第3話 筋金入りの幼馴染み
沙耶ちゃんの言うポストのような物って、なるほど。
「下駄箱。ラブレターと言えば下駄箱に決まってるじゃないか」
ずいぶん発想が古い気もするけど。私たちが下駄箱の近くまで行くと、沙耶ちゃんは私の背中を押した。
「がんばって」
「え? 一緒に来てくれないの?」
「周りの目を気にしながらの緊張感も味わなきや」
「そうだよ~」
私は頷くと草壁君の下駄箱に近付いていった。
誰かに見られていたら大変だ。私は周りを念入りに見回す。心臓がどきどき鳴るのがわかる。そして草壁君の下駄箱のふたに手をかけ・・・
「あら百瀬さん。もうクラブは終わったの?」
「キャー!」
「どうしたの? 急に飛び上がって。1mは跳ね上がっていたわよ」
担任の森先生だ。私はピーンと背筋を伸ばす。もちろん無意識で。
「ク、クラブ活動はサボってます」
「まあ、真面目な百瀬さんにしては珍しい言葉ね」
「はい、珍しい私です」
もう何を言っているのかさえ分からない。
「どうしたの? 顔が真っ赤よ。熱でもあるんじゃない?」
「だ、だ、だ、大丈夫です。さっき保健室で計ったら39度9分しかありませんでしたから」
「かなり重症ね。早く帰って寝なさい」
「そうします」
森先生は私の返事を聞くと職員室に入っていった。39度9分と聞いて『早く帰って寝なさい』とだけ伝えるのも担任としてはどうかと思うけど、追及されると困るから今は森先生の天然に感謝だよね?
それにしてもさっきは絶対に一瞬心臓が止まってたよ。別に悪いことしているわけじゃないよね。でも、心臓のどきどきは止まらない。もし今、草壁君本人が来たら絶対死ぬわ。
「何してるのよ?」
離れたところから沙耶ちゃんの声がした。私は深呼吸をすると再び下駄箱のふたに手を
かける。
ドサドサー。大量の手紙が足下に落ちてきた。
何これ? まさかこれ全部ラブレターじゃないよね?
「何グズグズしてるのよ?」
沙耶ちゃんと野乃葉ちゃんが私のところに近付いてくる。
「あちゃー、これ全部ラブレター?」
沙耶ちゃんは足下に散らばった手紙を見て言った。
「ライバル多いね~」
野乃葉ちゃんの冷静な一言が炸裂する。痛恨の一撃を受けた私の心臓は再び速くなった。
分かってはいたけど言葉にするとズシンとくるものがある。無謀な挑戦をしているのを実感する私。
「こうなったらこれしかないね」
沙耶ちゃんが靴から赤と青のペンを取り出して言った。
「目立つようにこれで縁取りをしちゃおう」
こうなってくると懸賞に応募するのと何ら変わりない気がする。
「エアメールでも出すのか?」
急に男子の声がしたので、私は口から出かかった心臓を慌てて飲み込んだ。
「琉生!」
そう、そこにいたのは中園琉生。私の幼なじみだ。
幼なじみと言ってもただの幼なじみではない。家が隣と言うだけでなく誕生日も一日違いという筋金入りの幼なじみなのだ。親同士が仲良しと言うこともあり、生まれたときから兄妹のようにして育てられてきた。いや、どちらかというと姉弟かな?
「何してんだ? こんなところで」
「何でもいいでしょ! 琉生には関係ないことだし」
私は顔を真っ赤にしながら言った。まさか人気ナンバー1の生徒会長にラブレターを出そうとしていたなんて言えるはずがない。
「あれ? お前が開けようとしてたのって草壁裕哉の下駄箱じゃねえか?」
ギクリ!
「ち、違うわ! 何言ってるのよ!」
「その慌て方だと図星だな」
付き合いが長いだけあって、琉生は私の顔色で私の心境を読み取る術を心得ている。
「おまえ草壁裕哉が好きなのか?」
「違うって言ってるでしょ!!」
「やめとけ。あいつに振り向いてもらえる確率なんて、宝くじが当たるより悪いに決まってる」
確かにそうかもしれないけど、たった一言で乙女の恋心をどん底に落とさなくてもいいじゃない!
「そうなんだよ〜。 柚衣ちゃんは~草壁裕哉君が好きなの~」
突然、野乃葉ちゃんが言い出した。積極的とは言えない性格の野乃葉ちゃんだけにみんなビックリして黙っている。
「だから〜中園君も応援してあげてほしいの〜」
「悪いけどお断りだ。確率の悪い賭はしないことにしてるんだ」
そう言うと琉生は私たちの前から消えていった。