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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その86 今日も暑い日

作者: 天城冴

ニホン国の首都では今日も暑い日が続いていた…

 強い日差しが部屋の中に入ってきた。

「カーテン、閉めてなかったんだっけ」

八月半ば、夏休みももう大半過ぎているのだから、そろそろ早く起きなきゃいけないんはずだけど…。

 リビングにはいると、母さんがキッチンで何か作っていたのがみえた。

ダイニングテーブルには齧りかけのトーストの皿と飲みかけのコーヒーが入ったカップ。それに手が付けられてないトースト2枚。僕はいつも淹れたての紅茶にしてもらっているから、コーヒーは多分父さんが飲んで…

「お早う母さん、父さんは?」

「仕事に行った、はずよ」

母さんは返事をしながら、うつろな目で振り向いた。ああ、そうか、少し時間が早まったのか。僕もリビングの大きな窓から外を見る。

 うちはいわゆるタワーマンションなので、主に見えるのは空と遠くの景色。そのなかを何かが一瞬で横切る。

「今日も落ちたんだね」

「上の階から降りたのよ、その方が早いし」

いや、ニンゲンが飛び降りて無事な高さじゃないけど、それを言っても仕方ない。それにこれからのことを考えるといっそ落ちて潰れちゃった方が楽なんだろうな、父さんも。

「そろそろね、ごめんね、今日も間に合わなかった」

「いいよ、仕方がない」

前の僕なら、文句たらたら、母さんにもあたり散らしてたけど…。

もうすぐ僕の大好きなベーコンエッグができるはず…だった。

プチン

IHのクッキングシステムが突然止まった。

「ほんとに、もう少しだったのに」

とイライラした口調で母さんが言って手を止めた。僕は少しほっとした。

いつかはフライパンをひっくり返して、床を叩いて僕に怒鳴り散らした。そのせいで卵やらベーコンが散らばって、キッチンが酷く汚れた。どうせ、掃除するのは自分なのになんで、そんなことをしたのか、まったく馬鹿だよ、母さんは。僕に怒鳴っても仕方ないのに、もっとも僕だってきっちりやり返し…そうとしたんだけど、忘れた。

  エアコンから聞こえていたブーンという音も止まった。

「今日も暑くなるのね」

「そうだ…ね」

まだ朝の9時にもなっていないけど、どうせすぐ暑くなる。冷蔵庫も何もかも止まって、そして飲む水もなくなる、ウォーターサーバーの在庫をいっぱい買っていたはずだけど。

「すぐぬるくなっちゃうから、どんどん飲まなきゃ」

いっぺんに、そんなに水が飲めるはずがないのに、母さんはコップに次いでは水を飲んでいた。トイレも使えなくなるからって前は抑えめにしてたけど、今回の今日はなりふり構わずだ。

そういう僕も冷凍庫をあけてガンガン氷をいれて冷たい水を飲む。

こういうときは冷凍庫を開けないほうがいいっていうけど、どうせどうしたって昼すぎは溶ける。今日も日差しは強くなるはずだ。夏のこんな暑い日に電気が止まってしまえば終りなんだ。窓を開けてもほぼ無駄、高層階で風が強いといっても熱風で余計に暑い。日当たりは超抜群で南向きだからどの部屋もサウナみたいだ、サウナに行ったことないけどそんな感じに違いない。

「今日は何度なのかしら」

母さんがスマホをいじりだすが、反応するはずもない、とっくの昔に充電切れだ。

ラジオとかは、たまにはいることもあるけど、どうせニホン国のトーキョーのことなんて流れるはずがない、今は。

「どうせ、40度超えるよ」

母さんの声はだいぶけだるげになってきた。

僕の口調もだんだんぶっきらぼうになってくる。

これがいわゆる本性が出てきたってやつかな。

ああ、本当に無理してたよ、僕ら。

一流企業のサラリーマンの父親といわゆる議員様の一族の母親とお高い新学校に通う息子、これで人生勝ち組とか言ってたけど、それについてくのはつらかった。

そんでもって裏でSNSとか、なんかで八つ当たりやらいやがらせやら、父さんたちがいわゆるネトキョクウ投稿やっていたのを知って笑っちゃったよ。この暑さ地獄でいいことがあったのはそれぐらいかな。

 僕の底辺中学への嫌がらせもばらしちゃったら、母さんは呆れかえったけど、父さんは笑っていた。嫌な笑い方だけど、しかもそのときはうちの窓から飛び降りちゃうんだから、何考えてたんだか。

「もうすぐ11時ね」

ああ、そうだ、そろそろ母さんが耐えきれなくなるかな。今回の今日はフライパンを振り回すのか、それとも皿を投げつけることからはじまるのか。

いわゆるお嬢様育ち、といっても天使のようなっていうよりライトノベルとかの嫌われ意地悪で正確が悪い悪役令嬢とか権力笠に着て下をこき使うPTAの女王様そのものみたいな母さんに自分の想い通りにならない状況なんて耐えられるわけがない。

「暑いのよ!どうにかしてよ!」

そんなこと言われたって、僕にはどうしようもない。

ドンドン暑くなって、僕らは苦しんで死ぬ、今日も。

いや、最近は僕の方が母さんに殺されちゃうんだよな、たぶん。

父さんが飛び降りるようになったのは何回目の今日だっけ。

8月15日。戦争が終わったとかいう日、前のその戦争の愚行を忘れないための日。それなのに戦争をできるように法律を変えてしまって、トンデモナイ行いを繰り返そうとした日。

このニホン国の大都市、それと首都を大熱波と大地震が襲った。揺れに耐えるつくりの高層ビルやマンションは耐えられたけど、電気は止まった。救助?だって救助にくるはずの人たちは大半が死んでいた、暑さと過労と栄養不足で。

いわゆるエッセンシャルワーカーとか医療関係者は円安とか物価高とか人手不足とかでいっぱいいっぱいだったのだ、そこへ二重の大災害。彼らの方が倒れて死んでいった。そして、残ったのは与党議員とかマスコミとかそういう上の連中だった。

 ああ、ホント僕らが愚かだったんだよ。

最初は彼らが死んだのを喜んだ奴もいたみたいだけど、僕らのほうもすぐに行き詰った。

誰が食糧や水を運んでくれてた?誰が壊れた電線などインフラを整備してた?誰が怪我した人、病人や弱った人の面倒をみてたんだ?誰がゴミやがれきを始末してたんだ?

彼らがいなくなっちゃったら、どうしようもなくなるのは僕らのほうだったんだ。世話してくれる母親や女性に我がまま言って思い通りにならないと罵倒してたオッサンがその人たちがいなくなったら行き詰ってしまうって気が付いたらもう遅かった、そんな感じだ。しかもそういう必要な相手を蔑み虐め罵っていたんだから、彼らを支えてあげようなんて人はいるはずもない。そして一緒に女性らを叩いていたはずのSNSのお仲間と叩き合いして惨めに死んでいっていたらしいけど。

僕らは最初の2-3日は何とかしのいだけど、やっぱり暑さと空腹でダメになった。と思ったけど、目が覚めたら8月15日の今日。

最初のうちはスゴイ辛いというかなんというか、いわゆる絶望だ、何回も苦しんで死んでるんだから。で、もう何回目かわからなくなった。

どれだけ酷い目にあったら、これが終わるんだろう。そりゃ、他の人も地震の被害とか、熱中症とかで苦しんで死んだろうけど、何回も何十回もじゃないだろう。

なんで、僕らが、僕らだけにこんな目に?

「なんで、こんなことに…。私は、アトウダ一族のものなのよ!ニホン国の総理や副総理やっていた一族の一員なのよ!夫だって一流企業の有望株で、息子だって優秀で」

また始まった。そんなこと言っても意味ないのに、どうせ今日も死んでいくのに。

僕が黙っていると母さんは包丁を取り出した。

ああ、今回はそれかよ、久しぶりかもな、その死に方。熱中症よりはいいかも知れないけど、結構痛い。

そういえば、他の奴らはどういう死に方をしたんだろう、熱中症が大半だろうな。そういえば祖父母の世話してる奴らもいるっていってたっけ。一緒に暑さで死んでったのか。人の世話して頑張って、そういう連中は一回で死んだきりなのか、どうもこのマンションでは、僕らみたいなのがいるようだけど…。

ああ、そっか、だからか。ようやくわかったよ、これって罰なのか。

彼らは死んじゃった、僕らもだけど。それってニホン国が僕らの父さんやら母さんみたいに自分らが威張って他の人を踏みにじって八つ当たりして、虐げてるような国にしちゃったからのせいもあるよね。しかもまた、戦争起こして儲けようとするなんて最低だよ、母さんの実家とかさ。それにのっかてる奴らも、庶民のことなんて虫けらとしか思ってなかった極悪非道って言われたって仕方ないよ。こんな目にあわされるのは当然かも。

 インフラとか災害対策にお金かけてりゃ、こうはならなかった。学者だのNPOだの何回も言ってた。僕らだってSDGsだの習ったのに、口先だけでやってたから、こんなことになったんだよ、たぶん。ちゃんとみんなのこと考えてたら、緊急ナンタラ条項なんて作らず、軍備なんとかより災害対策暑さ対策したんだよ。それでこんなことにならなかった、きっと。

 あの底辺校しか行けなかったあの娘は僕ら以上に苦しかったんだろうな、おばあちゃんが寝てるのにエアコンもロクに効かないって、勉強もできないって。そうだよ、確かに勉強やれて、ご飯食べれたら僕なんか抜かされてた、だから多分それが怖くもあって、あんなこと言ったんだ、なんて馬鹿だよな、僕は。母さんや父さん以上の愚か者だよ、ホントはあの子が怖かったけど仲良くもなりたかった、素直で可愛くていい子だから…。好きな子をイジメちゃうバカって、ホントにいたんだな、それが自分だなんて情けないや。

「何を黙ってんの、馬鹿にしてるの?」

暑さのせいか、母さんの声がよく聞こえない、怒っているんだろうな、包丁を握りしめて僕に向けてる。

 今回は僕が殺されるのか、先に殺さなくてよかったかも。反撃する気にもなれない。また今日が来る前にあの世とかにちょっとでも行けたら、あの子に会って謝りたいよ、そしたら次の今日は少し楽になる気がする。

 ああ、母さん、今日も僕を殺すんだね、そして死んで、また暑い今日が来る


いやあ、何回暑い日が来るんでしょうね、頭がおかしくなりそうですが、それでなくてもオカシナことやってる国ってどうなっちゃうんでしょうね。

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