第８話 壁ドン作戦
そして運命の放課後がやって来た。沙耶ちゃんの計画では草壁君に壁ドンする予定の時刻だ。私は目一杯不安に包まれながら例の空き教室へと向かった。
「本当にするの？」
「当たり前じゃん。昼休みの練習も大成功だったし」
「あれは大成功って言うの？」
「あれが大成功じゃなくて何なのよ。同性にも効果があったんだよ。大成功じゃん」
何か違う気がする。
「じゃあ、私は草壁君を連れてくるから柚衣はスタンバイしてて。それと野乃葉は他の生徒が入ってこないように教室の入り口で見張ってて」
沙耶ちゃんはそれだけ言い残して去って行った。
当然のことながら昼休みより緊張している。本当にこんなことしていいのかな？ 余計に嫌われる気もするけど。もし嫌われたら一生恨んでやるんだからね。毎日薪のベッドで寝て胆を嘗めて復讐に備えるから沙耶ちゃん覚悟してよ！
私がブツブツ言っていると勢いよく紗椰ちゃんが入ってきた。
「柚衣、お待たせ～」
「キャー！」
「どうして悲鳴上げてるの？」
「緊張感がボーダーラインを超えたのと薪と胆をどうやって手に入れようかを考えてて」
「何言ってるのよ。そんなことより草壁君を呼んできたよ」
「キャー！」
沙耶ちゃん、本当に草壁君連れてきちゃったよ！
「今、女の子の悲鳴が聞こえなかった？」
「まあいいから入って入って」
「あれ？ 誰かいるよ」
「く、く、く、草壁君。初めまして」
私は草壁君を知ってるけど、草壁君は私のことを知らないよね。
「３組の百瀬さんだね？」
「えー！ どうして知ってるの！？」
「僕は生徒会長だからね。この学校の生徒は全員知ってるよ」
「嘘でしょ！？」
「本当さ」
凄い！ 凄すぎる！
「じゃあ草壁君。こっちに来て」
「この壁の所だね」
「そう」
「何があるの？」
「細かいことは気にしない」
沙耶ちゃん、強引すぎない？
「でも・・・・、まあいいか。夏上さんに頼まれたら断れないからね」
あれ？ 草壁君て沙耶ちゃんの知り合いなの？
「さあ、準備万端だ。柚衣頑張れ」
「え？ あ、はい！」
私はロボットのような歩き方で壁際にいる草壁君の所へと歩いて行った。
「どうしたの？ 右手と右足が同時に出てるよ」
え？ 嘘？ ダメだ平静を保てない。
「ごめんなさい！」
「別に謝ることはないよ。それより僕に用事？ 何でも言って。できる限りのことはするから」
「キャー！」
「柚衣、いちいち悲鳴を上げないの」
ああ、草壁君！ 何ていい人なの！
「あ、ありがとうございます」
私は思いっきり頭を下げた。
「別にお礼を言われることはしてないんけど‥‥」
「優しい言葉をかけてくれるだけで十分お礼を言うだけの価値はあります」
「そうかなあ？」
「一つだけお願いがあります」
「何？ 何でも言って」
「今から私が何をしても絶対に嫌いにならないでください」
「何か怖いんだけど・・・・」
「では、柚衣いきます！」
私は意を決して草壁君の肩の高さまで手を挙げた時、野乃葉ちゃんの声が響いた。
「入っちゃダメ～！」
「ユイちゃん！！！ 何をする気ですか！？」
「遙香ちゃん・・・・」
遙香ちゃんは私と草壁君の間に割り込むと草壁君に向かって言った。
「私は柚衣ちゃんと付き合っています。私の恋人を奪わないでください」
「ええーーー！！！」
何言いだすの遥香ちゃん！
「そうなんだ。大丈夫だよ。佐々木さんの恋人を奪うようなことはしないから安心して」
ガーン！！！
どうしてこうなるのよ！ 絶望に満ちあふれた私は学校の帰り道、薪と胆を買いに駅前のショッピングセンターへと向かうのであった。
