12.「あっちの世界」
ああ、笑いが入ってない。
マジな話で終わりそうだ。
その日の夕食の後。僕たちは紅茶を嗜んでいた。
僕にはミルク、佑衣さんはブランデー入り。魔来子さんにはレモンのティー。
紅茶の甘い香りが食堂に満ちて、ゆったりとしたひととき。
佑衣さんは昼間の出来事をまだ怒っているようで、あまり僕の方を見ない。
時折目が合えば、フッと横を向いて口を尖らせている。
「さて、ラバ様、これからお話しを伺いたいのですが。あちらの世界のことです。
そもそも、ラバ様はどのような理由でこちらの世界にくることになったのか、
あちらに帰ってどうなさりたいのか、そろそろ教えていただきたいのですが。
仮にお嬢様が魔法少女として、あちらの世界に行くとして、いったいどのような世界なのか、
事前に知識を得とうございます」
魔来子さんのいうとおりだ。仮に佑衣さんが魔法少女になったとしても、
その力をなんに使うのか、知る権利が彼女にはある。知らなくちゃならない。
そして、その力を使う”あっちの世界”が、いかに”こっちの世界”と異なるのか。
ほんの少しだけ暮らした僕でさえ、こっちの世界がいかに平和か、よく分かった。
あっちの世界を正直に話せば、彼女は魔法少女になることを断るかもしれない。
だから、今まで話したくなかった。
でも、もう話さなくちゃいけない時期が来たようだ。
佑衣さんが選ぶことができるために。
僕はあっちの世界のことを話し始める。
できるだけ感情を込めないで。
♡ ♡ ♡
あっちの世界の簡単な絵は、一つの巨大な島。
中央には高原と、それを取り巻く高い山脈。
この山脈のおかげで、中央高原は外からの侵入が出来なくなっていて、独自の文化を持っていた。
それが”村”。
村と言ってるけど、それなりの人口や町並みができている。
そこの独自文化というのが、”魔法”。
自然が厳しい分、精神面での充実を図ってきた結果がそれだ。
村の川は南に流れていて、そこにあるのが、ジェロルアンスティツル大公の国。
この国は比較的平和な国で、村と交流がある唯一の国だ。
村の東にあるのが、フェルゼンシュタイン伯爵の国。
一応、形ではジェロルアンスティツル大公に従っているけど、
こっそり軍事力を強化していたりして、領土の野心が高い。
村の支配を狙っているのも、この国だ。
中心をおさえれば、南にも西にも行きやすくなるから。
もしかすると、魔法の力も欲しがっているのかも知れない。
西にある国はドニ。
今まではこの三つの国が、村を中心にドーナッツ状に睨み合っていた。
だから、大規模に軍隊が動くことはなかった。
どっかが動けば、残りの国が後ろを衝けたから。
それでも小競り合いはあったけど。
でも、西に大災害が起きた。
西の国に大きな被害が起きて、戦争なんて出来る状態じゃなくなってしまった。
これをチャンスと思って、東の国が南の国に攻め込んだ。
そして、その魔の手は村にも及んできた。
空から”竜”空中軍の兵士達が山脈を越えてやってきた。
竜の兵士達は重火器は持っていないけど、剣や槍、弓矢を持っている。
村も同じような武器で戦ったけど、東の兵士達の方が戦いに慣れていた。
魔法も使ったけど、東の軍勢も魔法で防御してた。
あっちにも魔法使いがいるらしい。
その頃の戦いは一進一退だった。
そして、東の”獅子”地上軍がやってきて、戦いが不利になる頃、
長老が僕を呼びだし、魔法道具を持たせると、”門”に行くように命じた。
僕はみんなと戦いたかったけど、命令に従った。
追っ手の兵士達から必死で逃げながら、僕は門に向かった。
”・・・門の向こうは、平和な世界がある。
そこに魔法道具を持っていって、敵に奪われるな。
そして、あっちの世界で、魔法少女を見つけて、こっちの世界に連れ帰れ。
さすれば、村は復活し、前のような平和と繁栄を謳歌するであろう・・・”
この長老の言葉を信じて。
前にも言ったけど、その後、どうなったかはわからない。
一刻でも早く戻っていって、みんなの安否を確かめたい。
もし、必要なら、復讐を果たしたい。
♡ ♡ ♡
「三国鼎立状態ですね。一番安定系です」
「武器は剣、槍、弓矢。現代兵器の敵ではないわ。ただ空中兵力は脅威だけど」
「政治体制と言い、イメージは中世。日本史なら新しくて江戸時代初期というあたりですわ」
佑衣さんと魔来子さんは、額をつきあわせて相談している。
片眼鏡を掛けた魔来子さんが両手の指を動かすと、空中にはイメージの絵ができあがる。
さらに兵力の比較表まで。
あ、だいたいその地図、あってますよ。
でも、現代兵器って何のことなんですか?
「でも、多勢に無勢という言葉もあります。
あっちで味方がいなければ、最悪この三人で戦うという可能性も考えておかないと」
「魔法少女とはいうけど、どのくらい戦闘能力があるのかしら。
話を聞く限り、どうも魔法の方が、兵器より分が悪そうなんだけど」
二人は僕の方を振り向いた。
「では、次に魔法についてお話し下さい。いったいどのような魔法があって、それはどうやって使うのか、を」
あ、それは・・・・・・あはははは。(汗
僕は力無く笑った。
3章はあっちの世界と魔法の説明が目標。
あと、佑衣さんの揺れ動く心が書けたら、いいな。