校正者のざれごと――フィボナッチ数列と動く点P
私は、フリーランスの校正者をしている。
子ども向けの教材の校正では、国語だけではなく算数の校正も来る。まあ、小学生の内容だし、文系の自分でも大丈夫……と思ったら大間違い。小学6年生向けの、中学受験対策の問題などになると、かなりハードだ。電卓を片手に、いつも頭を悩ませている。
たとえば、図形の問題。三角形があり、その辺に沿って、小さな円がまわりを回る。円の中心は点P。(1)この点Pが通った線の長さを求めよ。三角形の辺に沿った直線3本と、角を回るときのおうぎ形の弧の3つの長さを合計して計算する。(2)円が動いてできた図形の面積を求めよ。今度は辺に沿った長方形の面積と、角を回るときのおうぎ形の面積を合計して求める。ポイントはおうぎ形の角度。ふう。ここまでは、何とか大丈夫。
さらに難易度が上がる。横に3つの円が重なり合って並ぶ。この円の周囲に沿って小さな円が回る。中心は点P。この点Pの通った線の長さと、円が動いてできた図形の面積を求めよ。なんだこりゃ。軌道はぐにゃぐにゃしている。これも、解法の考え方は同じ。ある意味、パズルを解くような感覚だ。そういえば昔もあったな、こういうの。図形問題に出てくる点Pは自由自在に動き回り、解答者を悩ませる。動く点Pがどれほど恨めしかったか。じっとしててよ、点P。そして、八つ当たりのようにふと思う。こんなの、何かふだんの生活の役に立つのかしら。
校正者の見る観点は問題を解くだけではない。読みやすいように適宜改行がされているか、=の位置は揃っているか、図形のアミ掛けは正しいか、単位はあっているかなども確認する。実際「cm2」とすべきところが「cm」になっていたりすることもある。
並んだ数字の規則性を考える問題というのもある。小学2年生では、数字ではなく〇や▲、♥などを並べて、〇番目に来るマークは何か、という問題がある。たとえば、こんな感じ。
〇〇♥▲♥〇〇♥▲♥〇……のとき、38番目のマークは何か。
〇〇♥▲♥の5つがセットになって繰り返されているので、7回繰り返し、35番目が♥、38番目はその3つあとのマークなので♥が正解。2年生では九九を習うので、その応用でもある。こういった問題も、中学受験のレベルになるとかなり複雑になり、頭をフル回転させて挑むことになる。
ちなみに、ここでちょっと有名な数列の話を。
1 1 2 3 5 8 13 21 34 55……
言葉にすると、「最初の2つの数字が1で、それ以降の数字が直前の2つの数字の和となる数列」となる。このような数列を「フィボナッチ数列」という。12~13世紀ごろ、イタリアの数学者フィボナッチが名づけた数列だそうだ。
これはただ数字が並んでいるだけではなく、さまざまな性質をもっている。
そのひとつが、この数列が自然界の中で数多く見られるということ。たとえば、花びらの枚数。ユリは3枚、サクラやウメは5枚、コスモスは8枚、マリーゴールドは13枚など、花びらの枚数はフィボナッチ数列の数になっていることが多い。さらに、ひまわりの種の配列にも見られる。ひまわりの種は中心から約137.5度ずつずらしながら螺旋状に並んでいて、これを数えていくとフィボナッチ数列の数になっているという。
もうひとつが、黄金比との関係。黄金比とは、長方形における「人間か最も美しいと感じる比率」のことで、縦と横の比は1:1.618……となる。フィボナッチ数列の隣り合うふたつの数字の比は、数字が大きくなるにつれこの黄金比に収束していくという。この黄金比は、芸術作品などにも多く使われている。
おもしろいなあ、フィボナッチ数列。こうして書きながらネットで確認しつつ、いろいろなサイトをのぞいてみる。「最も美しい数列」などと紹介するサイトもある。ところが、そのなかでちょっと首を傾げるようなものも出てきた。
「花びらの枚数とフィボナッチ数列を関連づけたNHKの放送内容は偽科学である」
NHKのある番組で、「花びらの数はフィボナッチ数列に落ち着く」という内容があったという。しかし、フィボナッチ数列には数字の4と6がない。花びらの枚数が4枚や6枚である花は数多く存在する。花びらの数とフィボナッチ数列を関連づけることは正しいのか。そう言われれば、確かにそうかもしれない。こういう情報に触れるたびに、ネット上の情報の危うさを痛感する。だからといって、この数列に関する数々の性質がすべて誤りなのでもない。ネット上の情報の見極めは本当に難しい。
文系の私でも、計算が必要な内容の校正というのも一定程度ある。相続税や、厚生年金の計算など。かなり複雑な計算だが、慣れれば何とかなる。算数の応用。まあ仕事だから使うけれど、ふだんの生活で役に立つかと言えば、疑問ではある。
仕事を終えた夕方、スーパーに買い物に行く。ここ最近の物価高で、食材の買い物も一苦労だ。肉や魚を買うとき、割引シールのついているものを物色する(だから夕方)。
豚ロース肉 598円の20%引き/紅鮭 498円の50円引き
さて、どちらがお得か。こういう計算は得意だ。前者は約600円の20%、120円くらいの値引き。後者は約500円の10%引き。すなわち、お得なのは前者。なんだ、算数、ちゃんと生活の役に立ってるじゃないか。ちゃんと勉強しておかなくちゃね。




