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File24 ヒッグス粒子は発見されるか

昨年12月、ヒッグス粒子が発見された可能性があると発表され、世界的に大騒ぎとなった。出所はCERN(欧州合同原子核研究機関)、ここにある粒子加速器という機械を使った陽子の衝突実験で明らかになったという。

と言っても、素粒子物理学に興味のない人には、何のことやらチンプンカンプンンと、いうことになるかもしれないが、このニュースがこれほど大騒ぎになるのは、それなりの理由がある。事はあなたの生死、いや存在そのものにかかわることだからである。

あなたの体を細かく砕いてゆくと、細胞になり、細胞はさらに原子になり、原子はさらに素粒子になる。この素粒子に質量を与えているのがヒッグス粒子とされる。もともとは1960年代にイギリスの物理学者がその存在を予想し、長年あまたの物理学者が探してきた粒子である。

物理学では、質量とは重さではなく「動かしにくさ」を表す。動かしにくいのは動くことを邪魔しようとする何かがあるからである。例えば、あなたがプールに入って歩こうとすると、外にいるより歩きにくくなる。水があなたの動きを邪魔するからである。ヒッグス粒子はこのプールを満たす水のようなものだと、たとえで表現される。

でも、あなたの目には何も見えていない。それはヒッグス粒子がとても小さいからである。10のマイナス33乗センチメートル、つまり1センチの1兆分の1の1兆分の1のさらに、もう訳が分からなくなるのでやめておこう。それだけ小さいということである。もちろん最新鋭の電子顕微鏡でも絶対に見えない。

あなたが、動かずじっと座っていられるのは、実はこのヒッグス粒子のおかげなのである。ヒッグス粒子がないと、物質に質量が与えられないため、あなたの体はスルスルと滑ってじっとしていられなくなる。それは無重力ともちょっと異なる。無重力は単に重力がないだけで、無重力状態の中でもあなたの体はきちんと存在し、そして力を加えれば動く。でも、ヒッグス粒子がないと、あなたの質量そのものがなくなる。それはあなたの体を構成している素粒子のすべてが、自由に好き勝手に飛び回り始めるということである。つまり、あなたの体はバラバラになり、雲散霧消して消えてしまう。あなたの体だけではない、およそこの宇宙に存在する万物を存在たらしめているのがヒッグス粒子なのである。「神の粒子」と呼ばれる所以である。

さて、このヒッグス粒子を見つけるのは実はとても難しい。まず、どんな精巧な顕微鏡を使っても直にこの粒子を見ることはできない。粒子加速器による陽子衝突実験により検出されるエネルギーの流れをつぶさに調べることで、間接的にその存在を証明するというややこしい方法がとられる。何兆個という陽子を衝突させ、それを解析することで、このエネルギー現象はヒッグス粒子の存在を仮定しないと説明できない、よってヒッグス粒子は存在するという、帰納法的な考え方がとられる。

だから、ヒッグス粒子が発見されたといっても、それを実際に目で確かめたわけではなく、それが存在する確率が99.99%、だから「発見」したということになるそうだ。何か、いい加減のような気がするが、物理学の世界ではこれでいいのだそうだ。

それでも、実際にヒッグス粒子がどんな形をしているのか見てみたいという人もいるかもしれない。それでここから先は想像の世界の話になる。粒子と言うからには、何か粒々があるのかというと、正確にはそうではない。物理学者によってはヒッグス粒子ではなく、ヒッグスフィールドという言い方をする人もいる。その方が実態に近いからかもしれない。あるのは、粒々ではなく、エネルギーの山谷なのである。

これはサッカー場に生えている芝生をイメージすると分かりやすいかもしれない。実際、サッカー場も英語ではフィールドと呼ばれている。仮に芝生(ヒッグス粒子)のないサッカー場があったとすると、蹴られたボールは止まることなく光速で転がってゆく。選手もスルスルと光速で滑るのでプレーにならない。まあ、すべすべのスケートリンクでサッカーをしているようなものである。

ところがサッカー場に芝生を植えると、途端にボールは転がりにくくなる。スパイクを履いた選手も走りやすくなる。ボールと選手が芝生によって質量を獲得したからである。そして、この芝生が深くなるほど、ボールも選手もますます動きにくくなる。この芝生が生えている状態を物理学の用語でエネルギーが励起しているという。芝生の一本一本がエネルギーの励起した状態を表していると思えばよい。これがヒッグス粒子の正体である。万物は、この芝生があるおかげで、スルスル滑らず姿形を留めていられるのである。

では、ヒッグス粒子は本当に発見されるのであろうか。筆者は、ヒッグス粒子は発見されると思っている。なぜなら、それがなければ、自分という存在すらもなくなってしまうからである。

ところで余談になるが、筆者はヒッグス粒子には、丁度コインに表裏があるように、表の顔と裏の顔があるのではないかと想像している。表がわれわれ物質世界とのみ相互作用し物質に質量を与える面、裏が反物質とのみ相互作用し反物質に質量を与える面である。サッカー場の芝生に、葉が生えている表の面と根っこばかりが生えている地下の面があるように。そして、この表と裏は特異な場面においてしか交わることはない。例えばサッカー場の土を掘り起こすとかいった場合である。これで、われわれの世界に反物質が存在しない理由の説明が付く。

(この話につきもっと詳しく知りたい人は、拙著「エクストラ・ディメンション(余剰次元)」を参照してください)


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