第27話 琉生のバカ
「あれ? 野乃葉がいない」
突然、沙耶ちゃんが言い出した。
「さっきまで、私と一緒にいたのに」
「私が沙耶ちゃんたちに気付いた時にはいなかったよ」
私は涙を指で拭いながら言った。
野乃葉ちゃんどうしたんだろう? 私たちは野乃葉ちゃんを捜すことにした。この公園は結構広い。見つけるには時間がかかりそうだ。それに公園にいる保証はどこにもない。もう帰ってしまったとか。野乃葉ちゃんてこんな勝手な行動をする人じゃないし。だからこそ心配なのだが。どんなに時間がかかっても捜さなくては!
5分ほど探すと琉生の声がした。
「いたぞ! 噴水の前だ」
意外に早く見つかったわね。
野乃葉ちゃんは噴水前のベンチに座り一人で泣いていた。
「どうしたの? 野乃葉ちゃん」
私は急いで近寄ると優しく声をかけた。
「ごめんね〜・・・・」
「何で泣いてるの?」
「中園君と柚衣ちゃんが~こうなることはわかってたから〜、泣くつもりはなかったの〜。でも、中園君が告白するのを聞いてたら〜、涙があふれちゃって〜・・・・」
野乃葉ちゃんの瞳からは大粒の涙が溢れている。私はハンカチを野乃葉ちゃんに差し出した。『わかってたから』って‥‥。そこまで自分を犠牲にできるものなの? 野乃葉ちゃん、ごめん。私って迷惑ばかりかけてるよね。
「中園君も罪な男だね」
草壁君がからかうように言う。
「何人もの女を振ってきた奴に言われたくねえな」
私達は野乃葉ちゃんが泣きやむのを待って帰宅した。
その夜、私は机に向かって今日の出来事を頭の中で整理した。草壁君の『前向きに考えてみるよ』という言葉。琉生の意外な告白。一度に大きな展開が重なったため、私の頭はパニック状態になっている。どうしたらいいの?
草壁君は今でも一番好き。でも、琉生にあんな告白をされて私の気持ちが動かされたのも事実。琉生と付き合えば全てがうまくいくのかな? それでは野乃葉ちゃんが悲しむのか。今まで通り草壁君にプッシュし続けていけば、琉生が落ち込むだろうな。そしたら私と琉生が気まずくなっちゃうよ。もう、どうしたらいいの? そんな言葉が頭の中をぐるぐる回る。
私は机の上に置いてあるしっぽアクセサリーの尻尾を指でつつく。しっぽの尻尾って何なのよ? まあ、どうでもいいんだけど。あーあ、明日、草壁君にどんな顔して会えばいいんだろう。きっと琉生のことで誤解しているよね?
その時、窓に何かが当たった。私はゆっくりと立ち上がり窓を開ける。
「何? こんな時間に」
「今日はごめんな。突然変なこと言って」
琉生にしては小さな声だ。
「そうだよ。何の予告もなしにビックリだよ」
「つい焦っちまって・・・・」
「その焦りのおかげで草壁君には聞かれるは、野乃葉ちゃんは泣き出すは・・・・」
「でも、俺は本気だから。お前のこと本気で好きだから」
「琉生・・・・」
琉生はそっと窓を閉めた。もう、どうしてそんなことが平気で言えるのよ!
私がベッドに腰掛けるとスマホが鳴った。野乃葉ちゃんからだ。
「もしもし」
「柚衣ちゃん〜、今日はごめんね〜」
「どうして謝るの? 野乃葉ちゃんは何も悪いことしてないよ」
「最後に泣いちゃった〜」
「そんなこと気にしないで・・・・」
「柚衣ちゃんと〜、中園君の〜、邪魔しちゃうと大変だから〜」
「別に野乃葉ちゃんと琉生が付き合ってもいいんだよ」
「中園君は〜、柚衣ちゃんのことが大好きだよ〜」
「どうしてそんなこと分かるの?」
「昔から〜、分かってたよ〜」
思わぬ一言に私は驚いた。野乃葉ちゃんはいつからそう思ってたんだろう?
私は詳しくは聞かず、『おやすみ』を言って電話を切った。
中園琉生か〜。私が好きなのは草壁君なのに、どうして急に私の予定を狂わすのよ! 草壁君に告白して、草壁君と付き合って、幸せになって・・・・。
琉生も悪い人じゃないんだよね。それは口が悪くって、自分に素直になれなくて、自己中心的で、頭が悪くって・・・・。やっぱ碌な奴じゃないか。
琉生のバカ。もう少し早く言ってたら悩まずにすんだのに。草壁君のこと好きになっちゃってから言わないでよ!