46.和平
今回、ちょっと固いですか?(笑)
でも、案外、魔来子さん、カッコイイと思うんですけど。
こういう魔来子さんも最後までには書いておきたかったということで。
完璧に作者の趣味に走ってます。ハハ、ごめんね。
お城の大広間。東の国の家臣団や村の人たちも集まっている。
壇上にスクッと立ち上がっているのは魔来子さん。
その前には南の国の使節団が深々とお辞儀をしている。
「ようこそ、東の国へ。私が当主、フェルゼンシュタイン伯の妻、アンジェリーヌです。フェルゼンシュタインが亡くなりました今、私が当主を勤めさせていただいております」
「我々もその噂を聞きました。噂の真偽を確かめ、和平の道を探るべく、ここへ参った所存でございます」
魔来子さんも深々とお辞儀する。
「それはわざわざの遠出、心痛み入ります。こちらも早急に和平を求めるつもりでございました。今、南の国に侵入しております軍隊は即時停戦するつもりです。順次撤退を計るつもりですが、そちらの施設等にご迷惑をかけていると思います。これらの部隊はご迷惑の修復を行いながら、東の国の領土に戻すつもりでございます。もし、そちらに異議がございませんでしたら、ただちに和平条約を締結しとうございます」
魔来子さんの発言を聞いて、団員たちが驚きの声をあげる。
「おお、そこまでお考えでございましたか。和平条約の締結にはこちらも異存ございません。ただ、その条件としては、賠償金の請求と”村”の領有、そしてこの地への南の軍の駐留でございます」
魔来子さんの顔に微笑みが浮かぶ。
「和平条約に条件を付けるとはなかなか商売上手でございますね。でも、その正直さには感心いたします。では、こちらも正直にお答えします。
賠償金は応じません。国庫にそれだけの財源がございません。そのために先ほど、修復を行いつつ撤退と述べました。いわば、労働による損害賠償を行うことを提案したわけです。二重に賠償を行うつもりはございません。
次に”村”の領有は拒否いたします。そもそも、”村”は東の国のものではございません。ここにいらっしゃる村の人の国でございます。”村”がどこに属するのかは、村の人たちが決める話でございます。ただ、私も村の出身でございますが、村はやはり自主独立でありたいと思います」
僕は肯く。僕の周りでも何人かが、そうだと話している。
「最後の南の軍隊の駐留ですが、お断りいたします。南の国との戦争で負けたわけではございません。勝ったわけでもない国の軍隊が我が物顔にやってくるのを傍観しろとおっしゃる?とんでもございません。東の国は不屈でございます。そのような屈辱を飲めとおっしゃるのであれば、私と戦争する覚悟でお願いします。
ただ、私とその仲間は東の国の軍を壊滅に追い込んだ、”魔法少女”でありますことを、お忘れ無く。なんでしたら、これから南の国に乗り込んで、その力、お見せしましょうか」
その言葉を聞いて、僕は慌てた。
魔来子さん、でも、もうあっちの世界の力は、カガクの力は弾切れなんですよ。
「バカラバ、馬鹿正直にもほどがあるわよ。ハッタリよ、ハッタリ。でも、よく効くと思うわ。この脅しは」
佑衣さんが囁く。
佑衣さんの言うとおりだった。
南の国の使節団はがやがやと話し出す。
どうやら、思ったとおりにはいかないことがわかってきたようだ。
この奥方は見た目ほど甘くないぞ、そう言っているようだ。
「わ、わかりました。”村”の件も駐留の件も断念いたします。ただ、何らかの実を取って、和平条約の締結に・・・」
「なんと小賢しい!」
魔来子さんはピシャリ。
「小人は目先の利に迷って大局を見失うとは聞いておりましたが、そのような方であったとは。いいですか、皆さんの目の前には和平という大きな実利がぶら下がっているではありませんか。その収穫こそが本当の実利ではありませんか。それを小さな利益を得んとして、和平条約そのものを吹っ飛ばすおつもりですか?
よろしいですか。無条件で和平条約を結ぶのですか?それともこのまま戦争状態を続けたいのですか?直ちにお返事いただきとうございます。返事の内容によっては、私自ら、南の国に乗り込んで力を見せつける所存でございます」
わかってきましたよ。やっぱり佑衣さんの先生は魔来子さん、いや、姉さまなんだ。
ハッタリと言い、相手に有無を言わせない所と言い、どう見たって、佑衣さんは姉さま直伝。
「わかりました。なんと言っても、和平は両国の求め、望みでございます。無条件で和平条約を結ぶことといたします」
「それはよろしゅうございました」
魔来子さんはニッコリ微笑む。
「これから私の、国家元首としての戴冠式がございます。その式場にて、和平条約の発表が出来ること、それは両国の国民がきっと、心の底から喜びの声をあげることになると信じております。では、その時までどうぞ、ごゆるりとお休み下さいませ」
魔来子さんの声を聞いて、使節団の人たちは退席する。
最後の一人が部屋を出て、扉が閉まる。
椅子に座り込む魔来子さん。
心底から疲れたという感じ。
「ふうー、なかなか狸よね・・・・ま、国際政治っての舞台裏なんて、こんなもんなんでしょうけど」
佑衣さんが呟く。
「こっちの焦りをかぎ取られないようにするのが大変でございました。あの手の連中は、そういう臭いに敏感でございますから・・・」
「焦り?焦りなんてあるんですか?」
僕はびっくりした。焦りがあるのに、あんなに自信満々に見せることが出来るなんて。
「佑衣様が学校を休めるのは最大で今日まででございます。何もかも今晩中に片づけないと、明日は無断欠席となってしまいます。勉強をしっかりなさいませんと、ラバ様のような、不出来の生徒になってしまいます」
うわあ・・・・、そんなこと、言わないでください。
僕と佑衣さんは同時に頭を抱えて、しゃがみ込んだ。
さて、次回の予告。
いよいよ魔来子さん、国家元首です。でも、佑衣さん、なんか不安げな?
次回: 第9章 宴 第47話 戴冠式
刮目して待てっ!
(サブタイトルは変更する可能性があります。ご容赦下さい)