第40話 草壁君にお似合いの女性
草壁君のお母さんてきっちりとした性格っぽいよね。ミスをしたら怒られそうな雰囲気を醸し出しているもん。
「裕哉さん。あなたが女の子を誘うなんて珍しいわね。この中に意中の女性がいるのかしら?」
え?
「いませんよ」
「あなたを産んで育ててきた私にはわかります。いますね?」
「だからいませんたら」
何? 何なのこの会話。草壁君は私たち3人の誰かが好きってこと? そんなぁ。嬉しすぎだよ。でも私とは限らないよね? 確率3分の1か~。お母さんの勘違いってこともあるし。
「いいから言いなさい。誰なの?」
「もし、いたとしても本人の前では言えませんよ」
「あなたは一人っ子なんだからこの草壁家の莫大な資産を引き継がなくてはいけません。その嫁はしっかりした人でないと」
莫大な遺産! いやいや私はお金がなくても草壁君が好きだから。
「その話はまた後日に」
「いいえ、この人達にも聞いて貰わないと」
「ですからこの3人はただの友達ですって」
お母さんは私たちを見て続けた。
「条件は3つあります」
条件?
「1つ目は頭がいいこと」
私、勉強頑張る!
「2つ目は行動力があること」
よ~し、来年度は生徒会に立候補だ!
「そして3つ目は高貴な家柄の娘さんであること」
終わった~。私の家は思いっきり庶民だよ。
「その条件通りにはいきませんよ。僕のお嫁さんは僕が選びますから」
感動である! なんて素敵なお言葉。私、家柄以外は頑張るからね。
「案内するよ。こちらに来て」
草壁君はお母さんを避けるように私たちと歩き出した。
草壁君に案内されながら中庭をまわっていると、あちらこちらにテーブルが用意され多くの人が食事をしながら談笑している人たちの姿が目に入って来た。
「裕哉君の彼女かい?」
「違いますよ」
「本当に?」
「勿論です」
「でも彼女の方は君に興味があるように見えるぞ?」
「冗談はよしてください」
草壁君は両手を振りながら笑っている。
あれ? この人どこかで見たような?
「草壁君。さっきの人見たことあるような。気のせいかな?」
「よくテレビに出てる人だからね」
「え? そうなの?」
「日本を代表する心理学者だよ」
「ええー! そんな人が来てるの?」
「他にもいるよ。あちらにいるのが四菱商事の社長さん。そっちにいるのがNNTの会長さん。そして向こうでワインを飲んでいるのが総理大臣さ」
「嘘!」
凄い! 凄すぎるよ草壁君! 私この恋本気で頑張る気になった! 問題は草壁君がどれくらい私のことが好きかってことだよね? もしかして私たち3人の中に好きな人がいるのだとしたら脈ありかも!
「ねえ、私たちを招待してくれたのは意中の人がいるからってお母さんが言ってたけど本当なの?」
「さあどうかな?」
草壁君が笑顔で言った。否定しないよね。もしかして本当にいるの? だとしたら誰?
まず野乃葉ちゃんは琉生のことが好きだから違うよね? 親友を思ってる子を奪ったりする性格じゃないもんね。でも野乃葉ちゃん可愛いからなぁ。男の人って可愛い子に弱いって言うし。思わず守ってあげたくなる女子の代表のような女の子だもんね。あり得るかも。紗椰ちゃんは好きって言うよりはライバル的存在だから違うよね? でもライバルとして毎日意識している内に恋が芽生えるって可能性もあるかも? それで肝腎の私は・・・・。アピールポイントがない! 野乃葉ちゃんみたいに可愛くないし、紗椰ちゃんみたいに意識されることもない。もしかして私が一番不利ってこと?
「どうしたの? 急に顔が青ざめたけど」
「何でもないの」
そういえばお母さんの条件て『頭が良いこと』『行動力があること』『高貴な家柄』だよね。家柄はともかく頭と行動力は紗椰ちゃんにピッタリ合ってる。もし紗椰ちゃんが本気になったら私なんて足下にも及ばないよ。どうしよう。
「柚衣も食べなよ。この肉美味しいよ~」
「紗椰ちゃん! 食べながら歩いてこないで!」
何か大丈夫な気がしてきた。