第39話 親からねらえ作戦
私が遥香ちゃんから解放されたのは午後4時過ぎ。草壁君の家・・・・じゃなかった、豪邸に行くのに待ち合わせた時間は5時。急がねば!
私は今持っている服の中で1番ドレスっぽい服に着替え慌てて家を出た。待ち合わせ場所に着くと沙耶ちゃんも野乃葉ちゃんも綺麗に着飾っている。
「遅いぞ!」
「ごめん。遥香ちゃんがなかなか解放してくれなくて」
「草壁君に遥香ちゃんの説明しなきゃね」
紗椰ちゃんがにこりと微笑んだ。
「本当だよ。誤解されたら大変だもん」
結構、手遅れな気もするけど。諦めたら試合終了だもんね。
「それと今日は草壁君がターゲットじゃないからね。草壁君のお父さんとお母さんが真のターゲットだよ」
紗椰ちゃんが突然意味不明なことを言い出す。
「どういうこと?」
「両親に気に入られたらこっちのもんよ。特にお母さんに気に入られたら大きいからね」
「そ、そうだよね」
意外に壮大な計画だった。
「野乃葉は中園君が邪魔しそうなら止めるのよ」
「分かったよ〜」
私たちが草壁君の大邸宅に着くとすぐ大きな部屋へ通された。
「お着替えはここでお願いします」
う~。私たちは小さな声で言った。
「いえ、着替えは・・・・いいです・・・・」
目一杯着飾ってきたのに、上流階級の方から見るとこの服装って私服レベルだったってことだよね? ちょっと虚しいかも?
パーティーは裏庭で行われていた。まさかこんな広い裏庭があろうとは・・・・。これって東京ドーム何個分と放送されるレベルだよね。
「いらっしゃい」
裏庭に行くと草壁君が声をかけてくれた。何故かほっとする私。
「今日はごめんなさい。突然消えたりして」
「ああ、彼女には驚いたよ」
「あの子は遥香ちゃんと言って、近所に住む高校1年生なの」
「そうなんだ」
「私のことをお姉さんのように慕ってくれて」
「人望があるんだね」
「変な誤解してない?」
「大丈夫だよ」
「良かった~」
「いろいろな愛の形もあることを僕も受け入れなくてはね」
「誤解してるじゃない!」
「ははは、冗談だよ。そうだ。君たちに僕の両親を紹介するよ。こっちに来て」
両親を紹介するって! ええええええーーーーーーーー!!!!!! 心の準備がまだできてないんですけど~!
「とにかくアピールのチャンスだよ」
私は沙耶ちゃんの言葉に頷いた。
ダメだ。ドキドキが止まらない。あ! 心臓が止まったら死ぬのか。何て言ってる場合じゃないよ。一歩歩く毎に脈が速くなっていくのがわかる。
「母上。こちらが同じ学校の柚衣さんに夏上さんに野乃葉さん」
うわー! 綺麗なお母さん。草壁君がイケメンになるわけだ。おっと感心している場合じゃないよ。挨拶しなきゃ。第一印象が大切だもんね。
「初めまして。私は百瀬柚衣と申します。よろしくお願いします」
「私は夏上紗椰です」
「私は~野乃葉だよ~」
よし、私が一番まともな挨拶ができた。これってポイント高いよね?
「あら、あなたが夏上紗椰さん? 裕哉から話は聞いています。これからも仲良くしてあげてくださいね」
「ありがとうございます」
え? 私の方が長い言葉で挨拶したよね。好印象のはずだよね。どうして? どうしてなの?
「あら、こちらの女性は随分可愛らしい容姿をしていらっしゃるわね」
え? そんな可愛いだなんて。どうしよう。
「野乃葉さんと言ったかしら?」
野乃葉ちゃんのことか~い!
「裕哉をよろしくお願いします」
し~ん。ええっと~。会話が止まっちゃったよ? 私には声をかけてくれないの?
「あの、え~っと、私は?」
遂に我慢できなくなってコメントの要求をしてしまった。
「あなたは・・・・えーっと。何て言ったかしら?」
「百瀬柚衣です」
「そうだったわね。裕哉といいお友達でいてくださいね」
いいお友達って‥‥。深い意味はないよね? 私は微妙に引きつった顔で微笑むのでだった。