第24話 誤解しないで草壁君
重箱の二段目にはたくさんのおにぎりが入っていた。
「これは5つずつ並んでないね」
「えへへ・・・・」
どう答えていいか分からない。
「いただきま〜す」
琉生が真っ先におにぎりに手を出す。あれだけの目に遭ってて、よく最初に取る気になるわね。激辛おにぎりの可能性もあるんだよ。
「美味しい。鮭のおにぎりだ」
あれ? どうやら、おにぎりに仕掛けはなさそうだ。琉生の様子を見て、みんなもおにぎりに手を出し始める。最後に草壁君がそーっと手を伸ばした。
この警戒ぶりって・・・・もしかして私の性格が疑われてるってこと? それはそうだよね。草壁君はこの料理を私が作ったと思ってるんだもん。私はそっと草壁君を見る。大丈夫まだ笑顔だ。でもこの笑顔が消える時が怖い。どうか変な物が入ってませんように。
「何これ? おにぎりから触角のようなものが出てきたわ!」
ひぇー!
「それは〜、きっと〜、イナゴの佃煮だよ〜」
「きゃー!」
沙耶ちゃんは思わずおにぎりを手から落とした。予想はしていたけどここまでするとは。野乃葉ちゃんて意外に怖い人かも?
「僕のは何だろう。らっきょかな?」
ああ〜! 遂に草壁君に変なものが当たってしまった〜。せっかくいい雰囲気になってきてたのに。
「ごめんなさい」
「謝らなくてもいいよ。楽しいし」
どこまで本気で言ってるんだろう? 本音を聞くのが怖い。
その後も。
「これってまさかの刺身?」
野乃葉ちゃん! 暖かいおにぎりに刺身を入れたら腐っちゃうかもだよ!
「あ! これは柿の種だね」
おにぎりにお菓子を入れるな! もうダメだわ草壁君がどんどん変なおにぎりを引いていく。
私達の食事はいよいよ重箱の三段目に達した。
「もうだいぶおなかも膨れたけど、三段目には何が入ってるの?」
沙耶ちゃんが私と野乃葉ちゃんの両方を見て言う。
「柚衣ちゃん。開けてみて〜」
野乃葉ちゃんが満面の笑みで私を見た。はっきり言ってこの笑顔が怖い。
「早く開けろよ」
人の気も知らないで琉生がせかす。それにしても何が入ってるんだろう。普通重箱ってみんな同じ大きさだよね。なんでこの重箱は三段目だけ大きいのよ? まさか本気で子豚の丸焼きなんて出てこないよね? 私は目を閉じて、そうっと重箱の二段目を持ち上げた。
「何これ!?」
「本気かよ!」
紗椰ちゃんと琉生の声を聞いて私は慌てて目を開ける。これってまさか!
「これは〜きっと〜子豚の丸焼きだよ〜」
「予想通りでどうするのよ!」
しまった。
「何だ? 今の?」
「あっ、いや何でもないの」
「だってお前、今自分の作った料理にツッコミを入れてたぞ」
「気にするな!」
私の迫力で琉生は黙った。琉生を黙らせるには強い口調で言うのが一番なのだ。
ん? 何このやっちゃった感は? 草壁君がきょとんとした顔で私を見ている。
「百瀬さんもきつい口調になる時があるんだね」
やっぱり。私は両手を振って必死に誤魔化したが後の祭りっぽさが漂っている。
結局、私達は死にそうになりながらも全ての料理を平らげるのだった。満腹感がある時に食べる子豚の丸焼きはまさに地獄だわ。