チャンス
すいません。3日で書きました。
すいません。10回しか推敲してません。
「ん?」
最初は、ほんの少し、本当にかすかに、何かが動いた気がしただけだった。
特にやることもなかった私は、その動いた物体が気になった。
見つかると思っていたわけではない。ただ、ほんの少し、本当にかすかに、気になっただけだった。
体の周りに円を描くように視線をめぐらせる。なにもなかった。気のせいか。
「きゅい!」
「!?」
それは突然だった。動物の鳴き声のような声が聞こえたかと思うと、次の瞬間、私の膝になにかが乗った。
「ひゃぁっっ!?」
情けない声を出す。私の膝の上に乗ったのは、一匹のネズミだった。
「ね、ネズミ!? ネズミって感染症とか持ってないのかしら……」
「きゅ?」
追い払ったり、逃げたりする前に、そんなことを考えた私はあまり普通じゃないのだろうか。ちょっと考え込むと、ネズミが顔を覗き込むようにして見つめてくる。
「あ、ちょっとかわいいかも……エサとかあげてみようかな」
私は、カバンに入っていたビスケットを砕いて、地面に置いた。すると、ネズミはまっしぐらにビスケットに向かっていった。
「きゅいきゅい!」
よく見るとあまりハムスターともあまり変わらない。というか違いが分からないだけだけど。
でも、ネズミってこんなに可愛かったんだ。
それは、気まぐれ。
私は、ネズミを飼うことにした。
まずは身体を洗ってあげる。感染症とか持って入られても困るし。
「きゅぅぅぅ!?」
あ、ネズミって水嫌がるんだ……ドブネズミとかもいるのに。
ネズミを洗い終わった私は、今度はエサをあげる。
「きゅいきゅいきゅい~」
まるで鼻歌を歌っているようだ。エサをおいしそうに食べる。私は癒された。
数日後のことである。
「君に、今度のプロジェクトの主任を務めてもらいたい」
これもまた、突然だった。
私は化粧品メーカーに勤めている。なんの特徴もない、ただの平社員だ。強いて言うなら、真面目に働いているのがとりえだ。そんな私に、突然回ってきた仕事。
「このプロジェクトは、うちと提携している生活用品メーカーの××さんとの共同プロジェクトだ。これ失敗させるわけにはいかない。仕事には能力も必要だが、何より絶対に投げ出さず、確実に仕事をしてもらう必要がある。そこで、君にお願いしたい。君の評価は聞いているよ。真面目な人だと」
部長にそう伝えられ、私はプロジェクトの主任を務めることになった。
「あのね、私、すごく大きな仕事を任されちゃった」
帰った私は、ネズミにエサをあげながら報告する。
「きゅう?」
首を傾げるネズミ。
「わかんないよね。あはは」
翌日から、大忙しだった。
私は、プロジェクトの社内人員を集め、さらに××さんとのミーティングで、何度も××本社へ足を運んだ。それ
が終わると、今度は私の部下となった人たちから書類を受取り、私が処理をする。主任なので、責任も重大だ。
このプロジェクト、1年間もの時間を経て、結果的に成功する。私は功績を認められ、係長へ昇進。給料も増えた。
プロジェクトは成功し、お金も溜まり、前ほど一生懸命仕事に取り組まなくてもよくなった。ストレスも減り、楽な毎日だ。
そんなある日だった。
ネズミがいなくなっていた。
探した。家中を探した。ネズミがどこから出入りするのかなんて知らないが、とにかく布団の下から冷蔵庫の隙間まで。しかし、見つからなかった。
それから、私の調子は急降下した。仕事ではミスを連発し、プライベートでも恋人にふられ、ストレス解消で始め
たギャンブルで借金を増やす。負のスパイラルだ。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
「ああ、ネズミ、君に会いたいよ……」
ちょっと勝手すぎる気もしたけど、そう思った。
私は、ネズミを待った。通勤途中、コンビニに行く途中、外に出る用事があると、周りを探すようになった。
当然だが、見つからなかった。
今日見つからなかったら、残念だけど、ネズミのことは諦めよう。そう思って、休日、ネズミを探すたびに出た。
玄関を開けて、伸びをする。さて、いくか。
「あっ……」
目の前に、ネズミがいた。あのネズミだ。私が巻いてあげたリボンをつけている。
「良かった……」
どうやら、隣の家にいたようだ。お隣さんに「ちゃんと面倒見てください!」と怒られてしまった。ごめんなさい。
そして、ネズミ。ずっと近くにいたのに気づかなかったとは……ごめんね。
これからは一緒に生きていこうね。絶対に離さないようにするから。
読んでくださった方、ありがとうございました。