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私記──百目探偵事務所について
昭和三十九年、東京。雑司が谷の裏路地に、それはある。
看板も出していない。地図にも載っていない。
なのに、困った人間と、もっと困った妖怪だけは、なぜかたどり着ける。
百目探偵事務所──俺が、今いる場所だ。
所長は百目百之助。
人の姿をしているが、人ではない。白い髪に赤い目を持ち、ふざけた口調と鋭い視線で、妖怪たちの厄介事を片付けている。
彼の“目”は、ただの目じゃない。
この世の理の隙間から、見えてはいけないものを“視てしまう”目だ。
俺は……ひょんなことから、その目をひとつ、もらった。
見えなくてよかったものまで、今では“視える”。
ここでは人も妖も、区別されない。
理屈も常識も、ほとんど通用しない。
けれど、確かに「困っている誰か」がいる。
そして、俺たちはそれを“見届ける”仕事をしている。
百目探偵事務所とは、
そんな“視守る者”のための場所だ。
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