第32話 草壁君の家って
暫くすると先ほどの老人が戻ってきた。
「お待たせしました。どうぞ中へお入りください」
私は気になっていることをそっと聞いてみることにした。
「あ、あのう。草壁君のお父様ですか?」
「いえ、私は執事の黒田と申します」
「執事〜!?」
私たちは思わず大きな声を出す。執事って本当にいるんだ!
大きな玄関を入るとそこに草壁君がいた。
「ようこそ。突然どうしたんだい?」
「ちょっとお話がしたくて」
沙耶ちゃんはやや小さめの声で言う。
「お客さんを第7応接室へ案内して」
私たちは執事さんに案内されて大きな部屋へ入った。
「うわー、大きなソファー」
「好きなところに座って」
「すごい! 野球の賞状とミニチュアのグローブがいっぱい。銀色に銅色か」
「残念ながら金色はまだないんだ」
「別に嫌味で言ったんじゃないからね」
沙耶ちゃんは気まずそうに言った。
私と野乃葉ちゃんはあっけにとられて何も言えない。
「ところで応接室って7室もあるの?」
「いや、10室あるんだ。この部屋は僕がよく使うってだけ」
「大金持ちは違うねえ。お客さんによって部屋を替えるのか」
「さすが夏上さん、鋭い。成績が影の1番だけのことはあるね」
「成績が影の1番? どういうこと?」
私はようやく言葉を発することができた。
「それは私も初めて聞いた」
紗椰ちゃんが不思議そうな顔で言う。
「え? 皆さん知らなかったの? 学校では噂になってるよ」
「どんな噂なの?」
私と野乃葉ちゃんは身を乗り出した。
「学年順位常に2番。でも、それは勉強を全くしないでの成績。真剣に取り組めば間違いなく1番だと」
「ええ! 沙耶ちゃんてそんなに頭が良かったの?」
「成績がいいのは〜、知ってたけど〜、予想をはるかに超えてたの〜」
「その噂は間違っているよ」
紗椰ちゃんが人差し指を横に振る。
「ほう、どのあたりが?」
「学年1番と2番の差がありすぎるのよ。いくら真剣に勉強したって追いつけないんじゃなくって? ねえ、学年1番の草壁君」
「草壁君が1番なのは知ってたけど、まさか沙耶ちゃんがライバルだったとは」
「私は〜、柚衣ちゃんが〜、草壁君の次に成績がいいと思ってたよ〜」
「い!」
草壁裕哉 → 1番
夏上沙耶 → 2番
春野野乃葉 → 10番
百瀬柚衣 →106番
「野乃葉、それは嫌味ってもんだよ」
「どうして~」
その時ドアを叩く音がしてメイドさんが紅茶を持ってきてくれた。メイドさんが部屋から出て行くと、沙耶ちゃんはライバルモードからいつもの興味津々モードへと変わる。
「ねえ、ねえ、メイドさんてやっぱりあの服着るんだ」
「この家の基準は当てにならないよ。この家は昔からメイドがいるからね。言わば伝統的に着てるんだ。もちろんメイド服が流行る前からね」
もはや、何しに来たかを忘れた感じの沙耶ちゃんである。