第21話 お化け屋敷作戦
俯く私を見て草壁君が心配してくれる。
「どうしたんだい? 気分でも悪いの?」
現実を突き付けられたって平気よ。
「大丈夫! 私は負けないから!」
「???」
やがてコーヒーカップは動き出した。今度こそ失敗しないんだから。
そうだ! ハンドルを回さなきゃ!
「そんなに回しちゃ目が回るよ」
草壁君の優しい忠告も無視して一杯にまでハンドルを回す。これでよし!
うう、目が回るよ〜。私は目を瞑って下を向く。ただでさえ回転しているのに、コーヒーカップそのものまで回り始めたから、どう回っているのかさっぱり分からない。結局、気持ちが悪くって顔を上げられない私だった。
ああ、女の子らしく『きゃー』とも言えなかったよ。
「大丈夫だった?」
「目が回っちゃった。草壁君も目が回った?」
「僕は小学校の頃フィギュアスケートを習ってたからこういうのは大丈夫なんだ」
「あっ、そうなの」
私はふらつきながらコーヒーカップを降りた。なんて無駄な作戦なの?
「俺は二度とこんなハードな乗り物には乗らねえぞ!」
琉生もかなり回転したみたいね。あれ? 野乃葉ちゃんが腕にしがみついていない。
野乃葉ちゃんは出口とは別の方向に歩いていく。それどころじゃないのか。
「どうやらコーヒーカップは失敗のようね」
紗椰ちゃんが呟いている。
「何が失敗なんだよ」
すかさず琉生が沙耶ちゃんに聞いた。
「まあ、いいから」
適当にごまかす沙耶ちゃん。
「ねえ、二人が同じ思いをしなければ、吊り橋効果ってないのかな?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「たぶんね」
沙耶ちゃんの冷静な一言で私はさらに落ち込むことに。やっぱりそうだよね? でもよく考えたらこれって恐怖体験なのか?
「次は大丈夫だから」
「今度は何に乗るの?」
「お化け屋敷だよ」
え? 私、苦手なんだけど・・・・。
そう言えばここのお化け屋敷って怖いので有名なんだよね。私たちがお化け屋敷の前に着くと、その入り口はいかにもお化けが出そうな雰囲気で恐ろしい効果音まで鳴っている。
「みんなで入るより男女ペアで入りましょう?」
「僕は百瀬さんとペアが続いたから中園君と百瀬さんで」
「いや、ここはあみだくじで決めましょうよ」
沙耶ちゃんは鞄からあみだくじを取り出す。用意してたんだ。
「はい、誰からでもいいから引いて」
「男同士や女同士が当たったらどうするんだ?」
琉生が聞いた。
「その時は新しい世界に目覚めるだけだよ」
「よし、わかった。もし草壁と一緒になったら『キャー怖~い』と言って腕にしがみつくか」
琉生たら早くも新しい世界に目覚めようとしてるよ。妙なライバルができてしまった。
「はい、引いた、引いた」
沙耶ちゃんはくじ引きを持ってみんなのところをまわる。
「同じ番号の人とペアね」
沙耶ちゃんはあみだくじを見て、
「ちょっと線が少ないから付け足すね」
と言って2本の線を付け足した。
「はい、草壁君2番、中園君1番、私1番、野乃葉3番、柚衣2番ね」
「また、僕と百瀬さんだね」
これを聞いて琉生は考える。
『まさか、どこを引いたときどこに線を引けばいいか考えてあったというのか? 恐るべし夏上沙耶!』
さっきからもじもじしていた野乃葉ちゃんが小さな声で聞いた。
「もしかして〜、私って一人で入るの〜?」
「そうだよ」
沙耶ちゃんがきっぱりと答える。
「そんなの絶対に無理〜」
「仕方ないでしょ。くじ引きで決めたんだから」
「でも〜、無理なの〜」
「だったら僕らと一緒に入るかい?」
草壁君の優しい余計な一言がまたまた炸裂する。
「わかったわよ。野乃葉は私たちと入ろう。いいでしょ。中園君」
「お、俺は二人の方がいいような・・・・」
野乃葉ちゃんを警戒しているのか。今の野乃葉ちゃんと一緒にお化け屋敷に入るのは危険すぎると思ったのね。わかる気がする。