第22話 お化けさんありがとう
「何? 中園君て私のことが好きなの?」
紗椰ちゃんがからかったような口調で言った。
「そんなわけねえだろう! 分かったよ。3人で入るぞ」
沙耶ちゃんは琉生の左腕にしがみついた。
「何すんだよ!」
「嬉しいくせに」
「何でお前にしがみつかれて嬉しいんだよ!」
紗椰ちゃんそこまでする? 凄い実行力だよ。私のためにやってくれてるんだ。それとも本当に琉生のことが好きなのかな?
それを見て野乃葉ちゃんも慌てて反対側の腕にしがみついた。
「歩きにくいだろうが!」
「いいから、いいから。柚衣、百数えてから入ってきてね」
いいな。どうしてあんなに積極的になれるんだろう? ていうか男の人にしがみつくとか私には絶対できないよ。
私はそっと草壁君の腕を見る。やっぱり無理だわ。
「どうしたの? こういうの苦手?」
私は慌てて小さく頷いた。はしたないことを考えてたと思われたら大変だ。
「大丈夫さ。本物のお化けはいないから」
「でも・・・・」
「僕が付いてるから安心して」
え? え? ええーーー! なんか滅茶苦茶嬉しいんだけど。
「うん!」
私は大きな声で言った。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
中に入ると予想以上に暗かった。所々にお化けの置物がある。何だ、これくらいなら私でも大丈夫だよ。
バタン!
「きゃー!」
突然、目の前に幽霊が飛び出してきたので、私は思いっきり叫んでしまった。次は生暖かい空気が顔に当たる。真剣に怖いんですけど。
「大丈夫?」
草壁君が私の顔を覗き込むように見つめている。
「大丈夫・・・・じゃない・・・・かも」
そして背後にお化けがそうっと現れる。
「きゃー! きゃー!!」
もう嫌! どうしてお金払ってこんな怖い目に遭わなきゃいけないの?
私は草壁君の服の袖はそっと指でつまんだ。更にお化けどもがここぞとばかり追い打ちをかけてくる。遠くから『うおぉぉぉ』という声とともにお化けらしき物体がこちらに向かって走ってきた。
私は思わず固まってしまった。本物のお化けだったら固まってる場合じゃないよね?
「さあ、早く逃げないと捕まってしまうよ」
そう言うと草壁君は私の手を握って走り始めた。え? 嘘!
私は夢中で草壁君と走った。ああ、何という展開! 幸せってこういうことを言うんだ。ああ、お化け様ありがとう。もうお化けさんに捕まってもいいよ。なぜかもうお化けは怖くなくなっているから不思議だ。いっそのこともっと怖がって草壁君に抱きついちゃおうかな? なんてね。この幸せがいつまでも続けばいいのに。
あれ? 前方に明かりが見えるような。
「出口が見えたよ」
「ええーーー!!!」
「怖いお化けから逃げ切れて良かったね」
お化けども。もっと頑張れよ! ああ短い幸せだった。
私達がお化け屋敷から出ると3人が待っていた。
「随分仲良しになったみたいだね」
沙耶ちゃんの一言で、私は慌てて草壁君から手を放した。もったいないよ~。