2.阿坂居 佑衣
ヒロイン 佑衣。
この子の性格、おもしろいわあ。どんどん破壊的にならないかなあ。
”ゆい”が先に出てきて、「う~ん、名字・・・」て考えたとき、
”あさかい”が出てきて、漢字変換。たぶん、もとは”あさか ○い”。
「あたし?あたしは阿坂居 佑衣。この近所に住んでる、ごく普通の中学生です」
ご、ごく普通?なんか、違和感があるんですけど?
「あたしのことなんて、どうでもいいわよ。あんたが問題なの、あんたが!」
はあ、まあ、確かに。こっちの世界の住民ではないですからねえ。
佑衣さんと同じベンチに腰掛ける。
間を1m以上開けたのは、どっちのせいだ?
傍目は女子中学生と小学生男子児童。珍妙な取り合わせに見えただろう。
幸い、公園に他の人は見あたらなかったけど。
佑衣さんは隠し持っていた煙草を取り出すと火を付ける。
「さっきの話はわかったことにするから、あたしの質問に答えて。
まず、あんたの名前は?あたしも名乗ったんだから、教えなさいよ」
「ヤーコブ・ラバ・オッフェンバッフです」
あ、あのー、名前で吹き出すの、止めてください。
「やーこぶ・・・なんか、言いにくい。らばでいいわ。らばで。
で、らばはどうしてこっちの世界にくることになったの?」
なんか、名前でバカにされているような気もするんですけど。
△ △ △
”村”が襲われた。父と母とみんなが住んでいた村。
長老の言いつけどおりに、魔法道具を持って脱出した。僕一人だけで。
追っ手に追いかけられた。長老に言われた場所に逃げた。
そこには”門”があった。でもそこも追っ手に襲われた。
慌てて、門をくぐったら、ここに来ていた。
「ふーん、略奪かあ。その道具が目的なのかな。で、みんなはどうなったの?」
わからない。こちらにくるなり、門を閉じた。
こっちにこられない代わりに、あっちにもいけない。
みんなの知らせはない。生きているとも死んでいるとも。
でも逃げるとき、火事を見た。悲鳴を聞いた。みんな、無事とは思えない・・・
「弱者は襲われる定めだからね。で、これからどうするの?」
力を貯めて、門をもう一回開ける。
あっちに行ったら、みんなの消息を確かめる。
もし、無事じゃなかったら、復讐してやりたい・・・・
△ △ △
佑衣さんは吸い終わった煙草の火を消すと、茂みにポイと投げ捨てた。
「そうね、そういう気持ちはわかんなくもないけど、頑張って。じゃあね」
「・・・ちょ、ちょっと!それだけ!?」
おっかしいなあ。予想と違うんですけど。
普通、可哀相ねとか同情するわとかあって、手助けするとか、戦いの先頭に立つとか、
後方支援するとかになりません?
もうちょっとこっちの世界の人は、情け深いって思ってたんですけど・・・
佑衣さんがあっという間に僕の目の前に立っていた。
僕の胸ぐらを掴む。身長差で僕の靴が浮く。
「なんかぶつぶつつぶやいてたけど、それってあたしが優しくないって言ってません?」
「い、言ってません。全然、そんなこと、言ってません!」
フンという目で僕を見る。
「蹴りが入らなかっただけ幸運だと思ってよね」
はい、運が良かったと思ってます・・・・って、なんか、違ってません?
「そもそも、どうしてあたしがあんたの問題に介入しなきゃなんないのよ。あ・ん・た・の問題でしょ?」
「そ、そりゃそうですけど、追っ手がこっちの世界に乱入してくると・・・」
佑衣さんはやれやれという顔をした。
「それでもあたしじゃなくて、警察とか自衛隊とかの出番でしょ」
「はあ、そうですね。言われるとおり。でも、やっぱりみんなで世界平和を・・・」
僕の言葉を聞いた途端、佑衣さんの端正な顔がゆがんだ。
「世界平和なんて反吐が出る。人類が滅んだって、あたし、全然構わないんだから!」
え、ってあなたも人類なのではないですか?
あの、言ってることが無茶苦茶に聞こえるんですけど・・・
もう頭の中が混乱しきっているとき、都合良く12時のチャイムが鳴った。
それと同時に僕のお腹が鳴る。腹時計、ナイスに正確。
そういえば、今日は朝からの逃亡劇で、何も口にしていなかったのだ。
そう思うと、急にお腹が減ってきて、痛いぐらい。
「あ、あの、人類の問題はいいですけど、お昼、食べさせてもらえませんか?
僕は食べるものは何も持ってないし、こっちのお金も持ってないんです」
彼女は、冷ややかな目でしばらく僕を見つめていたが、携帯を取り出した。
「・・・・・もしもし、魔来子さん?佑衣です。ええ、今日は学校お休みで・・
お昼をお願いしたいのです。それとお客様を一人、お連れして、ええ、お昼、はい、宜しくお願いします」
話し終えると、相変わらず冷ややかな目で言う。
「いい、お昼は用意してあげるけど、食べ終わったら、とっとと帰ってね。
あ・た・し・を、あんたの問題に、巻き込まないでよね。いい?」
は、はい。僕もそう思い始めてます。
どうせ魔法をお願いするんだったら、もう少し性格のいい娘がいいなあ。
この娘、確かに器量はいいけど、性格がちょっと・・・・
やばい!このつぶやき癖を何とかしないと!青ざめた直後だった。
バキッ!
背中に跳び蹴りが入った。僕は前につんのめる。顔面制動で着地。血が、鼻血が・・・
「信じられない。人にダタメシを甘えておいて、なおかつ性格が悪いとか言う・・・!?」
佑衣さんがあきれかえった声で言う。
「いきなり蹴りを食らわせるってことの方が信じられないんですけど!」
口の中で血の味を感じながら、僕は叫んだ。
「お客様のお昼ご飯、いらなくなりましたってことでいいかしら」
佑衣さんは携帯を取りだしてみせる。
「すみません。すみません。そんなこと、思ってません。
佑衣さんが優しいから、こんなお願いだってできるんです。
ちょっと口が滑っただけです。ごめんなさい」
くそ、なんて、なんて、性格が○○い子なんだ!(怖くて伏せ字にします)
僕は心の中で半泣きになりながら、彼女の後をついていった。
らばの名前は次回紹介。
分かる人は、今回笑っておいてください。