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魔法少女と呼ばないで  作者: どり
第2章 私立四葉野黒大場学園(しりつよつばのくろおばがくえん)
10/50

10.チカラ

 佑衣さん、悪くないんだけど、だから友達いないんだよね、って話。

力は正義なのかもしれないけど、使い方が悪いだけなんだろうか。

それとも力そのものが悪いんだろうか。

・・・たぶん、永遠に答えはなし。


 佑衣さんの机を取り囲んでいるのは、女生徒3人。

いかにもいじめっ子風なのはお約束か?


「いっつもお休みだから、なかなか捕まらないしね」


「たまに来ても、さっさと逃げちゃうし」

 佑衣さんは相手にせず、って態度。


「だって、お話ししたくないもん」


「うっさいな!」


 バンと机をたたく。

その音で、周りの生徒が驚いてこっちを見てる。


「このまま、来てよ」

 相手の声に佑衣さんは立ち上がる。


「佑衣、先生、呼ぼうか?」

 そう小声で言うのは、さっきの女生徒。


「いい、あたしなりの解決法で行くから」

 そう佑衣さんは言い切る。

 周りの生徒達が見つめる中、佑衣さんは教室を出た。


   ◇     ◇     ◇


「気に入らないんだよ!」

「あんた達の気に入るかどうかなんて、知ったこっちゃないわ」

 相手の熱い口調に対して、佑衣さんは冷静。


「先生のお気に入りだっていい気になるんじゃないわ!」

「あんたの欲求不満のはけ口にするんじゃない」


「あたしたちのタバコ、チクったのはあんただろ!」

「吸わなきゃいいじゃない」

 かみ合わない口げんかが続いてる。


 体育館の裏。

まあ、”村”にもいたけど、こういうのってどうして、徒党を組むんだろう?

一人じゃ弱いから、だと思ってたんだけどなあ。こっちでも一緒かあ。


 レベルは低いけど、悪意のこもった言葉は心には刃物。

これで魔力を込めていたら、相手に本当のダメージが残る。

(魔力がなくったって、言霊はきっついからなあ・・・・)


 僕の心配をよそに、佑衣さんは相手の攻撃をひょいひょいかわして、ダメージを食らわないようだ。

でも、下手な鉄砲でもたくさん打っていれば、少しぐらいは当たる。

佑衣さんの心にも少しずつダメージが残っていく。


 その証拠に、僕を握りしめている左手が、だんだんと汗ばんでいく。

佑衣さんのダメージは、親のことを言われたとき、魔来子さんのことを言われたとき、

そして、友達のことを言われたとき。

さすがの彼女もだんだんと冷静さを失ってくる。


「もういいかげんにしてよ。帰る」


「まだ用が済んでない。

あんたみたいなお嬢様は、ちょっと傷つけてやれば、すぐ泣いて、謝るようになるのさ。覚悟しなよ!」

 そう言うと、取り出したのはナイフ。

(止めろよ、お前ら、ナイフは止めろ!)


 心で叫ぶしか、僕には方法がない・・・・・・・トイレも間に合わなくなるじゃないか!

いや、トイレはいいけど、違う、漏れそうなのはよくないけど、

僕は佑衣さんの戦闘能力を身をもって知っている。


 こいつらの身のこなしを見ていると、絶対にかないっこない。

そんな奴らが、凶器なんか使ったら、どういう反撃を食らうか、わかんないぞ!

お前ら自身のためだ、ナイフは捨てろ!そう叫びたかったんだ。


 勝負はあっさりついた。

僕の予測どおり、本気の佑衣さんにはかなうはずはなかった。

一人ははね飛ばされて目を回していた。

もう一人は、腹に膝を食らって、胃の内容を大地に戻していた。

そして最後の一人は、手首をねじり上げられて、持っていたナイフを簡単に奪われていた。


「どお、ナイフを突きつけられる気分は?」

 いいはずがない。

佑衣さんは左手で相手の頭を押さえつけて、ナイフを相手の目の前、数センチというところに突き付けている。

相手の視界には、ナイフしか見えないだろう。


「やめて、やめてぇ!」

「下手に動くと、眼球が傷ついて、失明するわよ」

 佑衣さんの冷静な声に、かえって相手は恐怖に駆られたようだ。


「わかったから、なんでも聞くから、だから助けて!」

 涙と冷や汗を流している。


「もうあたしにちょっかい出さない、あたしの周りにも出てこない、友達にも手を出さない、

 もしだしたら・・・」

 佑衣さんの右手がゆっくりと動いた。


「ひ、ヒィ!」


 真ん丸に開かれた、目のほんの数ミリ手前で切っ先は止まった。

佑衣さんが左手を離すと、相手はぺたんと地面に座り込んだ。

地面にはじわりと液体が広がっていく。恐怖のあまり、漏らしてしまったようだ。

佑衣さんは持っていたナイフを投げ捨てる。


「うちのメイドさんが教えてくれたんだよね。

二度とちょっかい出させなくする一番いい方法は、相手に恐怖心を植え付けることだって」


 鞄を拾い上げると、立ち去る。

騒ぎを聞きつけたのだろう、何人かの女生徒が遠巻きで見ていた。

その中には、昼間、佑衣さんとしゃべっていた、あの女生徒もいた。

 しかし、佑衣さんが近づくと、彼女は数歩、後ろに下がった。

瞳にあるのは、恐怖の色。

それを見ると、佑衣さんは何も言わず、足早で離れた。

 誰にも顔を見られないように、少し伏せて、前髪で隠しながら。

でも、左手の僕のアングルからは丸見え。


「う・・・・・・うく・・・・・」

 小さな嗚咽を漏らしながら、佑衣さんは小走りしていた。

僕を持った左手で、時折、目をこすりながら。

僕にも彼女の温かい液体がふりかかっていた。


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