第19話 大好きな彼の腕にしがみつけ!
私は顔を真っ赤にして逃げるに逃げられない列に並び続けている。
「あのお姉ちゃん、さっきこのお兄ちゃんに告白したんだよ」
「えー、こんな場所で告白なんて私にはムリ!」
はっきり言ってこんな時ほど時間の流れが遅い。1分が10年以上に感じるレベルだ。
やっとの事でジェットコースターに乗る順番が回ってきた。この時をどれほど待ちわびていたか。
「いい? 最初の上り坂から抱きついちゃダメ。自然に抱きつきなさい」
沙耶ちゃんがそっとアドバイスをくれる。
そうだよね。不自然に抱きついちゃダメだよね。怖いと思ったところでなきゃ。そうだ最初の落ちるところで抱きつこうっと。それなら自然だよきっと。
そして、私はうまく草壁君の横に座ることができた。と言っても紗椰ちゃんが上手にそう仕向けてくれたんだけど。因みに琉生の横は野乃葉ちゃんが座ったようだが、今の私にはそんな情報は関係ない。今は草壁君のがっしりとした腕しか見えない。
『ピー』
ジェットコースターが動き出す。私はしっかりと目の前の棒を握り、歯を食いしばる。どんなに怖いジェットコースターでも草壁君が隣にいるから大丈夫だもん。
やがてジェットコースターはかなりの角度で上り始めた。何もこんな角度で上がる必要ないじゃん。しかもこのゆっくりなスピードは何なの? 緊張がどんどんと高まる一方だし。やがて私の歯はガチガチと鳴り始める。
「百瀬さん、大丈夫?」
草壁君の優しい一言も今の私には聞こえない。いったいこの坂いつまで続くの? 緊張感のあまり上り坂が永遠に続くような気がしてくる。
やがて頂上に来ると今までのゆっくりしたスピードとは全く違うスピードで下り始める。
「キャー!!!」
最初の落ちるところだ! よし計画通り草壁君に。
と思った矢先に突然の急カーブ!
「ギャー!」
ぼ、棒から手が離せない!
これが最後の記憶だった。
「柚衣、大丈夫?」
沙耶ちゃんが私を揺する。
「ダメだ。完全に固まってるよ」
草壁君が冷静に言う。
「いい加減に目を覚ましなさい!」
沙耶ちゃんは私の頬を思いっきり叩いた。
「キャッ」
目を覚ました私は慌てて抱きつく。
「私に抱きついてどうすんだよ!」
「どうやら無事なようだね」
草壁君がホッとした様子で私を見つめた。
ああ、やってしまった。せっかくの大チャンスだったのに。草壁君にかっこ悪いところを見られちゃった。しかも「キャー」ならまだ可愛いかったのに「ギャー」と叫んでしまったし。もうダメだわ・・・・。
「あのう、そろそろ腕に抱きつくのやめてくれませんか?」
琉生が珍しく丁寧な言葉を使っている。見ると野乃葉ちゃんが琉生の腕にしがみついたままだ。
「だって〜、ジェットコースターが怖すぎて〜」
「あんたジェットコースター好きなんじゃないの?」
紗椰ちゃんが何気ない疑問を口にした。確かにそう言ってたよね。
「ジェットコースター好きだよ〜。でも〜今日のは怖すぎて〜」
「分かったから離れろよ。春野」
「まだ怖いの〜。もうちょっとだけ〜」
?????
「野乃葉、もしかして中園君が好きなの?」
「そんな訳あるかよ!」
「好きだよ〜」
「「「え!?」」」
私たちは一斉に声を上げた。