19.前哨戦
先手必勝!
のはずですけど、おや?
わーい、またバカが登場してきたぞ!(笑
息を潜め、身を伏せて待つ。
僕の前に囮として座っているのが佑衣さん。
『お嬢様、ラバ様、敵が近づいてきました。用意をお願いします』
僕は銃を握り直す。
敵に当たらなくてもいい。
佑衣さんを守るためだけの銃。
ブービートラップから脱出した後、僕たちは話し合った。
獲物がかかったことを知った相手はすぐにもここに現れるだろう。
ここで闘うか、闘う前に逃げ出すか。
逃げるのを主張したのは魔来子さん、闘う方を選択したのは佑衣さんだった。
「いつまでも逃げ切れるものじゃない。大兵力で追跡されたら、それこそ終わり。でも、今なら多分小部隊でしょうし、こちらの武器がどれくらい通じるかテストできるわ。捕虜から情報を得るということだってできるかも。先手必勝で敵の戦意が無くなるようにできれば一番いいと思うけど」
ちょっと考えて、魔来子さんはその意見に賛成した。
そして僕たちは逆に罠を仕掛けて、待ち伏せをすることにした。
ガサッ、ガサッ。
茂みをかき分ける音がすると、そいつらが顔を出した。
巨大なトカゲ、リザードにまたがった装甲兵が一人。
徒歩で簡易装甲の兵が両側に二人。
三人は手に槍を、腰に剣をぶら下げている。
白い服の佑衣さんをすぐに見つけたのだろう。
警戒しながら、ゆっくりと近づいてくる。
「こいつが、罠にかかったのか?」
「動かないところを見ると、どこかケガをしたのかも知れぬ」
「村の連中に似ている。ひょっとすると、生き残りかもしれん。生きたまま捕まえて、仲間がいるかどうか、吐かせよう」
お前ら、村について何を知っているんだ!?
飛び出していって、そう言ってやりたかった。
こいつら、いったい村で何をやったんだ!
”村の生き残り”ってどういうことなんだ?
僕は銃を握りしめる。ダメだ、今はダメだ。
ここで飛び出したら、三人で立てたプランが台無しになる。
我慢だ、我慢しろ!
なおも接近してきた相手に、やっと気付いたというような雰囲気で、
佑衣さんが髪の毛にそっと手を当てた。
(合図だ!)
リザードの上に不意に魔来子さんが現れた。
振り向く間も与えずに、その上の兵士ののど元でナイフを煌めかす。
そいつは声も出せずに絶命する。
魔来子さんはすぐにリザードから飛び降りると、横の相手にナイフを突きつける。
慌てて後ずさりする相手。
と、いきなりその姿が消えた。
土埃が立ち上がり、絶叫が響く。
「自分で作った落とし穴に自分ではまったわね」
佑衣さんが言う。
最後の一人に僕は銃を向ける。
「動くな!動くと殺すぞ!!」
動きを止めた相手の武器を、魔来子さんが慎重に解除する。
「お前はどこの手の者だ?」
「東の国の正規第4軍、戦闘斥候部隊だ。お前こそ何者だ。村の連中の仲間か?」
「うるさい!村はどうした?村のみんなはどうなったんだ!?」
僕の質問を聞いて、そいつの顔に邪悪な笑いが浮かぶ。
「なんだ、知らないのか。村なんて、もうどこにもないぞ。みんなに会いたいのなら、お前も墓場に行くしかないな!」
うそだ、うそだ!!
こいつは僕を混乱させようとしている。
村のみんなが、みんなが・・・・・そんな・・・・・
きゅっと手を握られた。
「ゆ・・・・佑衣さん?」
「よくわかんないけど、大丈夫。あたしたちがついているからね」
佑衣さんは続けて何か言おうとした。
でも、その時だった。
僕の背筋をビリビリッと電流が流れた。
魔法使い!しかも、強力な奴!!
「来るっ!!」
僕は反射的に佑衣さんを押し倒した。
そのまま身体の下に佑衣さんを押し込む。
直近に強力な炎。
チリチリと髪の毛が焼ける臭い。
伏せた顔を上げれば、さっきまでの兵士は松明になっている。
彼だけじゃない。
こと切れて横たわっていた兵士も、落とし穴の中のやつも、みんな炎に包まれている。
「何ですか、何が起こったのですか?」
さしもの魔来子さんもうろたえている。
「ほー、ほほほほほ、あら、どっかで見た顔よねえ!」
こ、この声は!?