表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

校正者のざれごとシリーズ

校正者のざれごと――フィボナッチ数列と動く点P

作者: 小山らいか

 私は、フリーランスの校正者をしている。

 子ども向けの教材の校正では、国語だけではなく算数の校正も来る。まあ、小学生の内容だし、文系の自分でも大丈夫……と思ったら大間違い。小学6年生向けの、中学受験対策の問題などになると、かなりハードだ。電卓を片手に、いつも頭を悩ませている。

 たとえば、図形の問題。三角形があり、その辺に沿って、小さな円がまわりを回る。円の中心は点P。(1)この点Pが通った線の長さを求めよ。三角形の辺に沿った直線3本と、角を回るときのおうぎ形の弧の3つの長さを合計して計算する。(2)円が動いてできた図形の面積を求めよ。今度は辺に沿った長方形の面積と、角を回るときのおうぎ形の面積を合計して求める。ポイントはおうぎ形の角度。ふう。ここまでは、何とか大丈夫。

 さらに難易度が上がる。横に3つの円が重なり合って並ぶ。この円の周囲に沿って小さな円が回る。中心は点P。この点Pの通った線の長さと、円が動いてできた図形の面積を求めよ。なんだこりゃ。軌道はぐにゃぐにゃしている。これも、解法の考え方は同じ。ある意味、パズルを解くような感覚だ。そういえば昔もあったな、こういうの。図形問題に出てくる点Pは自由自在に動き回り、解答者を悩ませる。動く点Pがどれほど恨めしかったか。じっとしててよ、点P。そして、八つ当たりのようにふと思う。こんなの、何かふだんの生活の役に立つのかしら。

 校正者の見る観点は問題を解くだけではない。読みやすいように適宜改行がされているか、=の位置は揃っているか、図形のアミ掛けは正しいか、単位はあっているかなども確認する。実際「cm2」とすべきところが「cm」になっていたりすることもある。

 並んだ数字の規則性を考える問題というのもある。小学2年生では、数字ではなく〇や▲、♥などを並べて、〇番目に来るマークは何か、という問題がある。たとえば、こんな感じ。

 〇〇♥▲♥〇〇♥▲♥〇……のとき、38番目のマークは何か。

 〇〇♥▲♥の5つがセットになって繰り返されているので、7回繰り返し、35番目が♥、38番目はその3つあとのマークなので♥が正解。2年生では九九を習うので、その応用でもある。こういった問題も、中学受験のレベルになるとかなり複雑になり、頭をフル回転させて挑むことになる。

 ちなみに、ここでちょっと有名な数列の話を。

 1 1 2 3 5 8 13 21 34 55……

 言葉にすると、「最初の2つの数字が1で、それ以降の数字が直前の2つの数字の和となる数列」となる。このような数列を「フィボナッチ数列」という。12~13世紀ごろ、イタリアの数学者フィボナッチが名づけた数列だそうだ。

 これはただ数字が並んでいるだけではなく、さまざまな性質をもっている。

 そのひとつが、この数列が自然界の中で数多く見られるということ。たとえば、花びらの枚数。ユリは3枚、サクラやウメは5枚、コスモスは8枚、マリーゴールドは13枚など、花びらの枚数はフィボナッチ数列の数になっていることが多い。さらに、ひまわりの種の配列にも見られる。ひまわりの種は中心から約137.5度ずつずらしながら螺旋状に並んでいて、これを数えていくとフィボナッチ数列の数になっているという。

 もうひとつが、黄金比との関係。黄金比とは、長方形における「人間か最も美しいと感じる比率」のことで、縦と横の比は1:1.618……となる。フィボナッチ数列の隣り合うふたつの数字の比は、数字が大きくなるにつれこの黄金比に収束していくという。この黄金比は、芸術作品などにも多く使われている。

 おもしろいなあ、フィボナッチ数列。こうして書きながらネットで確認しつつ、いろいろなサイトをのぞいてみる。「最も美しい数列」などと紹介するサイトもある。ところが、そのなかでちょっと首を傾げるようなものも出てきた。

「花びらの枚数とフィボナッチ数列を関連づけたNHKの放送内容は偽科学である」

 NHKのある番組で、「花びらの数はフィボナッチ数列に落ち着く」という内容があったという。しかし、フィボナッチ数列には数字の4と6がない。花びらの枚数が4枚や6枚である花は数多く存在する。花びらの数とフィボナッチ数列を関連づけることは正しいのか。そう言われれば、確かにそうかもしれない。こういう情報に触れるたびに、ネット上の情報の危うさを痛感する。だからといって、この数列に関する数々の性質がすべて誤りなのでもない。ネット上の情報の見極めは本当に難しい。

 文系の私でも、計算が必要な内容の校正というのも一定程度ある。相続税や、厚生年金の計算など。かなり複雑な計算だが、慣れれば何とかなる。算数の応用。まあ仕事だから使うけれど、ふだんの生活で役に立つかと言えば、疑問ではある。

 仕事を終えた夕方、スーパーに買い物に行く。ここ最近の物価高で、食材の買い物も一苦労だ。肉や魚を買うとき、割引シールのついているものを物色する(だから夕方)。

 豚ロース肉 598円の20%引き/紅鮭 498円の50円引き

 さて、どちらがお得か。こういう計算は得意だ。前者は約600円の20%、120円くらいの値引き。後者は約500円の10%引き。すなわち、お得なのは前者。なんだ、算数、ちゃんと生活の役に立ってるじゃないか。ちゃんと勉強しておかなくちゃね。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
わははははっ!すごいでしょっ!ここの読者たちのテーマ別関心の偏りって! まぁ、数学って5教科の中でも一番の嫌われ者らしいから仕方ないと言えば仕方ないんですけどね。 もっともお仕事だとそんな事は言って…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ