7.悪夢
前の話が結構シリアスになってしまいましたので、反省。
今回はドタバタギャグテイストにチャレンジ。
できるかな?
村から外れた森の中。僕は草むらの陰に隠れていた。その向こうには追っ手の影。
声高に叫ぶ声。僕を捜しているのか。
「3騎、・・いや、5騎」
ここで追っ手をまけば、村に帰ることが出来るかも知れない。
そうすれば、みんなの安否が確かめられる。
と、遠くで吠え声がした。
「あれは・・・・・ヤバい!軍用犬だ!」
フェルゼンシュタイン伯爵の犬ども。
人間を掴まえ、喉頸をかみ切るという噂。
僕は必死で走り出す。気が付いたのか、犬どもの声が一段と高くなった。
倒れた大木をかいくぐり、藪をかき分ける。
でも、犬どもの声がどんどん大きくなってくる。
くそ、逃げ切れないのか!?
でも、この茂みの向こうに、”門”があるはず。
そこまでもう少しだ。そこまで行けば、あっちの世界に逃げられる・・・・
「きゃあ!!」
そこに立っていたのは、長い黒髪の若い女性。
大きな瞳をめいっぱい開いて、僕を見つめている。
「ゆ、佑衣さん!」
どうして佑衣さんがここに?
しかも、何で白い下着姿なんだ!?
「あ、あたし、ラバ君のことが心配で・・・・」
はあ?今、彼女はなんて言ったんだ?僕のことが心配?
いや、とにかく、今は逃げなきゃ!
後ろの犬の吠え声はどんどん大きくなっている。
その後ろ、追っ手達の声も聞こえる。
僕は彼女の手を取ると、走り出した。
ダメだ、犬の方が速い!これじゃあ、二人ともおしまいだ。
「佑衣さん、これ、もって逃げて!あっちに門がある!」
僕は彼女に魔法道具の入った袋を投げる。
「僕が奴らを引き寄せる。その隙に門から逃げて!」
「ラバ、だめ!あなたを置いていけない!」
彼女を置き去りにして、僕は門とは逆方向に走った。
あいつらが僕を見つけやすいように出来るだけ音を立てて。
いざとなったら、声だってあげてやる!
だから、佑衣さん、できるだけ逃げて。
ガサガサッという音がした。
いきなりズボンの裾が何かに掴まえられた。
僕はつんのめるように倒れる。
獣の体臭が僕に覆い被さってくる。
「こいつら、くたばれ!」
脚にかみついた奴を蹴飛ばし、かぶさってきた奴ははね飛ばす。
でも、立ち上がったところをさらに別の奴に襲われた。
そいつが僕ののど元に食らいついてくる。
必死になってそいつの牙からのがれようとする。
「ラバ・・・・ラバ!」
遠くで佑衣さんの声。
(畜生!・・・・佑衣さん、逃げて、逃げてくれ!!)
喉に強烈な痛みが走った!そして、目の前が暗くなる・・・・・・
☆ ☆ ☆
僕は目を覚ました。
ここは・・・・・・こっちの世界。あの家の、僕の部屋。
ほとんど荷物のない、がらんとした部屋だけど、誰にも追いかけられることのない、安全な部屋。
「ゆめ・・・・夢だったのか。でも、なんていう夢なんだ・・・・」
全身が汗びっしょりになっていた。心臓が激しく鼓動している。
「こっちに逃げてきたときの恐怖の記憶なんだ・・・・」
いや、少しずつ違う。まず、フェルゼンシュタインの犬の奴らには追いかけられなかった。
兵士どもだけだったから、逃げ切ることが出来た。
それに・・・・・佑衣さんがいるはずがない。
逃げきった後で、こっちの世界に来て出会っているのだから。
「しかも・・・・下着姿、ってのは、どういうことなんだ?」
思い出すと・・・・・リアルな記憶。肌にピッタリと張り付いた薄い白の下着。
・・・え?ということは、僕は見ている?なぜだ?
なんか、記憶が混乱してるぞ。
夢の中で犬にかまれた首に手を当てる。痛みが走る!夢じゃない!
僕はそっと首を触った。包帯の感触。首に怪我をしたのは事実のようだ。
でも、犬どもじゃない。あいつらなら、確実に相手の喉をかみ切る!
こんな、包帯なんかで済むはずがない。
これは、首の痛みから、夢で犬を登場させたと思った方がいいようだ。
そうだ、昨日、こっちの世界へ逃げてきて、佑衣さんと魔来子さんに出会って、
そう、契約をして、ここに住み込むことになって、眠ったんだ。
じゃ、今朝から思い出そう。今朝は、目覚めたら、目の前に魔来子さんが立っていたんだ。
でも、その魔来子さんは半分透明で、僕は腰が抜けるほど驚いたんだっけ・・・・・・。
♡ ♡ ♡
「ラバ様。これは立体映像です。
ラバ様が目を覚ましましたら、再生するようにセットしてあります。
私と佑衣様は訓練室で早朝訓練を行っております。お着替えの後、お越し下さい」
そう告げると、魔来子さんの姿は消えた。
すげー、やっぱり本物の魔法使いは違うなあ。
そう思いながら、僕は魔来子さんが用意してくれた服を着た。
黒いズボン、白いシャツに黒の蝶ネクタイ。
これが僕の制服だそうだ。
シンプルだけど動きやすい。悪くない。
僕は魔来子さんの言う、訓練室へ降りていった。
意外にラバ君の夢が格好良くて、長話。