカレートしていくことを考えると、どうもこの○○依存症と同じではないかという気がする。追いかける相手に付きまとったり嫌がらせをすることで、その相手が怖がったり、困ったりするのを見ることで快感を覚え、だんだんと行為をエスカレートさせてゆく。仮にストーカー依存症なる病気があるならば、精神病としてきちんと治療し、必要ならば強制隔離という手段も取るべきではないだろうか。
現行のストーカー規制法では、単に被害者に近づくなという「警告」と「禁止命令」があるだけで、ストーカー行為者を緊急的に強制隔離するところまでは認めていない。しかも被害者からの告訴がないと警察も動けないというから、いつも手遅れという最悪の事態になる。被害者が気の毒でたまらない。
(追記)
ストーカー類似行為としては、悪質なクレーマーも同根である。クレーマーは本当に何か言いたいことがあって文句を言ってきているというよりは、文句を言うこと自体に快感を覚えている、あるいはストレス発散を求めているように思える。
その一因として、消費者過保護とも言える行政対応にも問題がある。従来は、消費者は弱い立場にあるため、行政が介入して悪質業者から消費者を保護する必要があるということで、いろいろと制度の整備が進められてきた。ところが、最近ではそれを逆手に取ってクレームをつけるストーカー的「モンスター」が増加してきており、サービス業界ではその対応に苦慮するケースも増えている。
モンスターペアレント(怖い父兄)は学校にしばしば出没するお化けで、些細なことで教師に当たり散らし、教育委員会に言いつける等と脅し、最悪は教師を自殺に追い込んだりもする。
モンスターペイシャント(怖い患者)は病院にしばしば出没するお化けで、治療方法が悪かったと医者に文句を言い、医療裁判に訴える等と脅し、最後は医者を刺すというケースもあった。
モンスタークライアント(怖い投資家)は証券会社などによく出没するお化けで、投資で損をさせられたと言っては、損害賠償を請求する。つい先日も、高齢の認知症患者に投資信託を売ったと訴えたケースがあったが、これももうかっていればダンマリで、損をしたときだけ認知症になるという都合のいい投資家だったかもしれない。
モンスターカスタマー(怖い顧客)は通販会社等によく出没するお化けで、クーリングオフだと言ってはやたらと返品をしたがる。しかも、一度使ってしまってから平気でキャンセルするため引き取らされる方は丸損である。
これらのモンスターは普通では思いもよらない理屈でクレームを付けてくる。筆者も某サービス業界に勤めていた頃は、顧客からのクレーム対応はそれこそ毎日のようにあった。テレビドラマなどでは、大抵は主人公の誠意ある対応でモンスターも最後は丸く収まるというハッピーエンドが多いが、そういうのはまれで、実際は殴られっぱなしというのが大半である。そういうケースでは、ただただ耐えて相手が殴り疲れて退散するのを待つしかない。同期生では自殺者や退職者も何人か出た。
最近の若い人は殴られ慣れしていないので、すぐに辞めてしまい、対人恐怖症になる人もいる。消費者保護もあまり行き過ぎると、経済を委縮させ、安定した雇用機会を損なうおそれがある。
仕事上のトラブルが原因でストーカー的顧客から陰湿で執拗な嫌がらせを受け…
詳しくは拙著「鬼客の禍」を読んでください。限りなく実話に近いフィクションです。




