第29話 琉生、お願い!
そして、そして、琉生を誘うという大役は私がする羽目になってしまったのだ。何か気まずいな。
「琉生、琉生〜」
私は窓越しに呼んでみた。シーン。やっぱり窓に何かをぶつけなきゃいけないのかな? そう言えば私から声をかけることってあまりなかったっけ?
すると琉生の部屋の窓が開いた。あっ聞こえた。
「何だよ」
琉生は少し小さな声で言う。琉生も気まずいのかな? 何かぎこちない二人。
「お願いがあるの」
「お願い?」
「話したいことがあって、明日の放課後6時にボクドナルドに来てくれない?」
「話があるなら、今話せばいいじゃねえか」
正論だ。
「話があるのは私じゃないの」
「どうせ、春野じゃねえの?」
鋭い!
「それは明日になってのお楽しみ」
「誰が来るか分んねえけど、とりあえず断っとく」
「とっても可愛い子だよ」
「俺の好きなのはお前なんだよ。他の誰とも会いたくねえし」
どうして、こんな言葉がすらすら出てくるの? 私なんか恥ずかしくて死んでも言えないよ。でもちょっとドキッとしちゃう言葉だよね。また、悩んじゃうじゃんか。
「とにかく来てよ」
「行かねえよ」
「私も行くから」
「はあ? どうなってんだ?」
「ね、いいでしょ?」
「もし嫌だって言ったら?」
「え〜と、明日沙耶ちゃんが直接交渉に行くと思う」
「分かった。行くよ。俺、夏上って苦手なんだよな」
そ、即答・・・・(苦笑)
「じゃあ、よろしくね」
私は大役を無事に終え、ホッとした気持ちで窓を閉めた。
次の日の放課後、私たちがボクドナルドへ行くと琉生はもう来ていた。沙耶ちゃんはすかさず琉生から死角になる席を見つけそこに陣取った。そして野乃葉ちゃんの服の襟にピンマイクを取り付け、耳にはワイヤレスのイヤホンを付けさせた。
「これで準備OK」
「何〜、これ〜」
「これで私の声が聞こえるようになったから、私の言うとおりに言えばいいよ」
「中園君の声は〜?」
「このマイクが拾うから大丈夫」
沙耶ちゃんはこれだけ説明すると野乃葉ちゃんを琉生の待つ席に行かせた。
「お待たせ〜」
沙耶ちゃんは明るい声で言うが。
「お待たせ〜」
野乃葉ちゃんは小さな声で言った。
「やっぱり春野じゃねえか!」
「わたしじゃ〜、不満〜?」
「いや、そういうわけじゃねえけど」
「あっ、店員さん〜、ブラックコーヒーください〜」
「お前そんなの飲めるのかよ!」
「沙耶ちゃん、遊んじゃダメだよ」
「ふふふ・・・・」
沙耶ちゃんが静かに笑う。
「ふふふ・・・・」
紗椰ちゃん! マイクマイク。
「笑ってるってことは大丈夫なのか?」
「これはいい女の〜、たしなみよ〜」
「お前本当に春野か?」
「あら〜、私のこと忘れたの〜? 腕を組んで歩く仲だったのに〜」
「あれはお前が勝手にしたんだろうが!」
「喜んでたくせに〜」
「何で俺が喜ぶんだよ! てか、お前絶対酔ってるだろ?」
「紗椰ちゃん遊びすぎ。野乃葉ちゃんの人格が崩壊中だよ」
私はそっと紗椰ちゃんの服を引っ張った。