35.黒の花嫁
最初は普通に城の花嫁衣装としようとしてたのですが、なんかひねろうと思って。文金高島田の角隠しで走っていくイメージは笑えたのですが、いまいち。
次に思いついたのが、黒のウエディング。なんか魔来子さんのイメージにあうなあと思って採用しました。黒も礼服なので、悪くないぞっと。
長い足に黒のストッキング。いいなあ・・(笑)
「おはよ、ラバ。なんか眠そうね」
ええ、そうなんですよ。佑衣さん。
結局、ベッドにはあげてくれた。
シーツは無し、佑衣さんの足下でだったら寝てよし、という条件だったけど、
意外に佑衣さん、寝相が悪かったんだ!
寝ている最中に、何回蹴られたことか・・・・
ああ、眠い。
「こちらにお召し替え願います」
そう言いながら、召使いたちが衣装を持って入ってくる。
彼女たちに押し出されるように、僕は部屋を出た。
しばらくドアの外で待っていれば、思いもかけない佑衣さんの悲鳴。
慌てて部屋に飛び込むと、そこには黒いドレスの魔来子さん。
全身をすっぽりと黒いドレスが覆っている。
手袋や靴、靴下まで黒。頭の上にも黒いベールがかかっている。
「な、何よ、これ・・・・葬式じゃないの?どういう意味?」
佑衣さんは呆然としてる。
あ・・・・そうか、佑衣さん。それはこっちとあっちの世界の違い。
あっちの世界では、黒の服は葬儀用なんですか。
「これは最高級の結婚衣装なんです。こっちでは」
二人は僕の顔を見る。
「黒が・・・・・ウェディングドレスなの?」
「最高級なのでございますか?」
そういうと、魔来子さんは生地を調べてる。
「そうですね。この手触り、最高級のシルクにも負けておりません。細やかな細工が入っております。ベテランの職人さんが丹念に作成したものですね」
「驚いた・・・・でも、そういわれれば、色以外はこっちのウェディングドレスと違いはなさそう」
鏡の前で魔来子さんは踊ってみせる。
軽やかな彼女の動きに、しなやかに舞うドレス。
「まるで何もつけていないような軽やかさでございます。ちょっと胸が窮屈な以外は、サイズもピッタリですわ」
動きを止めた魔来子さんは、僕たちを見る。
「これがウェディングドレスだということでしたら、ますます伯爵の真意を知らなければなりませんね」
控えている召使いたちに言う。
「伯爵様はどちらにお見えでしょうか」
「えっと、今の時間ならば、大広間で朝議の真っ最中かと思いますが。伯爵様のご命令は、部屋で待たせろとのことで・・」
僕たちはその声を聞くと、部屋を飛び出す。
魔来子さんは先頭で黒いドレスをはためかして駆けていく。
「こ、困ります!おやめ下さい!どうか、・・・」
すっと佑衣さんが動くと、一瞬で相手の間合いにはいる。
のど元にナイフを突きつけている。
「こっちこそお願い。どうか、こっちに手を出さないで。できるかぎり、犠牲は少なくしたいの。お願い、みんな、離れていてちょうだい」
そう言い放つと、すぐに僕たちに合流する。
「あれで、逃げてくれるといいけど・・・・」
「一応、警告はしたんだから、もし何かあってもしょうがないわよ・・ラバ、そろそろ兵士達がくるわよ。用意はいい?」
僕は肯く。
廊下を走って、角を曲がる。その先は大広間のドア。
予想どおり、そこには兵士達が集まっている。
こっちを見つけて走ってくる兵士達。
「ラバ、時間稼ぎ、お願いね」
「佑衣さんこそ、頑張って!」
僕は兵士達に向かって、魔法を起動。
「・・・・地の神よ、その力をもって、大地に裂け目を穿て・・・・」
たちまち、床に巨大な亀裂!
立ち止まる兵士達の間を、佑衣さんが当て身を食らわせる。
その前に飛び出した魔来子さんも兵士達をなぎ倒していく。
倒れている兵士達を避けて、僕は二人に追いつく。
「幻影なんですけどね、結構効くでしょ」
「いいわよ、ラバ。少し見直したわ」
「では、いよいよ、入ります」
魔来子さんが大広間のドアを開けた。
重々しい音と共に、開くドア。
テーブルに座った人々がこっちを向く。
その中には驚くオネクターブの顔もある。
「伯爵様はいずこでこざいましょう」
見ればテーブルの一番端、一番立派な椅子は空っぽ。
「こ、こいつら・・だ、誰か、捕らえろ!」
オネクターブの叫び声。パニクっているのだろう、オカマ言葉じゃない。
佑衣さんがテーブルの上に駆け上がる。
一瞬でオネクターブの喉にナイフを突きつける。
「ドアを閉めろ!」
顔を引きつらせて、オネクターブが魔法の手を振る。
ドアが、ばたんと大きな音を立てて閉まる。ついでに閂までかかる。
「狼藉者が・・・・後でどうなるか、思い知るわよ」
「そんな先のことは知ったこっちゃないわ。伯爵はどこよ」
「さ、さあね・・・・知らないわよ」
そういいながらも、オネクターブの瞳は、奥のドアを見ている。
やっぱり、わかりやすいなあ。お前・・・・
「魔来子さん、奥のドアの向こうのようです」
僕がそういったときだった。
「・・・よい、三人を連れて入れ・・・・・」
伯爵の声がした。
僕たちはオネクターブを人質にして、奥の部屋に入る。
たくさんの本棚、本。テーブルの上にも、床の上にも本や資料。
テーブルの前には立派な椅子。
その椅子に座っている人物。伯爵だ。
僕たちが入っていっても、身動き一つしない。
魔来子さんが伯爵のそばに寄る。
伯爵の前に跪き、顔を上げる。
大きく目を見開いた彼女は、叫び声をあげた。
「は・・・・伯爵様!?」
さて、次回の予告。
第7章に突入!伯爵の因縁、魔来子の思い、様々な思惑がかけめぐり、
お城は大混乱・・・・?
次回: 第7章 姉 第36話 未練
ああ、このサブタイトルでいくのでしょうか!
刮目して待てっ!
(サブタイトルは変更する可能性があります。ご容赦下さい)