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魔法少女と呼ばないで  作者: どり
第7章 姉
37/50

37.アンジェリーヌ

 直球ど真ん中コースで書いてます。

なんの変化球もありません。読みしてる人、そのまんまだよ。(笑)


   △       △       △    


 何の思慮分別も持たず、何も分かっていなかった。

若さと勢いに任せて、ただ突っ走るだけだった。

それでよいと思っていた。

何も悪いことはない、当然そう思っていた。

 若くして、この国の領主となり、伯爵様と呼ばれることが当たり前で、

何も出来ないことはないと思いこんでいたのだ。

 思うがままに振る舞うことが、私の特権であり、

そうでなければならないとさえ、思っていたのだ。


 年を経た今になって思えば、ゆっくりと待てば良かったのだ。

何一つ焦る理由はなかったのだ。

それとなく、あの少女に近づき、丁寧に話しかけ、話を聞けば良かったのだ。

彼女が心を開き、私が心を占めるようになるまで、いろいろな手練手管を使って、

あわてないで、ゆっくりやっていけば良かったのだ。

いや、その過程を楽しんでこそ、恋と呼べたのかもしれない。


 だが、若くて愚かな私は焦った。

矢も楯もたまらなかった。

欲しい。欲しい、この娘が欲しい。

それしか考えなかった。

少女の気持ちなど、何一つ考えなかったのだ。


 追っ手を差し向けた私は、すぐにも少女が捕まり、

私の元へと来るものだと信じていた。

だから、見失ったと聞いたとき、激怒した。

あの狭い村の、子供一人、見つけることが出来ないのかと。

無能と罵り、盲目とあざけり、さらに追っ手を差し向けた。

しかし、虱潰しにしてみても、少女は見つからなかった。


 私自らも村に乗り込んだ。

ある時は、伯爵と名乗り、大勢の軍勢でもって、村人を脅した。

少女の居場所を吐かねば、村を焼け野原にすると。

それでも、少女は現れることはなかった。


 又あるときは、こっそりと単身で商人と化けて村の噂をこの耳で確認した。

ある噂は、少女は死んだと言っていた。

追っ手を逃れ、山には入り、野犬に襲われたと、

またある噂は神隠しにあったのだと。

永遠に誰の手も届かないような、神の国に行ったのだと。

ある噂は、追っ手に捕まり、山の向こうの国に連れて行かれ、奴隷にされたと言っていた。

そんなことはない、私は奴隷にしたかったのではない、そう叫びたかった。

ようやく、その頃になって、自分の本心に気がついたのだ。


 ただ、一緒に話し、笑い、そばにいてくれれば、それでよい。

いや、それが唯ひとつの望みであったのだと、やっとわかったのだ。

無くしてやっと、無くしたもののすばらしさを思い知ったのだ。

無くさなければ分からないとは、なんと愚かであろうか・・・・


 彼女は死んでしまった。

いや、死んでいなくても、私の手の届かない所へ行ってしまった。

もはや、証拠も何もいらなかった。

それだけで、私には十分だった。


 彼女がいなければ、私には生きている意味などない。

あの微笑みがなければ、生きる価値などない。


 政は家臣に任せた。

何をおこなっても、興味は湧かなかった。

毎日がむなしく過ぎ去っていく。味気のない日々。

時折聞く噂に、心を騒がせては、何もない手の中をのぞき込む日。

その中には、絶望以外何もなかった。


 時間が癒してくれる、そう思った時もあった。

だが、後悔が強まることはあっても、癒されたことなどなかった。

悔悟の念だけが募る。

 あの少女が生きてさえいてくれれば。

 長い金髪、角度によって、色の変わる煌めく瞳。愛らしい唇。

そこから発せられる可愛らしい笑い声。

私は己の愚かさから、全てを失ってしまったのだ。


 生きてさえいてくれれば、今頃、

そなたのように美しい女性となって、私のそばにいて

ほほえみかけてくれたであろうに・・・・


   △       △       △    


「伯爵様は、それ以来、その少女には逢われていないのですね・・」

 魔来子さんの問いかけにゆっくり肯く。


「・・・もはや、我が人生に何の意味もない・・・

ただ、死という安らぎが来ることを待つだけであった・・・・

そなたを見るまでは・・・・」


「そなたを見たとき、忘れようとしていた、あの少女を思いだした。

もしかすると、神は最後の時に、そなたを寄越したのかも知れない、と。

そなたは、髪の色も瞳の色も、なにより名前が違っても、

私の記憶の中の少女と同じ印象なのだ。

その声、その微笑みが・・・・・・

甘く、辛く、苦い記憶が甦る・・・・・

閉じようとしていた心に痛みが走る・・・・

そなたに感謝せねばなるまい・・・・・・」


 魔来子さんは涙を拭っている。

「伯爵様は、その少女の名前はご存じなのですか?」


 ゆっくりと伯爵の唇が動く。

「後で噂で知った・・・・アンジェリーヌと・・・・・

何という、愛らしい名前であったことか・・・・・」


 魔来子さんはゆっくりと肯いた。

「アンジェリーヌ・・・・その少女の名前が、アンジェリーヌ。

つまり、アンジェリーヌ・エバ・オッフェンバッフのことですね」


 伯爵はわずかに肯いた。

さて、次回の予告。


 どうして、魔来子さんはアンジェリーヌのことを・・・・ 

 次回: 第7章 姉 第38話 指輪 

 刮目して待てっ!

 (サブタイトルは変更する可能性があります。ご容赦下さい)

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