File50 日本の人口がゼロになる日
総務省所管の人口問題研究所が日本の人口が50年後に9000万人を割るという推計を出した。別に難しい話ではない。日本の合計特殊出生率はいま1.3ぐらいである。これは、1組のカップルが一生に生む子供の数である。人口が減らないためには、この出生率が2.1くらいないといけないとされている。夫婦2人で、2人の子供、それと病気や事故で亡くなる可能性を少し加味して、2.1となる。
これが1.3しかないというのだから、日本の人口問題はもはや危機的状況である。1.3を裏返しにして読むと、一世代を経るごとに日本の人口は0.65倍(1.3÷2.0)になるということである。出産適齢期を20歳から50歳の30年間とすると、30年ごとに日本の人口は0.65倍ずつに減ってゆく。今の日本の人口が1億2千6百万人だから、その0.65倍で約8千万人となる(政府の推計は若干の平均寿命の延びやその他の要因も勘案しているのでもう少し多い)。
問題は政府も示していないその先のことである。仮に出生率の改善が望めなければ、さらに日本の人口は30年たつごとに0.65倍ずつに減ってゆき、「…×0.65×0.65×…」と40回ほどかけると4という数字になってしまう。つまり1200年後の日本の人口は4人である。
まあ、これは極端な例で、実際はどこかの時点で出生率が反転して再び人口が増え始めるのではないかとの楽観論も聞かれるが、ことはそう単純ではない。すでに10組に1組くらいのカップルが不妊症だという。「File7 人の精子の数が減っている」ですでに書いたとおり、人口減少が単なる社会現象ではなく自然現象として起きているとしたら、出生率の改善は容易なことではなくなる。国がいくら産めよ増やせよ、やれ少子化対策だと、旗振りをしても人口減少は止められない。
国はそろそろ効果の乏しい少子化対策をあきらめて、すべての政策を人口減少社会を前提としたものに切り替えてゆくべきではなかろうか。仮に日本の人口が5千万人を切る水準まで減れば、電力需要は半分になるし、年金の財政繰りも大幅に楽になる。人口が減っても必ずしも悪いことばかりとは限らない。
(追記)
最近の不妊症治療は、体外受精、顕微授精とどんどん高度化していっているが、不妊症増加の原因をはっきりと突き止めないまま安易に生殖医療を拡大してゆくのは危険が高いと思う。
拙著「不妊列島」では、環境ホルモンが原因で日本に不妊症が蔓延しているというシナリオを描いたが、仮に不妊症が遺伝病だとしたら、ことはより重大性を増してくる。不妊が遺伝によるものなら、不妊症患者から生まれた子供も不妊症になる可能性が高い。そうやって、日本国中に不妊遺伝子が蔓延してゆくと、遠い将来日本人の半分は人工授精をしないと子供ができなくなるなんてSFみたいな話が現実になりかねない。
「File38 出生前診断の是非」の追記でも書いたが、筆者は男性不妊症患者である。今のところ五体は全く健康だが、精子の数だけが極端に少ない。原因はわかっていない。
先日、不妊症のマウスのある遺伝子を活性化させる薬を投与したら精子の数が増えたという研究成果が報告され、将来の不妊治療に役立つかもしれないとの記事を目にした。ということは、不妊に遺伝子が関係しているということになる。仮に、不妊が遺伝によるものなのであれば、不妊症患者に生殖医療を施すことは不妊遺伝子を日本中にばらまくことになり、民族滅亡のリスクを高めることになりかねない。
やはり、安易に神の領域に踏み込むのは止めた方がいいのかもしれない。
(追記2)
この問題につきもう一つ重要な視点が抜けていました。今の日本の人口が適正水準かどうかについて国民的議論もないままに、安易に政府が「少子化問題」などと、人口が減ることは悪いことだと決めつけるような広報を行なっている点です。
日本の人口が多すぎるのではないかという議論はすでに高度成長時代にもありました。当時は、公害が盛んに発生し、物資も不足して物価も上がり、日本の人口密度は世界一高いとかいう話もありました。
ところがいつのころからかこうした議論は影を潜め、少子化が問題視され始めたのです。そのきっかけは高齢化により社会保障負担が増え始めたころからです。以前は5人で1人の高齢者を支えていたのが、将来は2人で1人を支えなくてはならない、だから負担を減らすために子供の数を増やさなくてはならない。
分かりやすいようですが、極めて短絡的なロジックです。高齢者を支えるために子供を増やせば、将来その子供が高齢者になった時さらに多くの子供が必要になるだけです。誰かがどこかで辛抱しない限りこの連鎖は続いてゆきます。
今は苦しくても、人口が5千万人くらいまで減れば確実に一人当たりのGDPは上がり、原発も不要になり、生活も楽になります。そうなれば、自然と出生率も上がり正常な人口ピラミッドが再構築されるでしょう。
まずは、少子化が本当に「悪」なのか国民的議論をもう一度きちんとするべきだと思います。




