第37話 本格的なデートだ
私は草壁君と店を出た。いよいよ本格的なデートの開始だ! この日をどれだけ待ち望んでいたことか。神様! ありがとうございます。
「どうしたの? 急に空を見て涙ぐんでるけど」
「何でもないの」
そうだ。感動している場合じゃないよ。さりげなく琉生と野乃葉ちゃんがいる喫茶店の前を通って草壁君に2人のラブラブなところを見せなきゃ。草壁君が琉生をうまく見つけてくれますように。
「あちらに綺麗な噴水があるんだ。見に行こうか?」
「本当! 行きたい」
あ! そっちは逆方向だった。
「やっぱりこっちに行こうよ」
「何かあるの?」
「別に・・・・ないけど・・・・」
ダメだ! 私って思いっきりエスコートが下手だわ。
「いいよ。柚衣ちゃんの行きたい所に行くよ。案内して」
優しい! 絶対この恋を実られてみせるんだから!
私たちはゆっくりと目的の喫茶店に向かって歩いていった。草壁君との距離を詰める大チャンス! でも私たちの会話は殆どなくなってしまった。私は緊張のあまり何も話せないのだ。気まずい雰囲気になったら大変だよね? 何か話さなきゃ。でも何を言えばいいの?
その時、草壁君が話しかけてくれた。助かった~!
「柚衣ちゃんは何が好きなの?」
「草・・・・」
「僕以外でね」
ええ、また言っちゃうところだったよ。恥ずかしい!
「猫とか、ふわふわもふもふの物。しっぽアクセサリーも好き」
「手触りとかいいからかな?」
「そう! 大好き!」
「そんなに好きなんだ」
「うん」
うわー。草壁君との会話が弾んでるよ。凄い!
「じゃあ、食べ物では何が好き?」
「ご飯に味噌汁をかけた奴」
「え?」
草壁君がきょとんとした顔で見ている。
「今のなし。本当はフォアグラ」
食べたことないけど。
「そうか。フォアグラは僕も大好きだよ」
「美味しいよね~」
何とか誤魔化せたかな?
「じゃあ、今日のクリスマスパーティーでは特製のフォアグラを用意させるよ」
「ありがとう。嬉しい!」
フォアグラ食べたことないけど、きっと美味しいよね? もし嫌いな味だったらどうしよう。
その時、突然紗椰ちゃんの声が聞こえてきた。
『どこまで歩いて行ってるのよ! 例の喫茶店とっくに過ぎちゃってるよ』
『あ! 忘れてた』
戻らなきゃ。
「やっぱりこっちへ行きたいな」
「こっちって今来た道だけど」
やっぱり変だよね。どうしよう。
「こっちの林にさっきパンダがいたような」
「こんな小さな公園にパンダはいないだろう?」
もっともです。墓穴を掘っていく私。
「いやあの・・・・」
「ん?」
「さっきの喫茶店に琉生と野乃葉ちゃんがいたような」
思いっきり本当のことを言っちゃったよ。
『さりげなく見せるんじゃなかったんか~い!』
紗椰ちゃんから当然のツッコミが来る。
「やっぱり気になるんだね?」
「そんなことないよ!」
益々悪化。もうどうしよう。
『こうなったら野乃葉に思いっきりラブラブをさせるしかないわね』
『紗椰ちゃん、お願い!』
『何とかやってみる。でも野乃葉だしなあ』
不安になるようなこと言わないでよ~。
「見に行こう」
私が恐る恐る言うと
「わかったよ」
と優しく答えてくれた。
にこにこする草壁君を見ながら、
『うまくいきますように』
と思いっきり神様にお願いする私なのでした。