第30話 野乃葉ちゃんの才能
野乃葉ちゃんは真面目で正直な子だ。紗椰ちゃんの言いつけをきっちりと守る。
「ここでコーヒーを〜、一口飲む〜・・・・ケホケホ」
「大丈夫か? やっぱりブラックコーヒー飲めねえじゃねえか。飲めねえもの注文するなよ。てか今のお前の言葉ってナレーション入ってなかったか?」
「それは言わなくていいから」
紗椰ちゃんが慌てて野乃葉ちゃんに注意した。
「それは~言わなくていいの~」
あちゃー。
「悪かった」
変に辻褄が合っちゃった。
グビ。ケホケホ。
「本当に大丈夫か? 無理して飲まなくていいから」
「ふふ、大丈夫だよ〜」
「一体どうしたんだよ。今日のお前おかしいぞ」
「これが~普段の~私なの〜。私は~もう大人だよ~」
野乃葉ちゃんはコーヒーカップを両手で持ち大人の雰囲気で琉生を見つめている。もしかして野乃葉ちゃん乗ってきてる?
野乃葉ちゃんに見つめられて、琉生は視線をそらしながら呟いた。
「それにしても柚衣の奴、何してんだ?」
そして必要以上に店内をきょろきょろと見回す。間が持たない雰囲気だね。ちょっと面白いかも?
「本当に柚衣ちゃん〜、遅いねえ〜」
「ところで話って何だ?」
野乃葉ちゃんは一度下を向くと琉生を見上げ可愛さいっぱいの笑みで話し出す。
「お願いが〜、あるの〜」
もしかして野乃葉ちゃんて女優の才能があるの?
「嫌な予感しかしねえが一応聞いてやる。何のお願いだ?」
「12月24日に〜、デートして欲しいの〜」
『やはりな。嫌な予感は大当たりだ』
「ダメだ。その日は用事がある」
「クリスマスイブだよ~私をおいて〜、誰と会うつもりなの〜」
「誰とも会わねえよ」
琉生がまた視線をそらす。
「嘘だ〜。誰かとデートする気だ〜」
「しねえよ」
「ここで顔に手を当てて〜、泣く〜」
「何言ってんだ?」
「琉生のバカ〜。バカ〜。浮気者〜。死んでやる〜」
「こら!! 大きな声を出すな!」
周りの客がひそひそ話を始めた。
「あんな可愛い子を騙してたの?」
「別れ話かしら? きっと浮気がばれたのね」
「何か女の敵って感じの男じゃない? かわいそうに」
妙な雰囲気が店内に流れていく。
「わ、わかったから!」
「デートしてくれる〜?」
「するから」
「じゃあ約束よ~と言って手を握る〜」
「だから何でナレーションが入るんだ?」
「余計な台詞まで〜、言わなくていいの〜」
「はあ?」
「・・・・もう、琉生のバカ〜」
これは野乃葉ちゃんのアドリブだ。
「わかったって。じゃあ俺帰るから」
琉生はそう言うと逃げるように店から出て行った。ちょっとというかかなり可哀想な琉生。でも私が幸せになるためには仕方のないことなの。許してね琉生。