第15話 いまさか琉生本当に?
暫くすると、窓にこつんと何かが当たる音がした。琉生が私を呼ぶ時の合図だ。別にスマホの番号知ってるんだからこんな呼び方しなくてもいいのに。
「中園君だよ〜」
野乃葉ちゃんがゆっくりと窓を開ける。
「今、草壁に電話したら、友達としてならいいよってことだ。もし、熱が下がってたら今度の日曜日にみんなでどこかに行こうだって」
「ええーーー! 本当に!?」
私は布団から飛び出すと窓際へと駆け寄ってぴょんぴょんと跳ねながら体中で喜びを表現した。
「柚衣って昔と随分変わったよな」
「どういうこと?」
「男を好きになって飛び跳ねるとか、仮面ライダーになるって言ってた時代とは大違いだぜ」
そうだった琉生を暗殺するんだった。でも今回の功績に免じて特別配慮で許してあげるよう。
「中園君ありがとうね」
沙耶ちゃんはすっと立ち上がり琉生にお礼を言った。
「行くのは5人でいいんだな?」
「そうね。でもどうしてそんなことを聞くの?」
沙耶ちゃんが落ち着いた口調で聞く。
「いや、普通は2対2の4人かなって思ったから」
「そんなこと言ったら野乃葉がかわいそうでしょ?」
「それって〜、どういう意味〜」
「・・・・夏上沙耶。只者じゃねえな」
琉生はそうボソッと言い残すと窓を閉めた。
「それにしても琉生がよく承知したわね?」
「本当だね~」
私と野乃葉ちゃんはお互いに首を傾げていった。
「ふふふ私は何となくわかった気がする」
紗椰ちゃんが不敵な笑みを浮かべながら話す。
「え? 何? 教えて!」
「私が『柚衣のことが好きなの?』って聞いた後OKしたよね? これって本気で柚衣のことが好きなんじゃない?」
「どうしてそうなるのよ!」
「図星を突かれて慌てて誤魔化そうとしてたのよ」
「そんなわけないよ。琉生が私のこと好きだってありえないわ」
私はため息をつきながら言った。
「まあそのうちわかることだし、後は柚衣の熱次第だよ」
「わかった。頑張って熱を下げる! うう!」
私はおでこに全神経を集中させて唸る。
「38度9分か〜。熱上がってるよ〜」
結局、次の日も休んでしまった。これって結構なピンチなのでは? 私は布団を被って独り言を言う。明日は土曜日だ。日曜日のデートまでには平熱にしなければいけないというのに。本当に私って運がないよね。
コツン。え? 琉生?
「柚衣、大丈夫か?」
「琉生、どうしたの?」
私は窓辺へと移動しながら聞いた。
「先生にプリントとか持ってけって言われた」
「どうして琉生が? クラス違うのに」
「何でも夏上が草壁に持って行かそうとしたらしいが用事があるから無理だって俺に回ってきたんだ」
紗椰ちゃん、素晴らしい計画だったよ!
「とにかく投げるぞ」
「ちょっと待ってよ! プリントなんか投げたってこちらには届かないよ!」
「大丈夫、俺の鞄に入れて投げるから。ほれ」
「キャー! いきなり鞄を投げるな! 危ないでしょ!」
私は部屋に転がり込んできた琉生の鞄を開けるとプリントを取り出した。
「あれ? この鞄に付いてるキーホルダーって」
「こら!! 見るな! さっさとこっちに投げ返せ!」
「このキーホルダーに入ってる写真。私だよね?」
「いいから返せ!」
「まさか琉生って本当に私のことが好きなの?」
「そんなわけあるか!」
「でも、好きじゃないならどうして写真なんか持ってるのよ?」
「小さい時に付けたのを取り忘れてただけだ!」
私は半信半疑ながら琉生に鞄を返し再び布団に入った。
琉生は昔に付けたって言ってたけどあの鞄て高校の鞄だよね? じゃあ、付けたのは高校に入ってからってこと? しかも誰にも見られないように鞄の内側に入れてた。まさか本当に私のことが好きなのかな? 今までそんなこと一言も聞いてないけど。どうして急に? 姉弟のような琉生にそんなこと言われてもピンとこないよ。いつから好きって思ってたのかな? もしずっとだったら私より琉生の方が一途な性格だよね。まあ、好きって言われたわけじゃなし、琉生の言う通りかも知れないから今は深く考えないようにしよう。あまり複雑に考えると熱が上がりそうだもん。日曜日までに熱が下がらなければ私は終わってしまうのだ! なんとしても治さなきゃ! 私は無理矢理目を閉じて眠ることにした。