28. アリーゼ ~ミルディ視点~
28. アリーゼ ~ミルディ視点~
あたしはミルディ。ルベルタに住んでる魔法鍛冶屋の一人娘。カトリーナ教会を追い出されて自由に旅をしているアリーゼに助けてもらったのが縁で、アリーゼの旅に着いていくことにした。それはアリーゼを本当に尊敬できるからではあるのと同時にあたしの夢の「賢者の石」と呼ばれるものを探すのも目的だからだけど。
あたしは今宿屋にいる。先日みんなが一緒に買ってくれた鉱石を使って魔法錬金でいざと言う時に戦えるように魔法アイテムを作っている。と言ってもそんな大層なものじゃないけどね。でも、やっぱりこれがあるとないとじゃ違うんだって。あたしの気持ち的に。
「ふぅ……一段落ついたし、あとはこの容器に移すだけか。とりあえず休憩しようかな」
部屋の中には昼間だと言うのにのんきに昼寝をしているロゼッタ様がいる。ロゼッタ様を起こさないようにしないと、口うるさいし寝起きが悪いし、万が一起こしたら面倒だ……そう思って部屋を出た時だった。
部屋を出た途端、ドンッ!!という鈍い音と共に誰かに激突してしまった。
「いったぁ……」
あちゃー、やっちゃった!慌てて視線を落とすと、そこには床に見事な尻餅をついたアリーゼがいた。彼女の周囲には、さっきまで両腕に抱え込んでいたであろう大量の本が、バサバサッと雪崩のように散乱している。
「痛いのです……」
「ごめんアリーゼ、大丈夫!?」
「大丈夫なのです。私も前をしっかり見ていなかったのでお互い様なのです」
あたしは床に散らばった本を拾い集める。しかし、そのタイトルを見て思わず首を傾げた。魔導書から恋愛ものまで、なんだか統一感のない、聖女らしからぬラインナップなのだ。そして本の表紙を見てみた。
【誰でも使える簡単調理法~これであなたも料理上手?!~】
【恋愛とは試練と同義】
【やっぱり猫しか勝たん。】
【錬金術物語】
【交渉の基礎】
などなど……本当に色々だなぁ……
しかも表紙の絵が何気に可愛くていい感じだし…… どんな内容なんだろう?あたしが興味津々に見ているとその様子を見ていたアリーゼがあたしにこう言った。
「あれミルディ?興味があるのなら読んでみますか?」
「ええ!?」
え!?︎心が読まれてる!?︎少し恥ずかしくなったけどせっかくの機会だし読むことにしてみた。
どの本がいいのだろう。一番目についたのはこの【やっぱり猫しか勝たん。】という題名の子供が読むような本に見えるものだった。
とりあえずその本を読むことにする。
……アリーゼに促されて自分のベッドに腰掛け、少しだけパラパラとめくるつもりが、ページをめくる手が完全に止まらなくなった。
表紙のゆるくて可愛い猫の絵柄からは到底想像もつかないほど、中身は……なんかもう、とんでもなく重厚な大河ドラマだったのだ。主人公の女の子が過酷な旅の中で様々な出会いと別れを繰り返し、切ない恋をして、本当の愛の形を知っていくという超壮大なストーリー。最後のページを閉じる頃には、何とも言えない感動に包まれていた。
あたしが本を閉じ、ふと顔を上げると、窓の外はすでに夕暮れ色に染まっていて、アリーゼが私を見て微笑んでいた。
「ミルディが楽しそうで何よりです!夢中で読んでましたから」
「恥ずかしいな……アリーゼもあたしの事観察してないで、自分が買ってきた本を読んでれば良かったのに!まだこんなに山積みなんだからさ」
「それはもう全部読み終わったのです!あとはミルディが読んでいるその一冊だけだったのですよ」
「はやっ!それなら言ってくれれば良かったのに!」
あたしはちょっとムキになって言う。するとアリーゼは私の反応を見て微笑んでいる。その様子を見てあたしは思わず顔が熱くなる。だって、それはまるであたしがアリーゼと一緒にいたかったと言っているようなものなんだもん。そんな事思われてたらって思うと誰だって照れると思う。そんな時アリーゼがあたしに話してくる。
「こんなに早く読んでしまうのは、もう日課みたいなものなのです。聖女として教会にいた時は自由な時間はあまりなかったので、暇があれば本を読んでいたのです。でもちゃんと内容は覚えているのです!」
聖女。初めて会った時アリーゼから聞いた。聖女って凄い優遇されてると思っていたけど、そんなこともなかった。だから今のアリーゼは本当に自由で楽しそうに見える。
「というかアリーゼは本当に本が好きなんだね。あたしは苦手。まぁこの本は面白かったけど……」
「私は昔からよく読んできたのですよ。いろんなことが載っていて面白いのです!」
聖女としての毎日。同じ年の子達はおしゃれだスイーツだ、恋愛だのに興味が向いているなかアリーゼは。だから聖女としてのアリーゼも尊敬できるんだ。あたしはアリーゼのことを知りたいのかもしれない。
「そっか。せっかくだし、今度アリーゼのおすすめの本を貸してよ。あたしも少し読書に挑戦してみるからさ」
「もちろんなのです!ぜひ貸しますね!きっと気に入るはずなのです!!あっ。それなら私は魔法錬金を勉強しようかなのです!」
そう言って無邪気に笑うアリーゼの顔は、お日様みたいに眩しくて、底抜けに明るかった。
あんなに理不尽に教会を追い出されたのに、少しも腐らず前を向いている。あたしたちは顔を見合わせて笑い合った。あたしは本当にこの穏やかな時間が好きで、この時間を与えてくれるアリーゼのことが、大好きなんだ。




