34.幽霊
落ち着いたと、落ち着いてきたと思います。
無力感はさして違いないけど、何とかならないレベルでない。
♪時は親切な友達ってやつですね・・・・
「佑衣さん、・・・お願い」
「ダメ」
いや、でも床は石張りだし、ここで寝るのは冷たすぎます・・・・
「佑衣さん、・・・お願いします。どうか、助けて・・・・」
「全っ然、ダメ」
佑衣さんは自分だけ、シーツにくるまって、ベッドで横になってる。
ベッドもシーツも1枚だけというのが、問題なんです。
魔来子さんは隣のベッドで、もう寝息を立てているし・・・
「絶対に何もしませんから、変なことしたら、部屋から追い出してもいいです。ね、もし、風邪でも引いたら、佑衣さんを護ることが出来なくなるかも知れませんよ。お願いします。どうか、僕をベッドにあげてください」
やっと佑衣さんはこっちを向いてくれた。
「ほんとにしない・・?」
「しません、絶対にしません。したら半殺しでいいです」
「しないのね・・?」
そういいながら、佑衣さんは枕元に何か置く。
よく見れば、さっきの食事で使ったナイフ。
いつの間にパクってきたんですか?
「護身用と思ってね。愛用のナイフ、取られちゃったからこれでも役にたつかなって。いい?ラバ。もし、変なことしたら、このナイフがあんたの喉頸、かっきるからね。わかった?」
わかりました。半殺しなんて甘いことじゃすまないってことですね。
絶対に、一切、なんにもしません。ホントです。
ようやく背中合わせで僕たちはシーツにくるまった。
柔らかなベッドの感触が有り難い。
でも、佑衣さん、その、つぶやき、
「つまんない男・・・」
ってどういう意味なんですか?
☆ ☆ ☆
ヤバイよ・・・・全然寝られない。
佑衣さんの温かい体温が背中越しに感じられる。
これだけ密着してるってのは、初めてなんじゃないですか?
体は疲れているのに、頭は冴えちゃってる。
寝返りしようとしても、佑衣さんの背中で動けない。
心臓だけがむやみに大きく鼓動してる。
ふと、佑衣さんの手が動いているのに気がついた。
僕の手を探し出すと、ぎゅっと握ってくる。
・・・え、それって佑衣さん、どういうことですか?
もしかすると、そういう意味なんですか!?
「バカラバ、勘違いしないでよ。ドアのところ、気付いてない?」
佑衣さんが小声で囁く。
ドア・・・?
そっと見ると・・・青い光がドアの隙間から差し込んできてる。
揺れているように見えるのは、光の持ち主が動いているせいか。
そして、次の瞬間、僕は息を呑んだ。
ドアのところには、青い光と共に、伯爵が立っていた。
ドアは閉まったままなのに。
伯爵はゆっくりと動きながら、ベッドを伺っている。
顔をのぞき込まれて、佑衣さんの手がギュッと強く握られる。
必死で寝たふりの佑衣さん。でも緊張が手から伝わってくる。
続けて僕。でもすぐに視線は離れていく。
最後に魔来子さんのベッドをのぞき込むと・・・そこで動かなくなる。
魔来子さんの寝顔を伯爵はじっと見ている。
(ど、どういうつもりなんでしょうか?)
(あたしが知るわけ、ないじゃないの!)
まるで永遠とも感じられるような時間の後、伯爵は動き始める。
ドアを通り抜けたのか、それともそこで消えたのかわからなかったけど、
青い光が消えると同時に伯爵の姿も消えていた。
僕が上半身を起こすと、佑衣さんも一緒に起きる。
「いったいあれはなんだったんでしょうか?」
佑衣さんは僕にぴったりと身を寄せている。
「わかんないわよ。わかるのは、魔来子さんにとにかくご執心ということ・・・」
「そのようでございますわね」
そう言いながら、魔来子さんもむっくりと起きあがってきた。
わあ、びっくり。魔来子さんも寝たふりだったんですか!
「今夜、きっと今夜はなにかしらあるものと思いましたので、一人で寝させてくださいとお願いしましたが、まさかあのような形で現れるとは思ってもいませんでした。まるで、幽霊でございましたわね」
幽霊・・・死んだ人の魂のことですよね・・・
「では、伯爵は死んでいるのですか!?」
「まさか・・・少なくとも、昼間はそんな様子ではありませんでした。もっと・・・なんでしょう・・・・生き霊とでも言いますか、何かを私に言いたかったように見えました。それはいったい何でございましょうか・・・・」
「魔来子さんに心当たりはないのですか?」
しがみついたままの佑衣さんが問いかける。
「伯爵はここでは絶対権力者なんですよ。その彼が、このような形で会わなければならない理由がわかりません。困りましたけど、困っていてもしょうがないので、眠りましょう。お休みなさいませ」
そういうと、魔来子さんはさっさと横になってしまった。
僕と佑衣さんは顔を見合わせる。
何という神経の太さ・・・・・信じられない!
たった今まで、幽霊話で悩んでいた人とは思えない。
どっか、羨ましい。
「ラバ、あんた、いつまでくっついているつもりよ?」
え、これって佑衣さんがしがみついてきたハズ・・・
ど、どうしてナイフなんか持っているんですか?
「半殺しがいい?それとも床がいい?床が良ければ、今からでも床で寝てちょうだいね」
お、お願いです。そんな、殺生な・・・!?
さて、次回の予告。
幽霊話に決着?!
次回: 第6章 城 第35話 ・・・
ああ、サブタイトル、まだ未定ですぅ!すみません。
刮目して待てっ!
(サブタイトルは変更・・・するさ!絶対に)