天空の架け橋で僕は夢を見る
まわりを山に囲まれた決して広くはない谷間から海が陽光に反射してまぶしいほどにあたりが照らされる。
海岸の方には小規模ながら漁港。そして谷を繋ぐようにして架けられた欄干――鉄道が延びている。
錆びついた塗装のはげた階段をカンカンという小刻みに音を立てて駆け上っていく。
高所のためか潮騒からの便りが生暖かく頬を撫でてくる。
立てかけられた古びた運行表に目をやる。運行表の部分のみがやけに新しいのはダイヤが変更になったせいだ。
……さて次の電車だが、くるまでしばらくかかるようだ。
三人が座れるようになっているベンチの真ん中を空けて僕はふうと息を漏らしながら座る。
――意識をしたわけではなかった。
隣りを僕は思わず見てしまったのだ。
そこには女の子が一人、僕の反対側に両手を膝に乗せて座っていた。
足元には少し大きめの旅行鞄。
つばの広い帽子を被っており顔はよく見えない。
水色のワンピースにシースルーの長袖カーディガンを羽織っている。
女の子がチラリとこちらを見た――ような気がした。
まずい。まじまじと見つめていたことがバレてしまったのではないかと僕は取り繕うように視線を逸らす。
見下ろす海は太陽の光をキラキラと反射してくるので、まぶしさに僕は目を細める。
この女の子を僕は知らない。
ひょっとしたら遠くから来たのだろうか?
いや。ひょっとしたら旅行に行くのかも知れない。そうなると僕が知らないだけで地元の娘かもしれない。
顔はよく見えなかった。だからどんな女の子なのかもわからない。何もわからない。
僕が知っている誰かであるならばどうするべきだろうか。声を果たしてかけるべきか。
いや。そもそも知らない人である可能性のほうが高いのではないだろうか。
ふと女の人が立ちあがる。
それと同時に一両編成の電車がやってきた。
……この電車に僕は乗らない。
停車すると扉が開く。
女の子が乗りこもうとした瞬間、ふと後ろを振り向いた。
僕を見たわけではなかった。
少し遠くを見ていた気がする。
それから何事もなかったように女の子は電車に乗りこむ。
扉が閉まると電車はゆっくりと発車していく。
僕は電車を見送る。
どんな女の子だったのだろうか。
僕の視界はいつの間にか雑音に包まれていた。
関西コミティア71に出展した作品となります。
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