14.「あたしじゃない・・・?」
予定では佑衣さんが魔法少女になるはずだったのですが、
どっかで横道に・・・・大丈夫か?>作者
ま、こっちの方がおもしろそうだからということで。
テーブルの上には、佑衣さんが外した魔法道具が転がっている。
「どうにもならない道具なんて、ただのオモチャよ!」
彼女の叫びも。でも、そのとおりなんだ。いったいどういうことなんだろう?
公園で、初めて見たときに感じた感覚は、『彼女だ!』。
でも、実際に装着しても何もおこらないだなんて。
僕の勉強不足が原因なんだろうか?彼女の力不足なんだろうか?
それとも、なにか他に原因があるんだろうか?わからない。
「でも、これからどうするかですわね。
魔法力なしであっちの世界に突入するということもあり得ますが、
少人数で未知の世界に侵入する危険を考えれば、少しでもパワーアップしておきたいものです。
それとも、魔法少女が見つからなかったということで、何もしないでおきますか?」
魔来子さんが指輪をもてあそびながら話す。
なにもしないなんて。一刻も早くあっちの世界へ戻りたい。
でも、そのためには佑衣さんに魔法少女になってもらわないと・・・・・
もし、ホントに彼女がならなかったら、なれなかったら・・・・
「取り損ねたアイテムがあるとか、聞き忘れたキーワードがあるとかというのが、
ゲームの世界ならお約束ですけど、そんなこともなさそうですし。このままだとゲームオーバーですわね」
佑衣さんも黙っている。さっきまで「あたしのせいじゃないわよ」って怒ってたのに。
僕を見る目にあるのは、哀れみ?同情?それとも期待?
僕は黙った。無力感が襲う。どうすれば、いいんだろう?
◇ ◇ ◇
不意に小さいけど、ピリッとした感覚が走った。
こ、これは・・・・・魔法使いの感触!
長老や力を持った魔法使いの近くにいると、身体の中に不思議な電流が走ることがあった。
それと似ている。
”門”をくぐって、魔法使いが来たのだろうか。それは・・・・・敵か、味方か?
で、でも・・・・なんか、不思議な感触。
不安定、ふらふらして落ち着かない。なんか、初心者の魔法使いみたいな感じ。
僕はようやく、そこで佑衣さんの目に気がついた。
魔来子さんをじっと見ている。
僕も、慌てて魔来子さんを見た・・・・・えっ?
魔来子さんが、薄い青い光に包まれていた。
「ど、どうして魔来子さんが・・・・・?」
「いえ、ちょっと悪戯心で指輪を嵌めてみましたところ・・・・このようなことに・・・いったいこれはどういうことでございましょう?」
残りの魔法道具も付けてもらった。不安定だった感触が安定する。
「え、えっと何か魔法を・・・・」
「では、先ほどのラバ様の魔法を、見よう見まねですけど・・」
そう言うと、魔来子さんは掌を差し出した。手のひらの上には、小さな炎。
そして、また消火の白い煙が吹き上げる。
でも、その煙が消えた後でも、掌の炎は消えていない。
よく見れば、炎の周りを光の球体が取り囲んでいる。
すごい。炎は攻撃系魔法で、球体は防御系魔法。
その両方を一度に発動させるなんて、初心者のできることじゃない。
もしかすると、魔来子さんはカガクという名の魔法使いだと思っていたけれど、
本当の魔法使いなのかもしれない。
「いえ、決してそのようなことはございませんわ」
そう言う魔来子さんの表情が、どこか得意げに見えるのは気のせいか?
僕は魔来子さんに見せる魔法を、彼女はどんどん吸収していった。
魔法学校で習った基本的な魔法だけど、でもそれを実践することで、
彼女は魔法のこつを覚えたようだ。
「ラバ様がおっしゃっていた魔法のイメージというのがわかってきたようです」
「これなら、もっと強力な魔法だって、すぐに使えるようになりますよ!」
ぼくは大喜びで叫んだ。
大魔法使いかどうかわからないけど、強力な魔法使いには違いない。
もしかすると、村の長老にだって匹敵するかもしれない。
魔来子さん一人でだって、東の国の軍に勝てるかもしれない。
僕と二人で行って、村のみんなを救出することも、万が一の時には復讐することだって、
それどころか逆に東の国を滅ぼすことも夢じゃない。
これだったら、なんだってできそうだ。
僕の頭の中がそのことだけになっていたときだった。
ドカッ!
浮かれまくっていた僕は、背中を思いっきり蹴飛ばされた。
ガツンと食料保管庫の扉に顔面をしたたか打ち付ける。
痛むおでこを押さえながら振り向くと、
「ちょっと待ってよ!」
佑衣さんだ。泣き出しそうな顔をしている。
「あたしは無視?あたしはどうすればいいのよ!あたしが魔法少女じゃないの!?」
呆然としてみている僕に、一言。
「ラバのバカ!!」
彼女はそう言い残すと、部屋を出ていった。
あ、あの、魔来子さん、僕はいったい、いつ、佑衣さんの尻尾を踏んだんでしょうか?
「なにか、彼女の気に障るようなことを言いましたか?僕」
僕の質問に魔来子さんは大きくため息を吐いた。
「ラバ様、魔法どうのこうの以前に人の心を勉強すべきだったかも知れませんねえ・・・」