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コミュ力最強

 森です。


 ちなみに自己紹介じゃないのです。


 今いる場所が森なんです!


 いきなり何だよって話だし、言い訳になるかもしれませんが、スタート地点が森だったんだから仕方ない。です。それにちゃんとオレだって頑張ってたんですよ。本当ですよ? 森さんウソツカナーイ。


 いきなり森さん、大自然スタートじゃんてビビってたわけですが、そこはご縁ってことで、コミュ力高めてがんばりましたー。はいもう無理ー。


 すみません、つまらない見栄っぱりなんです。あと森で一人だから今、半端なく不安なんです。ログアウトもできねーし。運営つかえねーし。妄想でもしてないとやってらんねーし。


 正直いうと、学校の野外活動のハイキングとかでも、最初から初心者コースに向かうタイプなんで、無理しないところからやってました。ややこしくてごーめんちゃい。


 初心者コースといえば、道順もちゃんと決めてました。さすがは賢いオレ。とりあえず花咲さんには絶対に会っておきたい。


 そんであらためて森さん。


 そしてやっぱり外せないフェイバリットが路さん。そんで安良熊さん。ありがとさん。どうってことなーよー。よっしゃばっちりヨーグルト。ほい!


 でも、山田さんと谷さんは初心者のオレにはきついかなー。


 険しい危険が待っていそうだし、人の住む場所から遠ざかりそうだからスルーしよう。小川さん、川道さん、川端さんにも会うとして。


 都合よく林さんとも仲良くなって、小林さんも仲間にいれたい。この時点でさようなら森さん、それから、こんにちは野原さん。


 完璧じゃん。


 村田さんや、町田さんには、それから会いに行こう。畑中さんに会ってからかな。


 とりあえず、思いつきで“突然の不幸に見舞われた主人公のオレが実はネームド!? 名字無双!”みたいな、出会いをテーマにした最強系でやってました。脳内設定だけならオレも、基本的に無敵なんで。


 もちろん努力もしてました。こう見えて人見知りなんですけど、いつ誰が来ても良いように憐れを誘うあざとい表情をわざわざ悲しげに浮かべて、被害妄想をしめしめとこじらせながら、確実に一歩ずつ前に進んでいくオレ。


 嗚呼、人見知りなのに健気なオレ……。


 そうしたら、同情した相手がむこうからかまってくれるかなって、そんな顔で頑張ってた。すでにもうなんか過去形でダメっぽいけど。でも頑張ってたもん! 本当だもん! ウソじゃないもん! 本当だもん! えーん。えーん。


 そんなわけで、なんかオレもう疲れちゃったよ。だって森さん、エリアすげー広いんだもん、人見知りなのか知らないけど、安良熊たちぜんぜん出てこねーし。オレの感謝そんなに嫌か?


 あと腹ぺこでひもじい……。


 だいたいの感じ、よんじゅうろくおく年くらいさ迷い歩いて、とても疲れたし、とってもお腹が空いた。このゲーム、疲労と空腹のパラメーターが存在しやがる。オレは泣きそうになってた。本当に容赦ねえなって。


 初期物資なんて、もちろんありません。ここまで、さんじゅうろっかいくらい「どんなクソゲー!?」って叫んでやりましたからね。ざまあみやがれ。


 でも雄叫びが消え去ったあと、再び現実を知るのでした。この世界は相変わらずオレに厳しい。


 オレのスクリームにぶちギレた開発者が、ツンデレ気味に救済措置をぶっこんでくれないかなーとか期待していたのですが、ですよねー。分かっていました。


 ちょっと叫んだくらいでどうにかなるんなら、こんな苦労してないっちゅーねん。いわゆるひとつの前途多難というやつです。職務怠慢、実に嘆かわしい。


 そういえば「ステータスオープン」もひゃっかい以上唱えたな。話の流れでもうふんわりとお分かりでしょうが、使えませんでしたー。ウチのゲーム会社運営がそんな甘っちょろいもん、用意するわけねえだろ。VRゲーム舐めんなよー。


 〇〇が……。


 せめてそれさえあったらなんとか希望が持てるのに。


 実際のところ、回数が足りないのか何なのか、せめて音声でヒントとか教えてくれれば良いのに、うんともすんとも言いやしねえ。なにが“最新”だよ。そのセールスコピー返上しろよ。


 ログインしてまずやることが、森で一人で「ステータスオープン!」て唱え続けてんだよ。それただのヤバイヤツじゃん。


 それ言ってるの、途中で安良熊さんに会ったらどうすんだよ。オレだったら近寄りたくねーよそんなヤツ。オレのコミュ力の足葉っぱんなよ。なんで葉っぱが出てくんだよ。そこら辺に生えてんの食わせるぞ運営。


 ユーザーの攻略意欲を刺激しています。


 〇〇ったれが! 〇〇ったれが! 〇〇ったれがーっ!


 ついには大空さんを見上げて、全力の雄叫びをかましてやったからな。ごめんなさーいって最後にちゃんと謝りましたよ。気にするなよー。


 過酷なゲーム難易度にさっくり心が折れそうです。さすがにやさぐれた。


 地獄のようなのどの乾き、地獄のような空腹、地獄のような放置プレイ。さすがにイラっとして、今度は「王様の耳はロバの耳ーっ!」と叫んで八つ当たりをしながら、逆境にくじけたオレは途方にくれてました。


 よりによって王様さんとロバさんまで巻き込んだサボタージュ。キングとロバ。全人類の思い出がつまった最強タッグ。完全に喧嘩売ってますよねこれ? まったくゲーム開発者っす──。噛んじゃったじゃねえかよ。あいつらぜってー絶対に許さねえからな。


 覚えてやがれよ。


 そんな時です、どこからともなく獣さんの鳴き声と金属さんの響く音が聞こえてきたのです。


 すでにもう何度も、友達がオレに呼びかける声とか、「そろそろご飯よー」というお母さんの声とか、「時代劇はやっぱりこうでなくちゃな……」と感慨深く呟くおじいちゃんの声とか、さまざまな幻聴に翻弄されていたので、ぬか喜びをさんざん裏切られていたオレはさすがにいい加減、またか……。


 思いました。


 聞こえてきやがってと、謎の獣と謎の音を呪ってやりたい気持ちでした。


 でも他にやることもないし仕方ないのでさくっと、“運命に導かれるオレ”というロールプレイに切り換えて、音の聞こえる方に向かっていくことにしました。


 これが渡りに船というやつでしょうか。やることもないしヒマだったんです。


 “此度の祝福を御祈り申し上げます──”


 あーはいはい、幻聴。幻聴。これ地味にメンタル削られるんだよね。なんでこんなとこでデバフ使ってんだろ。


 まあ気を取り直して、景気良くおじいちゃんの好きな時代劇の曲を口ずさみながら、そうだなあ洋の世界観に和のテイスト、そして和洋折衷のファンタジーというわけですな、


 そこで都合よく悪人どもをこらしめるオレ、好感度がうなぎ登りとかなんとか、


 思い浮かぶ脳内設定に意外と悪くないかもなあと、オレは伝説のちょっと先にある約束の地へと向かうのであった。


 ぱんぱかぱーん! ぱんぱかぱーん!


 これからすうひゃくねん語り継がれる、時代劇の始まり、始まりー。


 思い通りにならないことばかりだけど、新たな歴史に向かって、オレ、がんばるぞー。ほほほーい!


 ・


 新しい時代に向けてスキップで駆け抜けてきた。ぴょん。音を頼りに新たなる森さんにやってきたオレは、全知全能の直感で異変を察知した。


 あー。ここら辺で名字ネタもういいや。スキルぜんぜん上がらないし。ややこしいし。せめて誰でも良いから、すげー親切な人つれてこいよ。オレなりに頑張ってコミュ力上げてんだから、そういうスキルくれよ。


 まあそんな何だかんだで草むらに身を潜ませておりましたとさ。ごめんなさいちょっと疲れてちゃって。ふー。やれやれ。


 さてさて。そして目にしたものとは──。


「舐めんじゃねえぞクソ狼ども。一匹残らず駆逐してやる。死ね。死ね。滅びやがれ!」

「馬車には近付けるなよ! 姫様のご気分を絶対に煩わせるな。分かったら返事をしろ」

「へーい」

「声が小さい。元気良く返事しろ」

「へーい!」

「……分かりましたー!」

「上出来だ。気合いれて殲滅しろ」

「へーい」

「……分かりましたー」

「死ね。死ね。滅びやがれ!」


 謎の戦闘集団と、それに襲いかかる狼の群れであった。ドン引きするぐらいの勢いで争っている光景に震え上がったオレは、隠れて縮こまっていた。現在進行形です!


 ガタガタ震えてる程度ですんでることをまず褒めてもらいたい。基本的に無意識で無敵なオレを、こうまで貫通してくる。これぞデバフです!


 シールド防御も楽じゃない。求む。タンク。


 誰かー。タンクさん来て下さい。もう名字とか何でも良いんで。ヒョロ川とかヒョロ山とか、そんな感じでも良いんで、お願いします。タンクさん来て下さい。


 話し相手になってくれるだけでマジで助かるんです。今それだけ追い詰められているんで。心の支えになって下さい。お願いしまーす。おいクソ運営、反応しろ!


 よし。今のでほんの少し落ち着いた。あんなやばそーなやつらに絶対に見つかりたくないけど、せめて頭の中でストレス発散しないと身が持たない……。


 視界の先に、森を切り開くようにして作られた広い街道がある。ある。


 争いはそこで起こっている。いる。


 イライラした感じの茶色い馬が少し離れたところで迷惑そうにしている。いる


 こんな場所に不釣り合いに思えるくらい豪華な、黒い外観の馬車が停められている。る。


 その馬車の側にメイド姿の女の人が立っていて、大きな声で元気良く指示を出している。る。


 お天気にも恵まれて、まさに快適な戦闘日和だったなー。もう本当にやめてよこんなところで。みんなの迷惑じゃん……。


 絶対に関わりたくない相手だと、あいつらのことを判断した。口が悪いとか、声がでかいとか、偉そうとか、色々と理由はあるけれど、やべーやつらだ。


 なんでメイドがいるんだよっていうのはともかく、後ろでひっつめた黒髪、地味な顔立ち、コスプレじゃない格式張ったメイド服、堂々とした立ち姿、という感じでいる。あと強者のオーラを漂わせている……。


 自慢じゃないけど、オレくらいになると要注意人物の匂いをかぎ分けられる。そんなことができるのはきっとオレくらいだろう。


 ここに来るまではけっこう気楽に、なんかこの先でどたばたやってるなって思ってて、でもまだ大丈夫かなってあんまり考えずにやってきたんだけど、今すごく後悔して縮こまってる。


 本気の殺しあいをしているところに通りかかるのなんて、初めてのことだから、ガタガタ震えながら後悔している。


 だって、ずっと「死ね死ね」って言ってる頭のおかしい兄ちゃんが武器を振るって、それをナチュラルに叩きつけて、


 狼の目がキチガイみたいにギラギラしていて、口からだらしなくよだれを撒き散らして、呻き声とか怒り狂った鳴き声とかもう呼吸が荒くなってたり、のどからかん高い音でヒューヒューって鳴ってんの、


 ドン引きしちゃって、ビビっちゃって、忙しいくらいバイオレンスなもんだから思わず心の中で、おいおいおい……って、にじゅうよんかいくらいツッコミいれちゃったもんねーだ。


 やりすぎやっちゅーねん!


 リアリティの追及だかなんだかしらないけど、さすがにやりすぎだよー。逆に引くわ。


 オレの心の余裕なんて消ゴムのかすみたいなクソザコなんだから、もう少し配慮してくれよ。


 あらかじめ凄惨なシーンのオンオフを設定させてくれよ。


 ゲームの開発者、頭の中どうなってんだよ。


 というかステータス画面を見せてくれよ。


 あと心の安らぎを与えてくれよ。


 オンラインゲームにありがちな、ふざけた名前の飲み物とか食べ物とかを恵んでくれよ。


 もうストレスでどうかなりそうだから、「王様の耳はロバの耳ー」って小声で叫んでやろうかな。


 あとついでに言うと、これ今の状況で大切なとこだから確認するけど、馬車のところにいるメイドさんがいつの間にかこっちを見てる。


 もっと言うと、もうとっくにオレがいるのバレてる。“お前がそこにいるの分かってんだからな”っていう顔してるもん。


 とりあえずオレの気持ちの整理ができるまで、あっち向いててくれないかな。見られてると心臓に悪いから。ダメかなあ?


 そんなふうに思ってたら、メイドさんがとうとうこっちに歩いてきたよ。ほらやっぱりだ。こういう時のオレの勘は当たるんだよ。思った通りだよ……。


「隠れているお前。今すぐ出てこい」


 受け止めたくない時ほど時間の流れってスムーズだよね。愛と自由と最後の希望にオレが疑問を覚えている間に、瞬間移動かなっていう速度でメイドさんがやってきた。


 思わず「パス」とか「ダウト」とか、「ウノって言ってなーい!」とか、今の状況で絶対に言わない方が良いような関係ないことを言いたくなってきた。緊張で吐きそうだった。


 こいつは、あのやべー戦闘集団をあごでこき使ってるやべーやつなんだ。絶対にやべーやつだ。対応を間違えたらやべーやつだ。オレも狼みたいにされちゃうのかもしれない。ああもうこうしちゃいられない。


「どうもすみませんでしたーっ!」


 オレは茂みから飛び出して、全力の土下座をお見舞いしてやった。


 プライドとかもうどうでも良いから、地面に額をこすり付ける勢いでやった。


 勇気を振り絞って、元気よく声に出して謝罪した。


 人類の全ての罪を洗い流すくらいのつもりでやった。


 ガタガタ震えながら一生懸命頑張った。潔いこの姿に免じて許せ!


「そういうのは良い。頭を上げて顔をよく見せろ」


 しかしこの女は無情だった。


 これくらいしとけば対応が違ってくるだろうなって思ったから仕方なくやったのに、ぜんぜんそんなことないのな。


 少しくらい驚けば良いのに、涼しげな声で要求までしてきやがった。人間の心がないのだろうか?


 本当は、気持ちに余裕が生まれるまでもう少し土下座していたいんだけど、逆らう勇気もなかったので仕方なく言われた通りにした。


 さあとくと見やがれオレのフェイスアップ!


「なんだ。可愛い顔をしているな」


 何かの奇跡が起こるんじゃないかなって、勢い良く頭を上げたら、反応は悪くない。オレの顔を見たメイドさんがご満悦って感じで言った。照れるじゃねえかよ。もっと褒めろよ。


 さもありなん。そうだろう、そうだろう。


 なんてったってオレのアバターは、超人気アニメ『魔法少女・最強プリンセス』の姫野ララちゃんに、可能な限り寄せたものなんだから。


 構想三週間、瞑想一日、そこから徹夜でキャラクタークリエイトに取り組み続けたオレの執念はダテじゃない。やってる最中、変なテンションになって、けっこう本気で命をかけてたからね。


 完成した瞬間には思わず「ありがとうーっ!」って叫んじゃったもん。アーティストがライブで歌い終わったあとに感極まって、ファンに感謝する気持ちが分かったもん。やっぱり愛の深さが違うんだよ。


 それにオレはちゃんとログインする時に覚悟していたからね。


 この姿を見た他のプレーヤーから何を言われても、どう思われても良い。


 ゲームの運営から怒られても良い。


 なんなら『魔法少女・最強プリンセス』のアニメ製作会社から訴えられても良い。


 それくらいの覚悟で取り組んだ愛と希望と自由の結晶。地球上に存在する全てのものが正しく認識するであろう、完全体ララちゃん!


「ところで、その派手な格好は何だ。さすがの私も少し驚いた」


 そこら辺のところがやっぱりこのメイドにも──。は……?


「まあでも良いか」


 何を言ってんの。魔法少女のララちゃんに決まってるだろう。そんなことも分かんないの?


 よく見るとメイドは、ちょっと半笑いの表情になってそれを堪えていた。中途半端な反応が逆にイラついた。


 マジでダメな反応だコイツ。


 キャラクタークリエイトを始めてすぐに、アバターが着てる服まで自由にカスタマイズできるって知ったオレの喜びを、いったいなんだと思ってるんだろう……。


 怒りを覚えた。


 誰がどう見てもララちゃんなオレを見ておいて──。


「お前は合格だ」


 だから違うよ! 違うんだよ。そうじゃない。あー。魔法少女と会ったヤツは普通もっと違うんだよぉ……。


 なんなら脳機能の根源から溢れ出る衝動で彗星が落ちてくるような反応を見せるもんなんだよ。コイツ訳分からないよ。


 本当に大丈夫なのかこいつ……あ。ははーん。オレ分かっちゃった。


 こいつは“浅い”やつなんだ。オレの目は誤魔化せないぜ。


「大人しく着いてこい」


 きっと“真実”から外れた欲求を都合よく頭に思い描いて、脳内ホルモンが見せるモラトリアムに浮かれているんだろう。


 ララちゃんを知らないような“浅い”ヤツが、それらしい言葉を軽々しく口にする動機。


 オレはそういう、“本物”を知らないヤツの身勝手な反応があんまり好きじゃなかった。


 そういうヤツほど、自分の中のムーブメントをあっさりと裏切るからだ。


 状況に流されやすいんだ。本当の意味で何かに感動できないヤツの、勘違いしたありがちな反応だ。


「おい返事をしろ。元気の良い返事をしろ」


 とんでもないメイドに関わってしまった。


「はい。元気です!」


 この世界は相変わらずオレに厳しい。



 さーてさてさて。ヒソヒソ。ごそごそ。ゴホンゴホン。えーと……。


 にはは。とりあえず単刀直入に、ご用件を申し上げます。これから不定期ペースでやってくから、よろしくねーっと。


 だって『ビシバシいこうぜ!』でやりたいけど、でも森さんしんどいんだよー。分かってくれよー。うわーん。うわーん。


 そんなわけで。オレも何のこっちゃだけど、『いのちをたいせつに』のペースでやってくから、どうかよろしくねー。です。あーあれだ。


 不定期更新!


 やったー。ちゃんと言えたー!


 ト~ロ~ト~ロ~ネ~バ~ネ~バ~♪


 あっ、良かったと思ったら、ポイントをバシッとお願いしまーす。やったぜー。ありがとう~♪

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