第2話 ラブレター作戦
次の日。私たち3人はいつものように恋話で盛り上がりながら登校した。教室に入ると沙耶ちゃんがニヤニヤしながら私のところにやって来る。
「はい、プレゼント」
沙耶ちゃんに渡されたのは可愛いレターセット。
「何?」
「ラブレターだよ。 あたしが昨日、 柚衣のために書いたの」
「ラ、ラブレターって?」
昨日の帰宅時の嫌な予感が蘇ってくる。
「まあ、いいから読んでみて」
私は言われるがままに手紙を読み出す。
『ああ、愛しの愛しの草壁裕哉様。 あなたのことを思うと私は夜も眠れません・・・』
「何これ!?」
「ラブレター」
私はおもむろに沙耶ちゃんの力作を閉じて叫んだ。
「いつの時代のラブレターよ!!」
沙耶ちゃんは満面の笑みで私から手紙を取り上げた。
「あっ!」
「じゃあ、これを」
「これを何?」
手紙を封筒に入れ走り出した沙耶ちゃんを私は未だかつてないスピードで追いかける。
「冗談だよね?」
下駄箱の近くでようやく追いつくと私は息を切らせて言った。
「どうして?」
沙耶ちゃんは息も切らさず笑顔で答える。なんでこんなに体力があるのよ!
「そんなラブレター出したら絶対振られちゃうじゃない!」
「えー、 せっかく昨夜遅くまで時間をかけて書いたのにー」
「それは嬉しいけど・・・でも絶対ダメ!」
沙耶ちゃんの口元がゆるんでいるのを見ると冗談でやっていることは分かるが、沙耶ちゃんの性格なら本当にやりかねない・・・・。
「ほら・・・・ラブレターは自分で書かなきゃ気持ちが伝わらないよね?」
「そっかあ」
咄嗟に出た言葉にしては説得力がある。
「そうだね。じゃあ、放課後までに書いておいてね」
沙耶ちゃんは新しい便箋と封筒を私に渡した。絶対に新しい封筒を用意してあったよね。あたしの行動を予測してあったってこと?
「ええ~! そんなの無理だよ!!」
あたしは全力で否定する。ラブレターなんて書かされたら大変だ。
「もし、書けなかったらこれを渡そうね」
「え? ちょっと待ってよ!」
どうしよう・・・・。これって結構なピンチなのでは?
私は授業中も必死でラブレターを書いた。真面目で通っている私にはかなりの冒険なのだが今はそんなことは言ってられない。草壁君に振られたら私の一生はもう終わり!
しかし、私は影響を受けやすい性格だ。国語の時間には文章が五七調になり、社会の
時間には織田信長が文中に登場し、理科の時間には三角フラスコの説明をしてしまった。
駄目だ! 私って文才がない!!
仕方なく、
「大切なお話がありますので、よろしかったらご連絡ください」
とだけ書いてメアドを付けておいた。これはラブレターと言うよりは連絡メモだよね?
そして放課後。
「ゆ〜い〜、書けた?」
「書けたよ」
放課後になると沙耶ちゃんと野乃葉ちゃんが私の教室にやってきた。
「じゃあ、見せて」
沙耶ちゃんは当然のように手を出してくる。
「い、嫌!」
「どーして〜?」
野乃葉ちゃんまで見たがってる!
「もう、封しちゃったからムリ!」
と言って私は慌てて封筒に糊を付ける。
「何だ、ここに下書きがあるじゃん」
「い?」
沙耶ちゃんは私の机の中に手を伸ばしてきた。
「ダメ~!!! 絶対にダメ!」
ガルルルル~!!!!!
ここで織田信長や三角フラスコを見せるわけにはいかない。私の必死の形相に二人は諦めたようで、
「じゃあ、出しに行こうか」
と、沙耶ちゃんが当然のように提案した。
「出しに行くってポストに? これ住所書いてないよ」
「ポストのようなもの」
「???」
沙耶ちゃんは私の手を引っ張って歩き出した。