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5. 湯けむりに包まれて

 脱衣所に着いて、貴重品入れに財布や携帯を入れて、ロッカーに荷物を入れて支度を始める。

 もうここまで来たら、後戻りは出来ない。

 覚悟を決めて、服を脱ぎ始める。

 脱いで早々とタオルで隠す。

 ちらっと櫻子を見ると、すでに支度は整っていたみたい。

「行きましょうか。」

 露わになった櫻子の肌を、私は直視できなくて、でも櫻子とはぐれないように、ぼんやりと櫻子を目で捉えながら一緒に洗い場に向かった。

 運良く2つ並んでシャワーが空いていたので、並んで身体を洗い始める。

 正直、今はとてもホッとしている。

 分かってはいたことだけれど。想像出来たことではあるけれど。

 櫻子の肌。『見てはいけない』という気持ちと『大浴場に一緒に入っているだけでもう気にするべきではない』という気持ちがぶつかり合って、どうしていいかわからない。

 このまま逃げたい気持ちもあって、ゆっくり身体を洗っていれば、このまま時間は過ぎるけれど。

 でもちらっと櫻子を見ると、櫻子は洗い終わった髪をすすいでいた。

 櫻子を待たせるのもいけない。そう言い聞かせて私は少し急いで髪と身体を洗い始めた。

 櫻子をちらちらと見ながら、ほぼ同時に身体を洗い終わるようにして、櫻子が使い終わった洗い場の泡を流し終わったその少し後に、私も洗い場を綺麗に濯いだ。

 櫻子も私を気にしてくれていたのか、私が立ち上がるのを見て櫻子も立ち上がった。

 そうして私は、ようやく櫻子に正面から向き合えた。

 綺麗。

 もうそんな言葉しか出てこない。

 何にも飾られていない櫻子の華奢な身体は、まるで絹みたいに白く柔らかい肌をしていて、四肢は繊細なガラス細工を思わせるように美しかった。

 タオルで隠された胸は、決して大きくは見えないけれど柔らかそうにふわふわと膨らんでいる。私はあの胸の感触をこの背中で感じたことがあった。

 こんなに綺麗な人が、私の恋人なんだ。

 今まで私を支配していたモヤモヤとしたものや、私を捕らえていた悩ましさは流されていったのか、私は櫻子にこう告げていた。

「櫻子、綺麗です。」

 風呂の熱気で既にほんのり上気した頬は、私の言葉を聞いてさらに赤く染まっていく。

 メイクも落とされた素肌は透けたように白くて、上気した頬はまるで雪の上に花が咲いているみたいに鮮やかだった。

 見惚れてしまう。私の中に感じたことの無いようなどきどきが湧いてくる。

「琴葉。貴女も綺麗よ。」

 櫻子にそう言ってもらえたけれど、私は櫻子が綺麗すぎて、私の中のどきどきに飲み込まれそうで、それどころではない。

「お風呂、浸かりにいきましょう?」

 櫻子にそっと手を引かれるまま露天風呂に向かう。

 櫻子は髪を纏めて上げていて、そのうなじが見えている。

 さっきすれ違ったお客さんのせいなのか、櫻子のうなじに目が行ってしまう。

 普段は髪に隠された櫻子のうなじにはほくろがあって、初めて見たその小さなほくろに私はどうしてか釘付けになってしまう。

 櫻子は私の手を取ったまま、お湯の中へといざなう。

 湯に沈んだ私は櫻子にくっついていたくて、櫻子の柔らかい肌に触れていたくて、櫻子の肩に身体を預けてしまう。

 櫻子はそっと首を私の方にかしげてくれて、私の手を水の中で取ってくれる。

「他の人もいるんですよ?」

「そうね。他の人もいるのにくっつき過ぎかしら。でも。私は幸せよ? 琴葉の肌に触れていると気持ちいいもの。……だから。私はこうしていたいわ。こんな機会、今日だけですもの。」

 櫻子の言葉に、私の中の何かが弾けていく。

 櫻子。私は、貴女の首筋にキスしたくて仕方ありません。

 お風呂の熱で火照り始めているのか、それとも別の何かが私を駆り立てるのか。

 2人とも熱くなってきてお湯から上がる頃には、どうしようもないくらいに櫻子が欲しくなっていた。


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